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勇者パーティに追放者が出たらしいので、あやかって成り上がろうと思ったのですが……

 勇者パーティから一人、メンバーが追放される。

 そんな情報を聞きつけた底辺冒険者であるイヴァンは、勇者パーティの強さにあやかろうと追放者リーグルベルとパーティを組む。

 しかしリーグルベルは本当に弱く、雑魚モンスターであるゴブリンにも勝てないほどで!?


「あの……やっぱり僕、役立たずですよね……」

「ちくしょう、どうしてこうなったぁ!」


 追放されて身をおくところもないリーグルベルをお人好しイヴァンは放っておけず──

 二人のこじんまりとした冒険が始まる!

 俺が薬草をしこたま摘んで、腰の巾着袋を一杯にした日の帰りのことである。


「よう、イヴァン!」


 門を入ってすぐ、顔見知りの冒険者に声をかけられた。

 俺に好き好んで声をかけるなどというのはよほどの酔狂か、取引相手(・・・・)のどちらかだ。


「待ってたぜ。耳よりの情報があるんだよ」

「どんな情報だよ?」


 聞きながら、俺はスキルを発動させる。

 中空から羊皮紙が一枚現れ、文字がひとりでに刻まれていく。

 契約内容だ。


「よっと。ほら、指押しな」

「待ってました! 酒代酒代~♪」


 男が羊皮紙に親指を押し付けると、にわかに光った羊皮紙は崩れるように霧散する。

 契約成立だ。


「いやな? なんでも、勇者パーティがこの街に来るってのよ」

「勇者ぁ? こんなチンケな辺境にぃ? また眉唾な噂を拾ってきやがって……」

「いや、これは確かな筋なんだよ! 嘘ついてねえってのはわかんだろ!?」


 確かに契約が交わされた以上、契約の対価にのせられた情報を偽ることはできない。

 少なくとも嘘はついておらず、男はその情報を信じているらしい。


「でな? 話には続きがあるんだよ。何やらその勇者パーティ、パーティの一人を追放してここに放逐していくつもりなんだと!」

「いや……意味が分からねぇんだけど。なんだってそんなことになるんだ?」

「俺が知るか!」


 胸を張る男。

 知らないことに対して胸を張るんじゃねえと思いつつ、俺は考える。

 この情報が確かなら好都合だ。

 どういった事情かは知らないが、勇者パーティの一員なら腕も立つだろう。

 うまく取り入れば勝ち馬に乗るようなものだ。

 そして、取り入るなら早いほうがいい。


 俺ももう32。いい年だ。冒険者ギルドでも古参の方だが、上はSクラス下はGクラスまである冒険者のクラス分けでDより上に上がれたことがない。

 全盛期ほど体も動かなくなり、クラスも下がりに下がって今はFクラス。

 腰を痛めながら新人が受けるような薬草採取で日銭を稼ぐ日々。

 しがみついている老害と同業者からは蔑みの目で見られ、仲間と言えるような人間も思いつかない。

 鳴かず飛ばずとは俺のことを言うに違いない。

 ギフト──生まれつき一人一つ持つ固有のスキルがそれ向きだったんで小銭を稼ぐために情報なんぞを売り買いしていたことが功を奏し、ようやく俺にもツキが回ってきたようだった。


「……ま、いいだろ。貸しか? 金か?」

「金!!」

「ちぇっ。……『清算だ』」


 舌打ちをした俺がそう口にすると、乞うように差し出された男の手のひらに銀貨が一枚ぽとりと落ちる。代わりに俺の財布が少し軽くなった。

 ぎ、銀貨一枚……! 四人家族で一月はつつましく暮らせるだけの額が手からこぼれていったことに少しめまいがする。

 あれを今の俺が稼ごうとしたら依頼をいくつ受けることになるのか……

 それだけ俺がその情報をありがたく思っているという事実を、俺の【取り立てる右手(リアリー・ディール)】が証明したことに他ならない。


「ひょぅ! 大盤振る舞いじゃねぇか!!」

「……情報が嘘だったら取り立て(・・・・)だからな! 使いすぎるんじゃねえぞ!」

「わかってら。これで朝まで飲めるぜぇ!!」

「使い切る気マンマンかよっ」


 はぁ、とため息をつく。


 俺のスキルは取り立てだ。

 契約書を用いて契約をすると、その契約を違えることは例え勇者や神であろうとできない。

 借りや貸しなどの形にならない不確定なものを数値化したり、スキルが自動的に取引の商材に見合うものを提示してくれるなど、商売にはもってこいで使い勝手がいいのだが、いかんせん冒険者には向いていなかった。


