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Ep2 韓紅

忍刀が冷気を帯びる。

忍者達は刀を大きく振りかぶった。

………まずい。

でも…どうすることも出来ず、私は硬く目を閉じた。

…その時だ。

「何やってんの?こんなとこで」

聞きなれた声にはっとして…かろうじて自由の利く首を向ける。

と。

「ちゃんばらやるにしてもこんな夜中だぜ?しかもこんな人んちの前でさ…」

そっか…ここは一夜の家のすぐ傍だ。

異様な光景に動じることなく、彼はいつものにこやかな笑顔で私を見ていた。

「で?何か…俺に言うことは?」

「………え???」

忍者達は動揺した様子で、私達のやりとりを伺っている。

「見たところ、ピンチみたいだけど」

「あのねぇ…そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」

だから言ってるんじゃないか、と一夜は大げさに両手を広げて笑う。

「俺一般市民だからさぁ、天下の騰蛇隊の伍長さん助けるなんて…そんな大それたこと出来ないよね!?………ま、かわいい女の子に助けでも求められたんなら、話は別だけどさ」

この子は………

毎度毎度…疲れる。

その時。

バカにされたとでも思ったのか、頭に血が上った忍者達が一斉に冷気を放った。

思わず…ぎゅっと目をつぶって、叫ぶ。

「一夜!!!助けて!!!」

『疾風』

よく通る静かな声と同時に旋風が巻き起こり、冷気は全て吹き飛ばされ。

忍者達が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる音がして。

目を開けると…一夜はいつの間にか、私の前に立ちはだかっていた。

一度はひるんだ忍者達が、再度くないを構え…一夜に向かう。

一夜は『小通連』を鞘に納めて『大通連』に持ち替え、静かに構えた。

「お前達もついてないね」

さっきのにこやかな声とはうって変わった…低い声。

「誰に命じられたのかは知らないけれど」

『大通連』が…その刀身に白い光を帯び。

「手を出したのが………俺の女だったなんてさぁ!」

『巴』!

刀の先端から放たれた空気の塊は、一人の忍者の体を貫いた。

一夜は別の忍者が放ったくないを払い、その懐に飛び込んで袈裟懸けに斬り捨て。

最後に残った忍者が放った巨大な冷気の塊を、『顕明連』の光のシールドで受け止める。

まぶしい光が辺りを包む…その中心で。

一夜は冷気を受け止めながら、かっと目を見開き…鋭く唱えた。

『明光』!

…瞬間。

光のシールドは冷気を弾き返し、幾筋もの鋭い刃となって忍者の体に突き刺さった。

それは…あっという間の出来事で。

降り続く白い雪の中、血を流して倒れる忍者達を…私は呆然と見つめていた。

「……すごい」

呟く私の前に、一夜はひょい、と屈み込む。

「大丈夫?藍」

「う…うん……ありがと………」

見ると。

その顔…満面の笑みだ。

「他には?」

………は?

