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イチオシ短編

妖怪犬濡らし・続編

作者: 七宝

 8ヶ月くらい前に、『妖怪犬濡らし』というタイトルで近所に住む妖怪のお話を書きました。前半が実話で後半をめちゃくちゃな創作にして書いたのですが、新事実が判明したので続きを書きます。


 前回を読んだ方はいらっしゃらないと思うので、簡単に説明させていただきます。というか、要約するのも面倒なので丸々書きます。


 みなさんはご近所付き合いは好きですか?


「好き!」と答えられる人は素晴らしいコミュニケーション能力をお持ちなのか、良いご近所さんが多いか、そんなところだと思います。はっきり言って嫌いですよね? 私も嫌いです。


 用事があって話しかけてきたりするのはいいんですよ。でも、ただの立ち話とかは本当にやめて欲しい。その立ち話よりも嫌なのが「あいさつ」です。


「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」これらは同じことをそのまま返せばいいので簡単です。問題は返しようのない挨拶です。


「行ってらっしゃい」「おかえり」これを言われるのが苦痛なのです。「行ってらっしゃい」は「行ってきます」と返せるからまだいいのですが、「おかえり」に対してなんて言えばいいのか分かりません。


「ただいま」「ただいま帰りました」「ありがとうございます」どれも違います。近所のおばさんに「おかえり」と言われて「ただいま」なんて言えるはずがありません。


 なので私はいつも「⋯⋯サス」と曖昧な返事をし、自分の家に逃げてゆく。サスでいいならそれでいいじゃん、と思われるかもしれませんが、このおばさんは毎日私に挨拶をするんです。毎日サスサス言う訳にもいかないので頭を悩ませているんです。


 朝家を出る時間が7時だったり6時半だったり、割とバラバラなのですが、そのおばさんはいつも犬を連れて私の家の前にいます。おそらく玄関の開く音かなにかで感知してわざわざ出てきているのでしょう。老人は早起きですからね。


 このへんはまだ可愛いものです。次からが問題です。訳あって朝4時に家を出る時がありました。眠い中頑張って準備をして家を出るじゃないですか。家の前にいるんですよ、犬を連れたおばさんが。


 帰りの時間も日によってバラバラなのにもかかわらず、おばさんは犬を連れていつも私の家の前にいます。雨の日は傘もささずにずっと私の家の前にいるのです。それで少し話したらどこかへ歩いていく、という感じです。


 また、色んな道から帰ってくるので、そんなに察知出来るものでもないと思うんです。それこそ忍者が4人以上はいないと出来ない芸当です。常に散歩の準備をしていて、忍者から連絡が入ったら家を出る、というような。


 ここまでが前回の実話の部分です。ここからが新事実のお話になります。


 さすがに毎日毎日家の前で待機されていると気持ちのいいものではありません。私は思い切って言ってみることにしました。


「いつもワンちゃんの散歩していらっしゃいますけど、足腰鍛えられるんじゃないですか?」


 遠くから攻めていきます。


「そうね、1日20時間は散歩してるからねぇ」


 この人、冗談言うタイプだったんだ。


「へ、へぇー、すごいなぁ」


「嘘だと思ってるでしょ。私ね、家に入れてもらえないんだよ。だからずっと犬連れて散歩してんのよ! あはは!」


 とんでもないことを聞いてしまいました。普通なら有り得ない話ですが、これまでのおばさんの行動を考えると妙に納得がいきます。おばさんは毎日ずっとこの辺りを歩いているのでしょう。おそらく何周も同じルートを散歩していたから、私と会うことも多かったのでしょう。16時に家に帰って18時に買い物に出た時もその都度会っていたのも納得です。


 このおばさんの家は私の隣の隣の家なのですが、おばさんよりその家族が怖くなってきました。

 実話ですが、嘘であって欲しいです。でも、確かにずっと外に居ないと出来ない芸当なんです⋯⋯

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