第3話 木星の剣士
夜半過ぎ、俺は焚き火に薪を焚べるため目を覚ました。
ゆらゆらと揺れる炎越しのエウロに目をやるとスヤスヤ、否、グースカと大の字で眠っていた。
「おいおいお嬢さん、君には警戒心ってもんがないのかい?
余りにそれは大胆だよね。
襲うわけないと俺は言ったけれどもだ、この子ちょっと無防備過ぎやしませんか?
バカなのか大物なのかどっちなんだ?」
俺は呆れて苦笑いした。
「まあ、あんなことがあったんだ。
ゆっくり休ませてやるか。
多分何日も山の中をひとりで歩いて、精神的にも身体的にも相当疲れてたんだろうな。
しかし、ほんと偶々あの場に遭遇して良かったよ」
偶然だった。
ほんの少し俺の通り掛かる時間が前後していたなら、恐らくエウロの命はなかっただろうな。
あの時、位置確認するために、丁度俺はエウロが魔獣に襲われていた地点の真上にいたんだよな。
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「コメットさんにお願いされたエリアはこの辺りが最後だ。
プレアデスで食料を補充したら、すぐにイフリスに行くつもりだったのに・・・
コメットさんて、なかなか押しが強いよな。
村に着いて少し休憩を取ろうと思っていたのに、いきなり魔獣討伐隊にスカウトだもんなあ。
その後は、なし崩し的に、逃げてしまった魔獣たちの調査だよ。
まあ、村の近くまで魔獣が出現したってのは物騒な話だから、誰かがやらなくちゃならない仕事なんだけどさ。
それにしても人使い荒いよなあ。
しかも、あの人、笑顔で仕事の依頼してくるんだもんな。
あの顔みたら断われないよ。
何か憎めない人なんだよなぁ」
俺は誰に話すでもなく、ひとり愚痴を呟きながら、辺りの風景を確認していた。
そのとき崖の下から魔獣の叫び声がした。
「ん?
あれは角の巨人じゃないか。
何か手に握られているぞ。
人間?
大変だ、早く助けないと!」
俺は、すぐさま、その場から飛び降りる。
そして、落下しながら剣を象ったネックレスに手を当てた。
「継承・武装」
俺が叫ぶと、木星の大赤斑の如き雲が体の周りに渦巻いた。
GYUWAANG!
GOGOGOGOGOON!
大赤斑は激しい光を放つ。
KIPPIING!
継承・・・
それは、神より与えられし力。
世界を守護する一族に代々受け継がれし力。
この大陸には俺の他にも、後四人、継承を引き継ぐ者がいると云う・・・
俺は漆黒の鎧を身に纏い、崖下に立った。
木星鎧と呼ばれるこの鎧の胸には、木星の証であるエンブレムが真っ赤に光り輝いている。
そして俺の右手には真紅の剣、木星剣が握られている。
この剣の鎺には、中心の大きな石を守護するように、白、赤、緑、黄の4つの小さな石が装飾されており、刀身からは凄まじいオーラが放たれているのだ。
俺は今、自分の身の丈の三倍はあろうかという魔獣と対峙している。
「角の巨人かあ・・・」
頭部には一本の長い角が生え、顔には三つの目と大きな口。
筋肉隆々の腕、そして緑色の巨体を支える大木程もある太い足。
右手には大斧を持ち、左手には鷲掴みにされた少女の姿があった。
少女にはまだ微かに意識はあるようだが、急いで助けなければ危険な状況だ。
「グウォーッ!」
大きな咆哮が俺の鼓膜を振動させる。
「ガガッググウォーッ!」
角の巨人は、まるで、この獲物は渡さない、邪魔するんじゃねぇと言わんばかりに、ギョロリとした三つの目で俺を睨みつけてくる。
次の瞬間、角の巨人は更に甲高い雄叫びをあげ、右手に持った大斧を俺めがけて振り下ろしてきた。
「ギョギョガッキェーッ!」
DOGGOON!