にこにこしている一夜は、全身から褒めて褒めてオーラを出していて。

「……………」

思わず…ため息をついてしまう。

まったくこの子は………以下略。

「………やっぱり一夜は強いんだね…かっこよかった」

「よろしいっ!」

ご機嫌な声で言って、一夜はぎゅっ…と私を抱きしめた。

「うわぁひどい怪我!!!すぐ手当しなきゃ!体もこんなに冷たくなっちゃって…かわいそうに」

「う…うん………」

「そうだ!とりあえず俺んち行こっか!?すぐそこだしさ、応急処置は早いほうがいいよ!ねっ、藍そうしよ!?」

「え…っと………?」

「…待たんかい、一夜」

背後から、不意に聞こえてきたのは………

愁の…低い恐い声。

見るとその後ろには、龍介さんと右京様、それに剣護と来斗の姿もある。

どうやら…一夜が派手に暴れたことで、宿直の他の隊士が気づいたらしい。

「この惨状を放置しようなんて…いい度胸だな、お前」

呆れた様子で、来斗がつぶやく。

右京様が倒れている忍者に視線を向け、困ったように微笑んだ。

「とりあえず…一夜さんちじゃなくて、天后隊の病院に行きましょうか?『彼ら』も連れて」


傷の手当を受けている間、藍さんはずっと暗い表情で俯いていた。

「『氷花』が…効かないなんて」

僕の言葉に、藍さんがぽつり…と呟く。

「弾き返されるとかじゃないんです…なんだか…技が消滅してしまうっていうか……」

こんなこと初めてで…とうな垂れる藍さんの頭に、愁さんが気遣うように手を置く。

「首謀者の男が、私のこと『混血無勢』って。それに…お母さんの事、知ってるみたいで」

「…考えたくはないが」

来斗さんがつぶやく。

「韓紅一族の人間の仕業…ということか」

韓紅一族。

それは…生まれながらに、雪と氷を操る能力を持った一族。

『神器』を操る技にも長け、オンブラのような人知を超えた生物とも、自由に意思疎通することが出来、『神力』やオンブラの気配にも非常に敏感である。

彼らと、生まれながらに炎を操る能力を持った紺青の王族は、古来から反目しあってきた歴史を有しているが…紺青が大きな力を持ったことで、韓紅一族は敗走し…近年は流浪の民として放浪の日々を過ごしているらしい。

僕の剣術の師匠であり藍さんの母親でもある花蓮様、それに愁さんの亡くなった母親『小春』さんはその一族の出身であり、花蓮様曰く僕の祖母もその一族の人間なのだという。

そこに、天后隊の源隊長と宇治原伍長、それに大裳隊の橋下伍長が現れ。

「下手人の容態は一応安定しました。まだ会話が出来るような状態じゃないけど…回復を待てば、取調べも可能だと思います」

源隊長が穏やかに言うと、橋下伍長は一夜さんをじろりと睨んだ。

「全く…きょうびの一般市民は、加減てものがわからないんでしょうかねぇ」

「いやぁ、助かって本当によかったですね!俺ほっとしました」

嫌味も意に介さない様子でにこにこ答える一夜さんに…橋下伍長はがっくりと肩を落とす。

その時、懐の無線が鳴って…耳に飛び込んできたのは、花蓮様の声。

『右京、舞ちゃんは!?』

「花蓮様!大丈夫です、ご安心ください」

そう…と少しほっとした様子で呟き、彼女はまた、声のトーンを落とす。

『相手の顔…見た?』

藍さんが暗い顔で頷く。

「肩くらいまでの白髪で…背格好は、平均的な成人男性より少し大きいくらいかな。瞳は一夜よりもっと薄いブルーグレーみたいな色…それに、全身真っ白な着物姿で……」

「そういえば、あの忍者達も白装束だったね」

「…お前が、血で真っ赤にしちまったけどな」

間違いないわ、と…花蓮様がきっぱり言う。

『それは…冬鬼よ』

「冬鬼?」

少しためらうような沈黙があり…そして、厳しい声が続く。

『韓紅の族長の息子。今は族長の座にあるのかもしれないけど…それにしても』

若すぎる、と…彼女は言う。

『あの人は私より年上だったのに。そう………孤児だった私や小春に、すごく親切にしてくれてたの。でも…小春が一族を追われる時には、手のひらを返したみたいな態度で……許せなかった』

