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共闘戦線

「待てよ!」


 グレイはネロを抱き抱えながらダッシュで逃げる。根掘り葉掘り聞かれると面倒だからだ。逃げ切れさえすれば少年一人の証言など「そんなわけないだろう」この一言で一蹴できる。


 だが、意外にも振り切れない。ルーンを使っているのにも関わらずカシムが付いて来れている。

 グレイとは違いカシムはこの町で育った。その為、移動が無駄の無いコースどりをしている。


(ルーンの事を聞かれると面倒。まだこの町を見たい)


 そろそろネロを担ぐ腕が痺れてきた。軽いにしても華奢なグレイの腕では限界はすぐにやってくる。


 走る二人の前にT字路が現れる。グレイはここだと速度を上げる。


「速っ!?」


 一瞬だがグレイの姿を見失ったカシムは遅れてT字路を曲がる。だが、グレイたちの姿が見当たらない。

 

 キョロキョロと見渡すカシムの足元、曲がってすぐの場所ではグレイがネロの口を抑えてカシムが他の場所に行くのを待っていた。


「〜〜〜〜〜〜〜!」

『少し静かに』


 かつてジークに見破られた姿隠しのルーンを使って隠れている為一応喋ってもバレはしない。だが、念には念を、というやつだ。ジークに見破られた以上見つかるのもあり得るからだ。


 息を殺しじっとカシムがどこかに移動するのを静かに見守る。

 

「どこ行ったんだ?」


 カシムはグレイたちが潜んでいる場所あたりを念入りに探すが見当たらない。

 しばらくしてカシムは別の道を走っていく。


「ぷはぁ〜〜〜いきなり抱っこされてびっくりした」

『宿屋に行こう』


 カシムを捲いたグレイは海龍の宿屋に戻る。店番にはバルがその巨躯を押しこむようにして座っていた。


「よぉグレイの嬢ちゃん、市場はどうだった?」

『楽しかった』

「そうかそうか!この街に来たら市場は観光で欠かせないからな。腹減ったろ、夕飯食べるか?」


 ネロは夕飯という言葉に反応し一縷の望みをかけてバルに聞く。


「魚!魚あるかにゃ?」

「あるぞ?」

「やったー!」


 ネロは物凄く嬉しかったのか天井にぶつかるのではないかというくらい飛び上がった。


「嬢ちゃん名前は?」

「ネロにゃ」

「よーし待ってろネロの嬢ちゃん。とびっきりの魚料理食わせてやる」


 そう言ってバルは食堂にある厨房へと消えていった。


「絶対に美味しいにゃ。あのおっさんから物凄い魚の匂いがしたにゃ。きっとかなりの量の魚を捌いてきたはず」


 評論家のようにテーブルに座りながらネロは夕飯の期待をグレイに話す。そわそわしているネロは心ここに在らずという様子で魚のことしか話さない。カシムのことやサハギンの事は全く気にもしていないようだ。


「海鮮丼だ。マレーアの海の幸がふんだんに盛られた逸品だぞ」

「美味しそう!いっただっきまーす」


 ネロは出された海鮮丼に夢中で気が付かなかった。だが、グレイは宿屋に入ってきた人物に気がついた。


「まさかうちに泊まってたとはな」

『完全に忘れてた……』


 ここ、海龍の宿屋はカシムの実家でありバルの息子だ。当然、ここにいるのは自然な流れだ。逃げる方法を間違えたと判断したグレイは観念して大人しくバルが作った海鮮丼を食べる。

 

「なぁ美味いか?」

「当然にゃ!脂が乗った身に口に入れた瞬間溶けるような食感、美味しく無いわけがない!それにしてもどこから魚を手に入れたにゃ?市場にも魚はなかったけど」

「うちは魚を特製タレに漬けて保存してるからまだ魚に余裕がある。でもそれも少しずつ減っていってるんだ」


 深刻そうな顔をするカシムにネロの箸が止まる。


「奴が現れてから漁どこではなくなった。ストックで誤魔化しているがそれで魚は最後だ」

「何ですと!」

「だから頼む。お前たちの力を貸してくれ。俺じゃサハギンにすら勝てるかどうか……」


 グレイはカシムが魔法について話すために追いかけてきていたわけでは無い事を知る。だが、あまりグレイはリバイアサン討伐に乗り気ではなかった。


 ここでリバイアサンと大立ち回りをすればまたホリックの街の二の舞だからだ。


「で、そのリバイアサンはどこにいるにゃ!今すぐ倒してやる!」

「奴は海の底にある海底遺跡を根城にしてる。サハギンが周りを守ってるから俺たち漁師は近づけないんだ」


 海の中かぁ〜〜、と耳を垂らしながら昂ったテンションが急速落下していく。  

 だが、それとは対照的にグレイのテンションは爆上がりした。


『遺跡ってどこ?どんな建物?大きさは?形は?』

「急に食いついたな……かなりデケェよ。あのリバイアサンが丸々入るくらいだからな」


 グレイはその話に目を輝かせる。まさに探検。古の文明の遺物、それを自分の目で見たいとグレイは思った。


『協力してもいい。私なら海の中でも戦えるように出来る』


「本当か!やっ『ただし、私についてのことは他言しない事。わかった?』


「わかった、誰にも話さねぇ。じゃあ明日俺の船で倒しに行こうぜ」

「行くにゃ!」


 グレイたちは明日、カシムが密かに作っていた船を使いリバイアサン討伐に向かう事にした。


 その夜、ネロと同室になったグレイは彼女と話をした。


『私の力のこと、知ってたでしょ』

「まぁね、ただ隠したいみたいだったから触れないでおこうかにゃって」

『なんで?』

「グレイがいい奴だから。強い奴はみんな力を誇示するにゃ。そんな奴らが嫌いなの。強さっていうのは見せつけるためのものじゃ無いはずにゃ」


 まぁ、ご飯のお礼っていうのもあるけどにゃ、とおどけた様子で笑うネロを見てグレイは警戒を解く。


「そういえばグレイの使う文字?アレどこかで見たことあった気がするんにゃよねー」

『本当に!?』


(ネロがルーンを見たことあるならもしかしたら新しいルーンが見つかるかも)


「思い出したらまた言うにゃ」



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