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ルーン

 心地よい隙間風に吹かれてグレイは目を覚ました。縮こまって寝たせいなのか身体が硬くなっている事を除けば健康そうだ。


 目を擦りながら外を見る。雲一つない快晴で外で本を読むには最適な日だ。

 ただ、太陽が東に無い。

 グレイは朝の凍えるような隙間風で起きる為早起きだ。その為、起きて太陽を見るまでが習慣になっていた。


 驚いて急いで立ち上がった瞬間、何かに足を取られて本棚にぶつかってしまう。

 何に足を取られたのか確認するとこの小屋にはない毛布が足元に落ちていた。

 何故こんな物があるのだろう?、と考えるが結局思いつかなかったので諦めて外に出る。


 そうして太陽が自分の頭上にいることに気がついた。昼まで眠ってしまった原因はあの毛布だろう。冷たい隙間風も毛布には敵わなかったようだ。


 中に戻り本を読む為に毛布を畳むグレイは本が一冊床に落ちていることに気がついた。


 ぶつかった時に本棚から落ちたのだろうとしゃがんで手に取る。今日はこの本にしよう、と考えたがこの本に見覚えがない。


 かなり古そうな本で装飾はボロボロ。紙は日焼けしていないが新品というには憚られる。

 この小屋にありそうな見た目ではあるものの小屋にある本は暗記するほどに読み込んでいるグレイが初めて見る本だった。


 何処から?なんで?誰の?

 そんな考えは一瞬よぎりはしたもののどうでも良いと彼方へと消え去った。

 プレゼントを貰った子供のように目を輝かせ本を持って外に出る。

 心地の良い風が顔を撫で灰色の髪がふわりとたなびいた。


 本を持ち小屋の前に置いてある椅子に腰掛ける。井戸の辺りは屋敷からも目につく為ライルなどに絡まれるがここには誰も来ないので気にすることなく本に集中出来る。


 ワクワクしながら本を開いたグレイは他の本とはまるで違うことに驚いた。

 いつも読んでいる本とは言語が違ったのだ。人間だけでなく他の亜人種も含めた共通語であるならグレイは読むことができる。

 

 しかし、この本に書かれているのはまるで理解できない文字の並び。しかも圧倒的に文字が少ない。


 四苦八苦して何とか読み解こうとしたものの1文字も理解ができなかった。

 が、そこで諦めるほどグレイの本に対する興味は軽くない。


 どうにか読めないか頭上にあった太陽が姿を隠すまで何度も何度も全ての頁を読み漁った。


 どんな話が書いてあるのだろう?英雄譚だろうか、それとも御伽噺のような摩訶不思議な世界の話だろうかと心躍らせながら驚くべき集中力を発揮した。

 暗くなり本の文字が見えづらくなくなってようやく本の世界から戻ってきたグレイは数分しか経ってないのに何故暗く?と思うくらい集中していた。


 小屋の中に戻り毛布を取って再び椅子に戻る。今日は雲一つない為月明かりでまだ文字が見えるからだ。

 しかし、毛布があるとはいえ夜の外は寒い。魔力を身体に纏って寒さを軽減。

 もう少し頑張るぞ!と息巻いてもう一度最初の頁に戻る。


 この本は基本大きな文字と少ない文章が書かれているだけの本だ。後ろの頁になるにつれて文章の量は増えるもののグレイがいつも読んでいるような本とは形式が全く違う。

 あえて言うなら図鑑に近い。


 全く読めない文章を何とか読みたいのだが書いてある文字が知らない言語のためどうしようもなかった。

 それでも諦めきれなくてつい、大きな文字の方をなぞる。

 

 その瞬間、文字が浮かんだ。


 驚いてグレイは本を落としてしまう。それもそのはず、文字が光るように浮かんだと思ったら《《燃えたの》》だから。


 その火の勢いは強く本にまで燃え移ってしまった為に手を離してしまったのだ。

 どうして燃えてしまったのか呆然と見守るしかできなかったグレイ。しかし、燃え尽きてしまうかと思った本は逆に光り始めグレイの手元に火を振り払いながら戻ってきた。


 何事かと思いながら最初の頁を開く。


 読める。読める。読める!


 まるで鍵でもかかっていたのかと思うほどに急に読めるようになった。

 グレイの心には初めて感じる誇らしいような誰かにこの事を伝えたいような感情が流れた。人はこれを達成感とでも言うのだろうがグレイはそれを知らない。


 そうして気になったのが本の表紙だ。元々中身もそうだが表紙も読めなかったのだ。

 本を閉じタイトルを見る。


魔法文字ルーンの書』


 それがこの本のタイトルであり今後グレイの人生を変える一冊となった。

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