「その人が…一体何故?」

『『機は熟した』とか…言っていたようだが』

朔月公の声。

『紺青へ打って出ようと…そういう意図なのかも知れんな』

「…そんな」

頭を掻いて、草薙さんが吐き捨てるように言う。

「…たく、やっとベルゼブの傷跡から紺青が立ち直ろうかって時に」

剣護さんが神妙な表情で、花蓮様に訊ねる。

「藍の技が効かなかったっていうのは…一族の力が紺青の血で薄まってて、分が悪いってことなんですか?」

『今までに例がないから分からないけれど、おそらく…そういうことなんでしょうね』

「…どうしよう」

暗い顔で呟く藍さんの前に立ち、草薙さんが励ますように笑いかける。

「心配いらねーって!お前『氷花』じゃなくても、『神器』なら何でも遣えるじゃねえか」

「そうだけど…でも、やっぱり一番相性がいいのは『氷花』だもの」

藍さんは小さく首を振り…『氷花』をそっと撫でた。

「愁くんは混血でも孝志郎に勝てたのに…何で私は駄目なのかしら」

「それは…紺青の能力と韓紅の能力は性質が違うんじゃないですか?」

僕が言うと、彼女は力なく微笑んだ。

「そうなんですよね…きっと。何か…方法を考えなきゃ」

「大丈夫だって!」

一夜さんが草薙さんを押しのけ、藍さんの顔を覗き込む。

「藍のことは、今日みたいに俺が守るからさ!何も心配いらないよ」

「………うん」

複雑な顔で頷く藍さんに、明るい笑顔で一夜さんが言う。

「じゃ帰ろっか?藍。俺送ってくから…」

「待て一夜」

彼を制する…来斗さんの低い声。

「何?もう遅いんだしさ、霞様への報告も明朝だろ?」

「それはそうだが…藍は俺が送っていくから、お前は剣護と帰れ」

剣護さんも眉間に皺を寄せ…大きく頷く。

「別にいいけどさ………何?みんな、恐い顔しちゃって」

不思議そうな顔をする一夜さんを…呆れたようにため息をついて、来斗さんが怒鳴る。

「お前、何か良からぬことを考えてるだろう!?」

きょとんと来斗さんを見つめた後…一夜さんは弾けるように笑った。

「来斗、何言ってんの!?藍は怪我してるんだし、もうこんな夜更けなんだぜ?…それに『良からぬ』って…俺達付き合ってるんだから、別に何も問題ないじゃん」

「それでも!このまま二人で帰すのはなんとなく!でも、ものすごーく嫌なんだっ!!!」


「ったく一夜の奴、緊張感の欠片もない」

呟いて…まだ雪の降り続く空を見上げた。

舞は一夜のああいう言動に複雑な反応を示すし、時に迷惑そうな顔すらする。

でも…時折ふっと垣間見せる、あの嬉しそうな表情。

………これは、嫉妬なのだろうか。

否、それは違う。

そりゃ、自分の妹みたいな存在が他の男に取られてしまうことに、一抹の寂しさは覚えるけれど…断じて、そうじゃない。

舞い落ちる雪を掌に受け止めると、儚い白い塊は瞬時に溶けて消えてしまった。

昔は………そうだな。

『愁は藍のことが好きだった』…その事実は、否定出来ない。

今は………どうだろう。

「アホやなぁ、僕」

考えても仕方のないことだ。

『藍はん』が…『舞』が…幸せなら、それでええやないか。

昔…あの日の明け方、そう…結論を出したはずだったのに。

その時。

病院の門の前に、少女が立っているのに気づいた。

表情のない青い瞳でじっと僕を見つめる少女は、体に合わないぶかぶかの真っ白なローブを纏い、肩くらいまでの黒い髪以外…全身真っ白だ。

白装束………まさか。

「あんた…誰や?」

彼女は答えない。

「韓紅の人間か?」

彼女は眉一つ動かさず、黙って僕を見つめ続けている。

そこで…少し強い口調で言ってみる。

「ここには…あんたの仲間が収容されてる。ま、命には別状ないけど、今は下手に動かさんほうがええやろな。取り戻しに来るんやったら少し回復するまで待て、て…」

挑発的な笑みを浮かべて………仕掛けてみる。

「伝えてくれるか?『冬鬼』に」

「冬鬼を…知っているのか?」

…かかった。

やっぱり…そうか。

「ああ。あいつ、あんたんとこのボスやろ?」

「…そうか」

初めて会った頃の『藍』くらいの年だろうか。でも、随分と大人びた雰囲気の少女だ。

彼女はそれ以上何も言わずに、くるっと僕に背を向けた。

「おい!話はまだ終わってへんで!?」

「………私の名は…くれは」

彼女の周囲に、白い吹雪が吹きすさぶ。

「またいずれ、会うことになろう」

「待て!!!」

『螢惑』を構える。

『火群』!

しかし。

放たれた炎の固まりは、瞬時に凍り付いて砕けた。

「何!?」

くれはと名乗った少女はちらっとこちらを振り返り、ぼそりとつぶやく。

「女と思って手を抜いたようだが…そなた程度の力私には通用せぬぞ、小春の倅よ」

………小春!?