俺はヒラリと攻撃を躱す。
力一杯振り下ろされた大斧は、俺の立っていた場所の岩石を跡形もなく粉砕した。
「おいおい洒落にならないぜ。
あんなの脳天に喰らったら真っ二つどころかグシャグシャだよ」
俺はステップをポンポンと踏んで、軽やかに魔獣の頭上に舞った。
余りのスピードに角の巨人は一瞬、俺の姿を見失う。
「継承・斬」
俺が、木星剣を振り抜くと、魔獣の巨体に真紅の稲妻が走る。
その刹那、何が起こったのか理解できない様子の魔獣は、地面に着地した俺をじっと眺めていた。
次の瞬間、頭から胴体にかけて真っ二つに切られたその巨体は、左右にゆっくりと崩れ落ちてゆく。
間髪いれず、俺は魔獣の左腕を切り落とし、落下してくる少女を優しく受けとめた。
ZUDDAANG!
緑色の巨体は真っ二つに切られたことも気付かないまま大地に倒れ込んだ。
絶命した魔獣の額からは、ひとつの小さな宝石がこぼれ落ちる。
「残念、青い魔核か」
魔獣は絶命すると体の一部から魔核と云う宝石を吐き出すようにして放出する。
この魔核なるものは用途が多く、商人の間や冒険者ギルドでは、高値で取り引きされているものなのだ。
魔獣は人間にとって危険な存在である一方、貴重な魔核を得る為には、必要不可欠な存在でもあると云う事実も、また皮肉なものであった。
前述の通り魔核は高値で取引されている。
青 → 黄 → 緑 → 赤 の順に高価になり、レインボーなら激熱だ。
「青色ってのはちょっと残念だけど、この子を助けることができたしまぁ良しとするか。
他の素材はどうしようかな?
牙と角だけ頂いていくとしよう」
俺は魔核と素材を収納ドロップに収めるため、抱き抱えていた少女を一旦地面に寝かせた。
少女は意識を失ってはいるが、どうやら命には別状ないようである。
「取り敢えずは一安心だけど、この子をこのままにしておくわけにはいかないよな。
仕方がない、少し早いけど今日はこの辺りで休むことにしよう」
俺は近くの木陰まで少女を連れて移動し腰を下ろした。
そして、懐にしまっていた袋の中から小さな収納ドロップを取り出し地面に置いた。
「ポチッとな」
ボンッ
「携帯用キャンプセットーッ!」
超有名なネコの口調を真似たのかどうかはご想像にお任せするとして、俺の目の前には薪や水、食料、救急セットなどが一瞬で現れる。
「ほんと、この収納ドロップって便利だよなあ。
少々お高いけどね。
あっ、そんなことより、早くこの子の手当てをしてあげないとなぁ。
骨折はないようだけど、腕が腫れてるし、足のほうも擦り傷だらけだな」
俺は横たわる少女の顔や手足の傷口を水で洗い流すと、薬草を当てて包帯を巻いた。
「怪我はそこまで大したことなさそうだな。
二、三日もすれば治るかな。
意識を失ってるだけみたいだから、そのうち目も覚ますだろう」
俺は少女の手当てを終えると、ぼんやりと彼女を眺めていた。
時折心地良い風が吹き、彼女の淡いブルーの髪を揺らしている。
「俺と同じぐらいの年齢かな?
それとも少し下ぐらいかな?
まあ、いいや、後で聞いてみよう。
それよりも今の内に火を起こして、食事の準備に取り掛からないとな」
俺は焚き火に火をつけ、一角ウサギのモモ肉を木の棒に吊るし食事の準備を始めた。
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その後に目を覚ましたエウロは、モモ肉にがっついて、喉を詰まらせて、また死にかけたんだよな。
ほんと騒がしい奴だ。
俺はエウロを眺めながら、今日一日のことを思い返していた。
「フッ、ほんとにこいつの食べっぷりは凄かったよな。
ハハハハハ」
そう言って、俺は焚き火の前に寝転がり空を見上げた。