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第1話 私の英雄

全編書き直ししております。

 DOGGOON!


 BABABABABANG!


 BAGGOON!


 天空都市に存在する(いにしえ)の聖域に轟音と衝撃波が走る。


「ぐあーっ!」


 もう何度目の攻撃だろうか。


 防戦一方の俺は、直撃こそ免れたものの、今や息も絶え絶えで、何とか立ち上がるのがやっとだった。


「ほう、あの攻撃を受けてまだ剣を構える力が残っていようとはな」


 強大な力で俺の前に立ちはだかるその邪悪なる者は、余裕の笑みを浮かべている。


「クラウディ、もうやめて。

 あなたひとりで戦うなんて!

 私も戦う!

 死ぬつもりなら私も一緒よ!」


「エウロ、その結界から出ちゃだめだ。

 この戦い、俺はまだ諦めたわけじゃないんだからな。

 それに約束しただろ?

 俺はお前の為の英雄になるって」


 確かに俺はあのときエウロと約束したんだ。


 幼い日の記憶・・・


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「よいしょ、こらしょ。

 ふう、やっぱ最高だね。

 ここからだと、遠くの森まですぐそこに見えるや」


 俺は庭にある大木の上から眺める景色が大好きだった。


 庭以外、勝手に外に出ることを許されない俺にとって、木登りは一番の娯楽でもあったのだ。


「そんなことしてたら、危ないよー」


 木の枝に寝っ転がっていると、下から見知らぬ女の子が声を掛けてきた。


「危なくなんてないよ。

 いつもこの木に登ってんだからさ」


 俺は人差し指の脇で鼻下をこすり、自慢げに言う。


「クラウディ様、危のうございます。

 どうか、もう、おやめ下さい」


 執事は大木の下でオロオロと心配していた。


「へっちゃらだよ、ハウメア!」


 メキッ ボキッ ガサガサッ!


 執事に返事をしたそのとき、寝そべっていた枝がボキッと折れた。


 大木が広げる枝に何度か引っ掛かりながら、真っ逆さまに俺は落下する。


「うわっ!」


 バーンッ ドスーンッ!


「キャーッ!」


「いってぇ、びっくりしたぁ。

 いてててて。

 キャーって声が聞こえたけど・・・」


 俺は上半身をお越し立ち上がろうとしたが、自分の下にクッションらしきものを感じた。


 そこには、横たわるハウメアと額から血を流し、意識を失い倒れている女の子の姿があった。


「あわわわ、血が血が!」


 俺は、慌てふためき言葉にならない。


「クラウディ様、お怪我はございませんか?」


「ぼ、僕は大丈夫だけど、女の子が!

 それにハウメアも大丈夫だったの?」


「私は大丈夫ですが、こちらのお嬢さんが心配です。

 すぐに医務室に参りましょう。

 クラウディ様も、腕や足に切り傷がございます。

 治療をしませんと!

 誰かおらぬか!」


 すぐに、メイドたちが駆けつけ、俺は医務室に運ばれた。


 女の子はハウメアが抱き抱え、俺の後ろから続く。


 程なく、連絡を受けたクロノ王と賢者たちは定例会議を中断し医務室にやって来た。


「クラウディ様、ご無事でしょうか?」


 ソクラリスは自分の孫は後にして、真っ先に俺に近寄り声を掛けてきた。


「僕は大丈夫だよ。

 でも、この子が、この子が!

 僕のせいで。

 ウエーン、グスン、グスン、ヒック、ヒック・・・」


 状況に耐えられず、俺は泣きじゃくる。


「大丈夫ですよ。

 クラウディ様。

 我が孫娘、エウロは驚いて気を失っただけですよ。

 怪我も大したことはございませんので、どうぞご心配なく」

 

 賢者ソクラリスはニコリと俺に微笑み掛けてくれた。


「う、うーん」


 そのとき、エウロが目を覚ます。


「おーっエウロや!

 気が付いたのじゃな。

 痛いところはないか!」


 ソクラリスは孫を抱きしめ涙を流した。


「クラウディよ!

 先程ソクラリスは孫の心配をさておき、先ずお前の身を案じてくれた。

 本来、親や祖母は自分の子や孫の心配をして然るべきところをな。

 それは私に忠義を尽くしてくれる臣下が故のこと。

 我々はそういう立場の者なのだ。

 故に、臣下の者が辛い思いをせぬよう、自分の行動に対し人一倍責任を持たねばならん。

 自分の軽率な行動がどれ程の人間に影響を及ぼすのかをよく考えるのだ!

 それと、自分が迷惑を掛けたときは涙を流すでない!

 泣きたいのはお前でなく、迷惑を掛けられたほうだ!