「待ち!お前一体…」

その時。

彼女の瞳が青く光り。

凍てつく氷の嵐に吹き飛ばされ…僕は、地面に叩きつけられた。

「うっ………」

「今日は、この辺りにしておいてやろう。だが次は…覚悟しておくのだな」

目を伏せて静かに言うと…少女は、吹雪の中に消えた。


翌朝。

玉座の間には僕達の他、一ノ瀬公、涼風公、朔月公…『三公』の姿もあった。

そして、一ノ瀬公の傍らには…孝志郎さんの姿。

戸惑いを隠せない様子で、孝志郎さんが霞さんに問いかける。

「本当に…私は、ここにいてよろしいのですか?」

霞さんは迷いのないまっすぐな微笑みを、孝志郎さんに答える。

「勿論です。あなたは私達の…お兄様ですもの」

それで、と…厳しい表情になって、僕達のほうを見る。

「韓紅一族…でしたね」

頷く僕達に、霧江様が言う。

「紺青に残されたもう一つの…禍根ですね。近年では姿を潜めていたので、滅びたのではないかと思われていたのですが………」

「諸国を放浪している一族と聞きましたが、今は一体どこに…」

朔月公が頷いて、静かに言う。

「花蓮が申すには…ここ数十年は氷の属性とも相性のいい、北の地に潜伏していたらしいのですが…族長の『冬鬼』という人物が、どうも妙だと」

「年を取っていない…なんて、まるで『ベルゼブ』のような話ですね」

霞さんが呟く。

「彼らが紺青に害を成そうとしているのなら…都や諸国が巻き込まれる前に、何としてもその火種を断たなければ」

「…彼らの拠点を見つけること、攻撃を未然に防ぐこと…どうか、この十二神将隊にお任せいただけませんか?」

愁さんが進言し、霞さんは笑顔で頷いた。

「よろしくお願いします。それと…右京様、一ノ瀬孝志郎様、それに古泉一夜様。紺青の為、十二神将隊を加勢していただけないでしょうか」

頷く僕達に、霞さんはにっこり微笑む。

彼女は、ベルゼブとの戦闘後…本当に明るく強くなった。

「私に出来ることがあれば、何でもおっしゃってください。皆様のお力…信じております」


「くれは………」

花蓮様は反芻するように何度も呟き、首を捻る。

「さぁ…聞いたことないわねぇ」

「じゃあ…あの子は、純粋にあの年齢の韓紅の人間てことか」

彼女の言葉を受け、愁さんが言う。

彼の前に現れたくれはという少女は、『神器』の類を手にしていなかったのだという。

それは、と…来斗さんが難しい顔で、顎に手を当てた。

「…危険だな。いくら能力はあっても、『神器』を介さずにその力を放出することは…下手をすると命に関わる恐れがある」

ぎょっとした顔で、愁さんが聞き返す。

「命に………って、一体どういうことや?」

「ベルゼブの件以降、少し調べたのだが…」

紺青と韓紅の人間は、その肉体が一種の『神器』として働くらしい。

そのため『神器』がなくても、炎と氷の力を操ることが出来るのだが。

「それは、自身の身を削る行為であると言ってもいいだろう。ただ…」

「ただ?」

「『神器』を介すと、それに見合った『神力』しか使うことが出来ないらしい…一時に膨大な力を放出する、ということのみを考えれば…素手で戦うことが一番効果的なのかも知れんな」

