グループ二・大学生
グループ二・大学生
一体、何が起きたの? 私は先程の出来事をうまく理解できずにいた。頭の中を整理しようと、先程の出来事を反芻する。
私は電車に乗って、自宅へ帰宅中だった。その途中で車内の自動ドア――電車の乗り降りする引戸――がいきなり開き、乗客の数人が外へ投げ出されたのだ。車内は人がぎゅうぎゅう詰めだったので、それを助ける事は出来なかった。外は何故か、黒い絵の具で塗り潰したように真っ黒だった。車内に残った乗客は少しの間だけ動揺するが、みんなで団結して車掌を問い詰めに行ってしまう。しかし、私を含めた二人の人間はこの車両に残った。
何が起こったか。それはなんとなく整理できたけど、いまいち外の状況が呑み込めない。トンネルの中にでも閉じ込められたのだろうか。
「ねえ? 神崎君はどう思う?」
私は一緒に帰宅していた友人、神崎直斗に問いかけた。
彼は手の平をあごに当て、何かに考えふけっている。端正な顔立ちをした美青年である彼に、そのポーズは似合いすぎだ。もしかしたら、彼の天才的な頭脳をもってすればこの疑問も解けるかもしれない。
「今のところは何も分からない。とにかく、今は情報を少しでも多く集める必要があるな」
それは独り言ともとれる返答だった。だけど、彼は普段から独り言が多いからどちらにしても違和感はない。
「なるほど、情報ね。だったら、私達も車掌の所に行ってみたらいいんじゃない?」
私は少しでも彼の役に立ちたくて、そう提案してみる。
「……そうだな」
彼は少し悩んだようだが、考え直したように私の提案に賛同してくれた。私はちょっぴり嬉しくなる。
神崎君は床にかがみ込み、おもむろに自分のショルダーバックを漁り出した。バックの中身を全部出し、またそれらを詰め直す。要る物と要らない物を整理しているのだろうか。
気になった私は彼に忍び寄り、その作業をまじまじと観察する。バックの傍に何やら小難しそうな本が積み立てられていた。高さは、大体私の膝くらいだろう。他に新品らしき大学ノートが数冊、平凡な筆記用具入れ、何が入っているのか分からないビニール袋や結構な厚さのファイルなどがある。彼の生真面目な性格が窺える持ち物だ。
彼は小難しそうな本以外をほぼ全てバックにしまい、それを肩にからって立ち上がる。
「あれ? この本は床に放置したままなの?」
私に背を向け歩き出した神崎君に、当然の疑問を投げかかる。彼が歩みを止めようとしないので、その背中を追いかけた。
「その本はもう必要ない」
彼の返答は実にさっぱりしていた。余計な言葉を一切入れていない、形式上の答えみたいだ。いくら私でも、この素っ気なさには精神的に堪えるものがある。
彼はこの車両内に二つある貫通扉――車両間の通路を仕切る扉――の前まで来ると、足を止めた。
「君はどっちだと思う?」
前振りも無く会話を振られた私はつい、「えっ?」と聞き返してしまった。なんとなく、内容に脈絡がなかったような。
「車掌がいる運転席の車両に行くには、どっちの方向に進めばいいと思う? と聞いた」
ぶっきらぼうに彼は言った。声に感情がこもっていないようだが、頼られている事は確かだ。私は得意げな顔をして、自信満々に答えようとした。
「もちろん、この電車の進行方向に……」
神崎君は私の答えを途中で無視し、扉を開けて隣の車両へ移っていった。そっちから聞いといて、それは無いよ。私は急いで後を追う。
「あっ、ちょっと! なんで最後まで聞かないのよ」
「…………。君にはこの電車の進行方向が分かるのか? 大したものだ」
「えっ? そりゃあ、外を見れば……あっ!」
そうだった。いつも通りに車内が揺れていて、線路を走っている音が聞こえるから忘れていた。外は真っ黒になっていたんだ。これじゃ、進行方向どころか、どこを走っているのかもさえ分からない。
だから私は神崎君に無視され、挙句に皮肉を言われたのだ。話には聞いていたけど、噂通りの神崎君だ。私が思っていたよりもずっときつい人だった。
不意に神崎君が立ち止まり、私の方を振り向く。
「君は誰だ?」
今更それですか。このまま、私達は知り合い同士という事にはなってくれないようだ。
顔から火が出る程恥ずかしかったけど、私は自己紹介と言う名の暴露話を始める事にした。




