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獣人の少女

 起きたら目の前にいた変な物体を見たグレイは取り敢えず距離を取った。ルーンを含む魔法使いの弱点は近距離に弱い事だからだ。


 五メートルくらい下がってルーンを起動し空中に待機させておく。そうして安全を確保した彼女は捕まっているものを注視する。


 招き猫のような体勢でおたまを持っているこの変な物体は盗賊には見えない。グレイの基準は毛むくじゃらで臭い男だがこの捕まっているのは細身でおそらく女。


 そこまで観察したグレイはせっかく距離を取ったのにふらふらと捕まえた女に近づいていく。


(この耳は何?作り物?)


 グレイは捕まっている者の頭に猫の耳がついている事に気がついた。ちょっと興味が湧いた彼女は顔に巻き付いている蔓を解いてよく見て見る。


 蔓が無くなって露わになった顔は黒い髪に猫の耳、そしてグレイと同じくらいの歳の女の子だった。スースーと寝息を立てて眠っている。


(作り物か……?それとも)


 グレイはくるくると彼女の周りを観察する。するとお尻辺りの蔓の間から黒い尻尾のような物も飛び出ている事に気がついた。


 好奇心が抑えられないグレイは遂に、頭にある猫耳に手で触れた。


「んっ……」


(柔らかい。それに本物そっくりの感触と温かさ。ずっと触っていたくなる中毒性………本物?)


「うみゅ……んん、ぅ」



 ホリックの街でタマを撫でていたグレイには分かる。コレは本物だと。

 ならば確かめるしかない。尻尾も本物なのかを。


 後ろに回り込んだグレイはしなだれた黒い尻尾をまるで天使の羽のように優しく撫で回す。その秘技のせいなのか尻尾がビクッとなったかと思えばグレイの腕に絡みつこうとしてくる。


 しかし、そんな事関係ないと更に観察は継続される。付け根から先っぽまで一気に撫でたり、付け根を重点的に撫でまくったり、先っぽの部分のみ撫でたりとやりたい放題だった。


 途中、「んんっ!?」とか「ふみゅ〜」と言ったら声が聞こえて来た気がしたが寝息が聞こえてくる為気のせいだとグレイは続行する。


(もう一度撫でたら離れよう)


 グレイが尻尾に触れたその時、


「い、良い加減にするにゃ〜ッ!これ以上されたらお嫁に行けにゃくなる!」


 招き猫が動いた。

 ゴロゴロと身体を回転させて尻尾を抱きしめた彼女はグレイから距離を取る。


「さっきから我慢してればやりたい放題!…………き、気持ちよかったけど!乙女の尻尾はみだらに他人に触れさせないんだよ!?」


『取り敢えずおたま返して』

「あ、はい」


 おたまを取り返したグレイは何故ここにいるのかを問い詰める。


「い、いやぁ〜〜通りすがったら捕まっただけたよ?うん」

『嘘。私に敵意がないと捕まらない。それにおたま持ってたよね?』

「うぐっ」


 図星を突かれて耳が垂れる様子を見て本物なんだーと思うグレイにまだ逃げるチャンスがあると思った少女は提案した。


「そうだ、尻尾触りたいよね?この蔓取ってくれたらいくらでも触らせてあげる」

『…‥逃げない?』

「もちろん!何でも言う事聞いてあげるにゃ」


 グレイが蔓を解除すると、


「そんなわけないにゃ!逃げる!」


 シュタッとクラウチングスタートの体勢になった少女はグレイに騙されたなぁといった顔で煽る。


 だが、蔓は解除したが捕縛のルーンを解除したとは言っていない。


「にゃにゃ!?またコレー!?」


 今度は四つん這いの体勢で蔓に拘束された少女の間抜けな事。


『で、正直な事言う?』

「言うからこの体制だけは許してして〜〜!」


 すでに逃げられない事を理解した少女は今度は普通に座って何故捕まっていたのか話した。


「実は南にある港町に向かってたの。あそこ魚が美味いからにゃ。で、お腹いっぱい食べるためにお腹を空かせていこうと思ったのにゃ。そしたら」

『空腹で倒れそうになった?』

「よくわかるにゃ!?で、もうダメにゃーと思ってたら美味しそうな鍋の前で寝てるグレイ(世間知らず)がいたからつい」


 てへへ、と笑う少女にはぁ、とため息をついたグレイは自分を襲ったわけじゃないことを理解しひとまず警戒を解いた。

 となれば後は興味だけが残る。


『その耳は本物?』

「ん?もしかして獣人を知らにゃい?」

『獣……人?』


 当たり前の常識のように驚く少女にグレイは尋ねる。


『その耳と尻尾は生まれつき?獣人って何?』

「獣人は私みたいな獣の特徴がある種族にゃ。尻尾がある奴もない奴もいるけど」


 グレイは自分の知らない種族がある事を知り目を輝かせながら更に聞き出そうと詰め寄る。


「……………………何この子、ちょっと怖いにゃ」


 若干引き気味な少女はグレイに「特に他にはないにゃ」と伝える。だが、グレイは諦めない。まだ隠しているはずだ、と今度は少女の首をフェザータッチでくすぐる。


「ちょやめっゴロゴロゴロゴロんみゃ〜〜じゃないッ止めるにゃ!危うく昇天するところだった」

『話す気になった?』

「だから何もないの!だからその手を下ろすにゃ!」


 グレイはわきわきしている手を残念そうに下ろす。


「そういえば名前、聞いてなかった。私はネロにゃ。お前は?」

『グレイ』

「ならグレイ、一緒に港町まで行く?多分目的地一緒だと思うし」

『うん、もう少しモフる(吐かせる)

「だからやめろにゃ!まぁよろしく」


 こうして新たに同行者が増えたグレイは港町へと旅を再開した。

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