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旅の準備

 自分に差す木漏れ日を浴びてグレイは目を覚ます。いつの間にかテントの中で寝ていたことに驚きつつ外に出ようとしたところ、「ぐえっ」と言う声と共に足に硬い感触がした。

 よく見ると毛布に包まるジークがいた。


 『ごめん』と伝えてグレイはテントを出る。すると良い匂いが漂ってきて朝食が作られている事に気がつく。


「あ、おはようグレイ。よく眠れた?」

『うん』


 見張りを交代した記憶がないので最後まで役目を果たせなかったことを詫びるグレイにレイラは温めたスープと硬いパンを渡しながら「大丈夫、ちゃんとジークがやってくれたから」と伝えた。


 本来、グレイがする分の見張りもジークがこなした為にテントで熟睡していたのだ。


 そんなジークもグレイ達が朝食を食べている途中に腹をさすりながら出てきた。

 グレイがよそってジークにスープを渡す。「お、ありがとなー」と言いながら一気に飲み込んだ。



 テントを解体し、街に戻る準備を完了し馬に乗り込む。今度はジークも馬に乗ることになった。グレイとジーク、レイラとライラで馬に乗る。


 小さな身体に覆い被さるような体勢で馬を走らせ森を抜けたところでジークはグレイに手綱を預けた。

 グレイは苦戦するがそこは何回も冒険者を乗せてきたベテラン馬だ。グレイに合わせて優しく走る。


 そんな場面もありながら平地をゆっくり駆けている頃、グレイが三人に向けて文字を書く。


『一人で街を出ることにする』


 その言葉にレイラは驚き若干走りが乱れる。ライラも間違いではないのかと目をぱちくりしながら空中に書かれた文字を見る。


「え、え?え〜〜〜!?ど、どうして!それなら私たちも一緒に行くよ!」

「心配、一人旅は危ない」


 それに対してグレイは首を振る。


『元々一人で色々なものを見る為に旅してたから。街とかロベドとか色々気になるんでしょ?』

「う………」


 昔から世話になってきた街と人に恩がある三人はホリックの街から離れ辛い。スタンピードの影響で昨日のような依頼は急増している。


 特に魔獣達を足止めした者たちの傷が癒えていない今、離れるわけにはいかなかった。


「それが本当にお前のやりたい事なのか?」


 ジークは目の前にある小さな背中を見ながらそう問いかける。二人が昨日交わした会話、その答えなのか?と。


『うん』

「そうか!なら応援しないとな」

「うーーーーー!…………分かったわよ。ただし!ちゃんと準備してから私たちに見送られなさい!」


 レイラはジークとグレイの会話を聞いて諦めた。グレイの目が冒険者になると言った時のジークと同じだったからだ。


 ホリックの街が見え、グレイは速度を落としていく。止まった馬から先にジークが降りる。そして、前の時と同様に手を差し出す。

 今度は躊躇いもせずにその手を取って馬から降りるグレイを悔しそうにレイラは見ている。

 完全に妹を取られた姉の目線だ。見苦しい事この上ない。


「ふ、ふぅん……買い物になったらジークは使い物にならないんだから今のうちよ!」


 馬を返し、ギルドでゴブリンの耳を提出して報酬を受け取った四人はそのまま冒険区である東側で買い物を開始した。


「まずは野営する為の道具ね。それから……」

「おっこれとか良いんじゃね?」


 レイラが必要な道具を考えている間にジークはグレイを呼びつけて最新式の道具を薦める。


 空間拡張という希少な魔石を用いた袋で野営全般の道具がセットになった一級品だ。一人旅においては荷物が少なくなる便利アイテム。それだけに値段は高い。


「おやっさんー!これ少し安くなんねぇ?こいつの一人旅に持たせてやりたいんだが」

「あーそうだなぁ。ジークの頼みならしょうがねぇ。まけてやる」

「よっしゃ!」


 そんな様子を見て完全敗北したレイラの肩をポンポンと叩くライラ。完全に負けヒロインである。


 その後も武器やら防具、他にも必要なその他諸々を無駄に広い人脈で揃えて行くジークに「もう、私なんて要らないのね……」と完全KOを喰らったレイラ。


 そんな様子を見かねてかグレイがちょこちょこと近づいて身長差のせいで上目遣いになったグレイが服を掴みながら『服、一緒に見て』とだけ伝える。


「えぇ!任せなさい!」


 萎びた野菜のようだったレイラが瞬時に瑞々しくなる。意外と応えていなそうだったライラも後ろで「私も手伝う」とやる気に満ちていた。


◇◇◇


 「これはどう?」「こっちも良さそう」と着せ替え人形のように大量の服を試着させられるグレイ。そんな経験はなかったグレイは年相応の可愛らしい笑顔でレイラとライラと店を巡る。


 対照的にジークは「まだ行くのか……」と逆に萎びた野菜のようになっていた。


 そうして、買い物を全て終える頃には夕陽が見え始めていた。


 家に帰り夕食を食べながらグレイは今後の方針を話す。


『南にある街に行こうと思う。"海"があるらしいから』

「なるほどなぁ、グレイは海見た事なかったのか。それで水着も買ってたんだな」


 ジークは痛そうに頬を押さえながらその時のことを思い出す。


 試着した水着をグレイはジークに見せた。そんなジークはやましい感情はなく単純に「(骨が見えなくなって)良い体つきになったな!」と言ってレイラとライラに殴られたのだった。


 グレイは普通に「ジークもいいと言ったならこれにしよう」としか考えていなかったので何故ジークが殴られたのか分からずに首を傾げていた。

 ちなみにそれを見ていた他の客()は、


「「「「爆散しろ、ハーレム野郎!!」」」


と満場一致で思っていたとかいないとか。



「まだ二週間もある。教えられてないことも色々あるし忙しくなるな!」

「そうね、スタンピードで街を案内するのも出来てなかったし」

「私、少し影が薄い。もう少しグレイと遊ぶ」


 各々がグレイとしばらくの別れを惜しんで残る時間の過ごし方を話し合って一日を終えた。


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