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忍び寄る魔の手

 「街から出て行ってもらう」という言葉にグレイは頭が真っ白になる。


(る、ルーンを使ったのがダメだった……?それとも貴族なのがダメだった?)


 盗賊のせいで「貴族であること」をバレるのを極度に恐れていた筈のグレイは恩人のピンチを前にそれを乗り越えた。

 だが、それが正解では無かったのでは?と、グレイの心を締め上げる。


「ハァッハァッハァッ」


 過呼吸気味になり、心臓が痛いほどに早鐘を打つのを感じながら考え込む。


(シオさんの言うとおりここにいちゃ)

「ふざけんなァ!グレイは俺たちの家族だ!!コイツを外に追放する!?させるわけねぇだろ!!」


 俯いていたグレイはバッと顔を上げる。そこにはシオの襟元を掴んで持ち上げているジークがいた。レイラとライラは意外にもその行為を黙認する。苦しそうにしながらシオはジークに持ち上げられている。


「ぐっ………ま、待って話を……」

「こんなクソみたいな話これ以上グレイに聞かせられるか!」


 見たこともないような怒りの表情を見せるジークは襟元をより締め上げる。

 そこにロベドが手を掛けた。


「待て、もう少し話を聞け」

「ロベド……?アンタもコイツの肩を持つのか!?」

「話を最後まで聞け。お前の守りたい奴まで怯えさせてどうする」


 ジークが振り返るとグレイが服を掴んでいた。心配そうに見てくる話の中心である当人を見て燃えたぎった憤怒の炎が急激に鎮火していく。


「ぁ…………すまん」


 ジークはグレイが服を掴んでいたことに気がつかないくらい我を失い過ぎていたことに落ち込んだ。


『大丈夫、起こってくれたのは嬉しかった』


 力無く手を離し項垂れるジークにグレイは声をかける。明らかに初めて会った時よりも二人の関係は良くなっている。


「げほっげほげほっ………すまない、少し、言葉が足りなかった。正確にはほとぼりが冷めるまで他の街に避難して欲しいんだ」

「どう言うことだ……?」


 ロベドを除く全員がシオの提案に疑問を持つ。

 シオは呼吸を整えながらジークを見る。

 

「このギルドに入った時視線を感じた筈だ。勿論、ホリックの英雄ジークにも目が行ったのはあるだろうけど本命は……」


 ジークを見ていたシオの視線はグレイへと移る。それを見てグレイは悟る。


『私?』

「そう、君だ。君は魔法のようなもので北門に居た冒険者を救った。魔獣を蹂躙し尽くした姿はジークに勝るとも劣らない。ダイムがすぐに緘口令を出したらしいけど君のことはすぐに広まってしまった」


 グレイはダイムに出来る限り自分のことを隠して欲しいと頼んだ。だが、人の口に封はできない。既に噂は出回り魔法を使う少女目当てにギルドには冒険者が集まっていた。


「それなら俺たちのパーティーに入れば問題ないだろ」

「冒険者《《だけ》》なら僕がなんとか出来た」


 シオの含みのある言い方にレイラが最悪の場合に気がつく。広まったのは《《魔法を使う》》少女だ。そういう時に出てくる存在はーーーーー


「まさか………貴族がグレイを!?」


 シオはレイラに同意するように首を縦に振る。それはかなりの衝撃だったのかライラも目を開いて驚く。

 何せ、基本的に貴族は平民とはあまり関わろうとしないからだ。ダイムのような比較的平民にも寛容な貴族はそうはいない。


「でも何で貴族がグレイを狙ってるんだ?別にコイツが何かしたわけでもないだろ」


 レイラ達とは違い何故貴族が出張ってきたのかを理解していないジークはシオに問う。

 それに答えようとしたシオはグレイを少し見る。そして、言い淀みながら答える。


「……彼女の血を取り込むためさ」

「はぁ?どういう事だ?血でも飲む気なのか?」


 シオが目一杯オブラートに包んだせいでジークには伝わなかったが、レイラとライラにはそれで十分だったらしい。

 レイラの手を握る音とライラの奥歯が軋む音が部屋に響く。


「はぁ………いいかい?貴族は魔法が強い後継者を作るために同じように強い魔法を使える貴族と結婚して、子供を作る。そんな時、貴族よりも強い魔法を使える平民の少女が現れた。どうすると思う?」

「そりゃあ養子、とかか?」


 シオは首を横に振る。報告のあった貴族の名簿を見てくしゃり、とシワが出来るくらいに握りながら答える。


「それもある。いや、そういう場合が殆どだけど今、彼女に目をつけている貴族は黒い噂が絶えない奴だ」


「黒い噂?」


「《《子供だけ》》を手に入れるのさ。母親の少女は捨てられる」


「は?」


 今度のジークは理解してそれでも聞き返した。信じられないものを見たような顔をしながら。

 流石にここまで言われれば少女がグレイを指していることを理解できたジークはそのグレイが辿るかもしれない道も理解した。


 《《誘拐し強制的に子供を作り、母親だけを用済みのゴミのように放り出す》》。シオが言いたかったのはそういうことだ。


「なん、だよそれ……!それなら外に出ないほうがもっといいだろ!?」

「それじゃあダメなんだ、ジーク」


 ずっと壁に寄りかかって話が終わるのを待っていたロベドが話に入ってきた。酒に酔った目ではなくしっかりとした目つきでジークとグレイを見る。

 

「ダイムの野郎はグレイを守るつもりみてぇだが領主である以上スタンピードの件で動けない。援助という名目で貴族が人を寄越す前に街を出ないと街も街の外もいつどこで狙われるかわかったもんじゃねぇ」

「ギルドの中くらいなら僕が見張れるんだけど、ずっと彼女を置いておくわけにもいかないだろう?」


 グレイは自身のせいで色々な人に迷惑が掛かってしまうことを認識する。

 ジークは言わずもがな、レイラやライラも様々な対策を講じてグレイを守ろうとするだろう。


 少し前のグレイならば実家の時のように即座に街を離れてしまう所だ。だが、ジーク達との生活によって離れがたくなってしまった。それほどまでにグレイは彼らの事が好きになっていた。

 

「少なくともこっちに来るまでに二週間くらいあるからどうするか考えておいて」


 刻一刻と迫るタイムリミットは二週間。躙り寄る魔の手からどう行動するのかグレイ達は迫られる事になった。

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