「くれはという少女は、その事を…理解しているのでしょうか?」

わからない、というように…小さく首を振る愁さん。

「ただ…あの子が大きな力の持ち主やってことは、間違いないと思うわ。紺青の霞様に匹敵するくらいの…な」

何も知らない少女が…その強大な『神力』を、冬鬼という人物に利用されているとしたら。

「…そんなひどい話って………ないですよね」

難しい顔で…愁さんは呟いた。

「冬鬼………か」


城を出て、隊舎に戻り。

今後の警備について藍達と相談していると、戸口に大きな影が見えた。

「お久しぶりです!皆さんっ」

大きな目をにゅっと細めて笑う、青龍隊長の井上磨瑠。

総隊長会議が執り行われるにあたり、東の任地から都へ戻ってきたのだという。

「そういや…お前んとこ、新しい伍長ってもう決まったのか?」

俺が言うと、そのことで…と笑う磨瑠。

その時。

大きな背中から飛び出してきたのは…何やら小さな影だった。

「舞様っ!!!」

俺達の膝くらいまでしかない小さな体の少年は、大きな黒い瞳をうるうるさせ…藍をじっと見つめている。

「お久しぶりです舞様!僕…すっごくすっごく、舞様にお会いしたかったです」

「おい………藍。なんだこの…ちっこいの」

えっと、とつぶやいて…彼女はしぶしぶといった風に、答える。

「東に棲んでる小人の一族の…朱々丸くんです」

「しし…」

「しゅしゅまるです、しゅ・しゅ・ま・る」

目を輝かせた朱々丸とやらは、ぴょん、と藍に飛びついた。

「嬉しい!!!舞様、覚えててくれたんですね!!!」

「何でお前、そんな奴…知ってんだ?」

「紺青に来る以前…十六夜舞隊長が、この子を猛獣から助けたことがありまして」

『十六夜舞』というのは前太陰隊長で、藍の幼少期の記憶が『神器』の力で具現化した存在。先の戦いで消滅してしまい、今は藍と同化してしまっている。

そのせいか…彼女が一人で見聞きしたことを、藍が覚えていたりするのである。

「そうなんです!舞様は僕の命の恩人で…でも………舞様って、何だか急におっきくなっちゃったんですねぇ」

磨瑠が笑いながら、彼を藍からひっぱがす。

「朱々丸。色々あって、今は舞様じゃなくて、三日月藍さんていうんだよ」

「えー!?じゃあ、舞様じゃないんですか?」

「うーん…積極的に『舞』って呼ばれたくないんですけどね…本音を言うと」

「じゃあ…藍様?」

「いや!やっぱり舞様でいいです………なんか…ぎりぎりだから」

磨瑠はチビを従え、胸を張ってにこにこ言う。

「彼は間宮朱々丸と申しまして、うちの新しい伍長です。十六夜隊長に助けてもらって以降、『神器』の修行も相当積んだらしくて、とても才能のある子ですよ」

「つっても磨瑠…こんなガキ」

俺の言葉が気に障ったらしく、頬を膨らませて反論する朱々丸。

「しっつれいな!こんな姿だけど、僕は立派な大人なんだからなっ。ていうか…何なんだよお前、ちょっと舞様に馴れ馴れしいんじゃないか!?」

その時。

「藍いる?」

俺より一回り身長の高い一夜さんを、ぎょっとした顔で見る朱々丸に、噴き出しそうになりながら声を掛けた。

「朱々丸、ちょうど良かった。お前が喧嘩売るべき相手は、俺じゃなくてそっちだそっち」

「な…なんだとぉ………」

「朱々丸!龍介さんの言う事は、気にしなくていいから…ねっ」

焦ったように藍が言うと、彼は満面の笑みではい、と答える。

「舞様?舞様のことは、この間宮朱々丸がお守りしますから!どうかご安心ください!」

「そ、そう…それは…心強いわね」

二人のやりとりを不思議そうに眺めた後。

一夜さんがチビを指さし、尋ねた。

「何…『これ』?」

得た情報をかいつまんで説明すると、彼はつまらなそうな声で、ふーん…と呟く。

「どうします!?一夜さんてば、ライバル出現じゃないすか」

しかし、一瞬目を伏せた後…一夜さんは余裕の表情で涼やかに笑った。

「龍介…言ってる意味がわからないなぁ。『あれ』が俺のライバルだって?」

その時。

俺の言葉が引っかかっていたらしい朱々丸が、意を決したように一夜さんに怒鳴る。

「こらぁ、そこのお前!」

「…俺のこと?」

「ああそうだ!黙って聞いてりゃ何だ!?『これ』とか『あれ』とか、人を物みたいに…どこの誰だか知らないけどなぁ、僕が来たからには舞様には指一本触れさせないからな!覚悟してろよ!」

「あ…そ。ま、せいぜい頑張って」

「い………一夜!?」

一触即発の二人の間でおろおろする藍を見て…俺は、相変わらずにこにこしながらヒゲを撫でる磨瑠と、顔を見合わせた。

「一夜さん…余裕っつっときながら…ありゃ完全に臨戦態勢じゃねえか」

「いやぁ、なんだか面白いことになりそうですねぇ」

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