敗れたカケラ集いて
翌朝、身支度を整えグレイとネロは食堂に降りてくる。
「よう、嬢ちゃん達。よく眠れたか?」
『うん』「ぐっすりにゃ」
バルの食事を待っている間グレイはキョロキョロと何かを探すような仕草をする。
「どうしたの?」
『カシムはどこにいるのかなって』
「アイツならもうここを飛び出していったぞ、日の出前にな」
バルは呆れたような顔をしながら朝食をグレイたちの前に置く。
「いっただっきまーす!」
『いただきます』
目玉焼きとベーコン、パンそして温かい茶色いスープ。朝の動きはじめにはぴったりな量だ。
「これは……!」
何回も冷ましてスープを啜ったネロは耳と尻尾をピンッと伸ばして何かに気がついた様子を見せる。それを見てグレイも同じように何回か冷やして飲んでみる。
塩っぱいようでしかし、深みのある味、更には風味もある物を感じさせる。
「気が付いたか。これはな、昨日食べた魚の食べられない部分からとった出汁を使ってる。朝に飲めば元気が湧いてくるだろう?」
「やっぱり!美味しいにゃ〜〜〜」
スープ以外の朝食を食べ終わったネロはスープをチロチロと舐めるように飲んでいく。その様子をじーっと見つめるグレイに流石に恥ずかしくなったのか「あんまり見ないでにゃ……恥ずかしい」と赤面しつつだが継続する。
ネロが飲み終わり食器を片しながらカシムがどこにいったのかグレイは尋ねる。
「市場の奥の方にアイツの倉庫がある。きっとそこだろ」
『ありがとう』
「礼はいい。それより、無理はすんなよ」
足をさすりながらバルはグレイ達を見送った。
◇◇◇
昨日の叫びで市場でも顔が知られたネロは度々「猫のねぇちゃん」と呼ばれたった1日で親しまれたようだった。
呼ばれたついでに質問する。
「カシムってどこにいるかわかる?」
「それなら市場の一番端だな、なんだアイツの連れかぁ。あのやんちゃ坊主にも春がきたか」
「そんなんじゃないにゃ」
市場の端まで来た二人は倉庫から出てきたカシムと鉢合わせた。
「お、来たな」
「来たな、じゃない!どこに行くのか教えないで勝手に行くんじゃにゃい!」
「悪りぃ悪りぃ」
なはは、と笑うカシムにもういいにゃとネロは諦める。
『その中に船があるの?』
「おう、まぁ見てからのお楽しみってな。中に入れるのはお前達が初めてだ」
カシムが出てきた扉から中に入ると階段になっており下へと続いていた。降りるたびにさざなみの音が反響してよく聞こえるようになっていく。
そして、階段を下り切った先にはツギハギだらけの無骨な船が海水の上に浮かんでいた。
「これが俺の作った船だ!!」
自信満々に鼻息混じりで腕組みするカシムを他所にグレイ達女子陣は反応が良くない。
「こ、れは……」
おそらく船の墓場にあった廃材を用いたのだろう。色は統一されておらず所々に傷が目立つ。素人仕事なのは船をよく知らないグレイでもわかるほどだ。
鉄で出来ているため一応防御力はありそうだがカシムのツギハギ部分が弱点となっている。
今になってカシムの泥舟に乗り込んでいる事に気がついた。
『沈まない?』
「問題ねぇ!今だってちゃんと浮かんでるだろうが」
まぁ確かに、とグレイは納得し乗り込む。だが、ネロはまだ噛み付く。
「いやいや、沈まないにしてもまさか手漕ぎにゃ!?」
「そんなわけねぇだろ、いつの時代の話をしてんだ」
呆れた様子で取り敢えず乗り込め、と促すカシムに渋々ネロは乗り込む。
そうして全員乗り込んだことを確認したカシムは船尾に埋め込まれた緑色の宝石に手をかざす。
「それってまさか」
宝石の正体に気がついたネロだがそれを言う前に船の後方に発生した風によって船は急発進した。
「し、死ぬかと思ったにゃ………」
寄りかかってスライムのようにぐてーっとするネロをグレイは介抱する。
『あの宝石は何?物凄い風が出てきたみたいだった』
「アレは魔封石って奴だ。使えば貴族様の魔法が飛び出すって代物さ」
魔封石をまじまじと見るグレイに回復したネロが近づいてくる。
「だからってそれを動力にしてるとか馬鹿にゃ。アホにゃ」
やれやれという感じに両手を上げて首を振るネロ。確かに彼女の言う通りかなり効率の悪い燃料だ。例えるならジャンプすれば届くような段差をわざわざロケットを用意して飛び越えるようなものだ。
「バカとかアホとか言うな!仕方ねぇんだよ、帆船とか手漕ぎだとサハギン達に追いつかれるからな」
「だからってこれはにゃい」
「一応、改良して何度か使えるようにはなってんだ。帰りの分もあるしな」
「まぁ良いにゃ、それで?リバイアサンはどこにいるにゃ」
話が平行線になる前に打ち切ったネロは海を見渡す。一面真っ青で大きな波一つない様子は魔獣がいるとは思えないほどだ。
「ここから少し北に行った場所の海中遺跡の中だ。その前に」
カシムは前に投げつけてきた槍を同じような形に彫られた溝に嵌め込む。
『何してるの?』
「サハギン避け。実は奴ら目がかなり悪いんだ。ほぼ見えてない。音や感触で判断してるから音さえ出さなきゃ意外とバレねぇ」
「それとこれに何の関係があるにゃ」
よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにニィ、と口角を上げてカシムは笑う。
「この槍は奴らのものでアイツらと同じ魔力の残り香みてぇなのが残ってる。だからこれを船底と甲板に取り付けると」
『仲間だと勘違いする?』
「正解!」
仕組みを理解したところでカシムは船に取り付けられた舵を取る。向かうは海龍の潜む海中遺跡だ。