 謝罪する立場の者が涙を見せるなど卑怯極まりないことだ!」

 

「はい、父上。

 申し訳ございません。

 君も、怪我をさせちゃってごめんなさい」


 俺は涙を拭い、女の子に謝罪をした。


「うむ。

 わかれば良い。

 無事でなによりじゃった」


 そう言うと、父上は力一杯に俺を抱きしめてくれた。


「痛いですよ、父上」


「済まぬ、済まぬ。

 ついつい安心したのでのう。

 エウロも済まなかったな」


 父上は俺から離れると、エウロの方に向き直り、謝罪した。


「へ、陛下!

 おやめ下さい。

 我々臣下の者に頭を下げるなど」


 慌ててソクラリスは止めに入る。


「いや、これは国王としてではない。

 クラウディの父親として当然のことなのだ」


「陛下。

 ご心配して頂き感謝いたしますわ」


 エウロはスカートを摘んでお辞儀をした。


 その愛らしい姿に一同は笑顔になる。 


「本当にごめんなさい。

 僕の不注意で君に怪我をさせちゃって。

 ハウメアも助けてくれてありがとう」


 俺はふたりに頭を下げた。


「それで良いのじゃ」


 父上はウンウンと頷いていた。


「その額の傷、ちゃんと治るかなあ?

 傷痕が残ったりしたら、どうやって責任とればいいんだろう?」


 俺はエウロを見た。


「そうねえ。

 レディの顔に傷を付けたんだから、責任は大事よね?」


「これエウロ!

 わきまえなさい!

 調子に乗るでない!

 殿下に対して失礼であろう!

 殿下、申し訳ございません」


 ソクラリスは、エウロの頭を抑えながら、自らも頭を垂れる。


「まあ、よい。

 ソクラリスよ。

 暫く我々は成り行きを見守ろうではないか」


 父上はニコリと笑いながら俺のほうを見た。


「僕はどうやって君にお詫びをしたらいいの?」


 俺はエウロに尋ねた。


「私ね、絵本が大好きなの。

 特にゼウス様の英雄譚がね。

 あなたは私の為の英雄になって!

 将来私のことをお嫁さんにして、一生私を守ってくれる?」


 エウロは上目遣いで俺の目をじっと見つめている。


「お嫁さんに?」


「そうよ。

 だって、こんな傷じゃ私をお嫁さんに貰ってくれる人は他にもういないかもしれないじゃない?」


 そう言って、エウロは髪をかきあげ、額の傷を俺に見せた。


「うん。

 わかったよ。

 君をお嫁さんにするよ!」


「これ、エウロ!

 畏れ多いことを言うでない!」


「ソクラリスよ、これは良い機会だ。

 いずれ、クラウディにも然るべき貴族令嬢の許嫁をとは考えておったところだ。

 そなたの孫娘ならば誰も文句はなかろう。

 是非、正式な話としてすすめることにしよう」


「ははぁ」


 ソクラリスは頭を下げた。


「それじゃあクラウディ殿下、これからよろしくね」


 そう言うとエウロは俺のほっぺたに軽くチュッとした。


「いきなり何をするのさ!」


 俺はビックリして大きな声をあげてしまう。


「婚約の証よ。

 私の英雄さん!」


「わかったよ。

 君を守れる男になるさ!」


 俺は少し顔を赤らめながらも、力一杯大きな声で答えた。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 俺はあのとき誓ったんだ。


 君の為の英雄になるってね・・・


「何をさっきから思いふけっておるのだ?

 覚悟は決まったか?

 そろそろ、この遊びにも飽きてきたところなのだ。

 消し炭になるがよい!」


 BOWOONG!


 BAWOWAA!


 邪悪なる者はトドメとばかりに勢いよく獄炎を吐く。


「愛する人よ・・・

 うおーっ!

 輝け!

 木星剣《Zeus Sword》!

 燃え上がれ!

 俺の生命の火(プシュケ)よ!」


 闘気を込められた剣は一段と紅く光り輝いた。


 GAGAGAGA!


 GASSHAANG!


 暗黒の瘴気と紅の闘気が激しくぶつかり合う。


 BABABABAANG!


「クラウディーッ!」


 静まり返った(いにしえ)の聖域にエウロの声が響き渡る。


 エウロの目の前には木星剣(Zeus Sword)だけが静かに横たわっていた・・・


 この出来事より遡ること数年前・・・


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 ここは大陸の東西を横断するジュピテル連峰。


 クラウディはその東に位置する、とある山の中腹にいた。


継承(inherit)(slash)


 角の巨人に赤い稲妻が走ると、その巨体は真っ二つに左右へと別れ、大地にゆっくりと崩れ落ちていった。


 ZUZUZUZU・・・


 ZUSSHAANG!


 クラウディに優しく受け止められた少女は、朦朧とした意識の中で呟く。


「私の英雄?・・・

 ゼウス様?・・・」


 これが、エウロとクラウディの出会いであった。


 否、正確には再会である・・・


 神の力を宿すクラウディの腕に抱かれた少女エウロの靑髪が風に揺れている。


 今まさに、幼き頃からの空白のときを経て、再び、木星(ゼウス)衛星(エウロパ)の運命の歯車が回り始めた瞬間であった。

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