 夢があった。

 冒険者として大成するという夢が。

 だから未だにズルズルと未練がましく、目の前に吊るされた餌に飛びついてしまうのだ。


「これでダメならいい加減……だな」


 これでダメならやめよう。

 そう思い続けて成功したこともないくせに、自分に言い訳をしてはごまかしている。

 でもそろそろ、踏ん切りをつけるべきだった。

 昔はいた仲間ももういない。財産もシケている。

 何も積み重ねられていない。

 次の人生を歩むなら──早いほうが良かった。

 そう考えると、いつも胸が痛くなった。

 積み重ねられていないのに……捨てるときはこんなに惜しく思うものなのか。



 ─────



「お前をここから先の冒険に連れて行くわけにはいかない」


 それがいつだかわからないから仕事にも行けず、冒険者ギルドの酒場で昼間から酒をかっくらっていたら、ちょうどそんなセリフが聞こえてきた。

 例の情報は本当だったらしい!


「っオイ!」

「すまん!」


 急に立ちあがったせいで大柄な冒険者に体があたってしまう。

 一言謝って声のもとに駆け付けると、五人の男女が一人の青年と向き合っていた。

 五人の装備はとても上等なものだ。

 厳しい冒険の果てにのみ手に入るという伝説級の遺物に、稀代の名匠が誂えた鎧。

 すべて吟遊詩人がそらんじていたのと同じだ。

 あれが勇者パーティで間違いない。

 そして、その五人と向き合う細身の男。

 追放されるという彼は、確か……

 赤い髪に青い瞳は勇者のそれと同じ。

 それに、戦士とは思えないほどに華奢な体とくれば間違いない。先代勇者の息子にして現勇者アルト・ラウギヌスの弟。

 リーグルベル・ラウギヌスだ。


「兄さん……」

「兄と呼ぶな、リグル。お前のような出来損ないが勇者の血統を継いでいると思うと眩暈がする。どうしてそうも弱いんだ、お前は」


 侮蔑の表情でリーグルベル……いや、リグルを見下すアルト。

 リグルの表情は沈痛なもので、今にも倒れそうなほど足が震えてしまっている。


「足手まといをここから先に連れていくわけにはいかない。俺は良くとも、お前のために仲間が死ぬと思っただけでお前を縊り殺したくなる」

「待って、兄さん! 僕だって父さんの息子だ! きっと何かの役に」

「立てない」


 アルトが声を遮って突きつける。


「ここは平和な街だ。お前でも薬草でもむしって日銭を稼ぐくらいは出来るだろう。せめてもの慈悲だ。冒険者の底辺にでも引っかかって、ここで慎ましく暮らしていけ」


 リグルはもう何も言わないで、俯いて拳を握っていた。


「じゃあな、リーグルベル」


 五人は踵を返して冒険者ギルドを出て行く。

 一人残されたリグルは最早微動だにせず、慌ただしく駆け回る冒険者やウェイター達に迷惑がられている。

 そろそろ声をかけてやるか。


「よっ、どうした? 浮かない顔だな」


 素知らぬ顔でリグルに肩を組む。


「……放っておいてください」


 か細く返答を返してきたが、やはりそっけない。


「まぁまぁ、そう言うなよ。ここは人がよく通る。落ち込むにしても場所を選ぶべきだ。違うかい?」


 身振りを交えつつ誘導をしてやって、リグルを席に着かせる。

 ま、話を聞く体勢になったらこっちのものだ。

 伊達に口先だけで生きてきていない。


「いや、実は俺、さっきの話聞いてたんだよ」

「……そうなんですか」

「実際酷いと思うぜ? ここまで勇者パーティとして一緒にやってきたのに、捨てる時は一瞬なんてまるでモノ扱いだ。あんただってここまで死なずにやってこれたんだ。それを勇者達みたいな強さを求められて、雑魚だなんて酷いだろ? 俺の見立てでは、そんじょそこらの連中には負けねぇくらいの強さはある筈だ」


 もちろん嘘だ。そんな見立てが立てられるようならもっと冒険者として成功している。

 だがまぁ、普通に考えて勇者パーティに籍を置いていた人間だ。強い筈だろう。


「……あの、どうして僕を励ますんですか?」

「勿論、何の狙いもないってわけじゃあない。あんたのその強さにあやかろうと思ってな」


 俺はスキルで契約書を作り出す。

 この契約書は神への誓約。読めない文字で書かれている。

 俺はこっそり契約破棄の無効を項目に入れておく。

 契約内容の口頭詐称は許されないが、こういう使い方(言わないこと)は問題ないのだ。


「これは俺のユニークスキル。契約を100%履行させる能力だ。この天秤の片側にあんたの強さを乗せたい。もう片側には、俺の財産を乗せよう」


 腰から麻袋を取り、机にぶちまける。

 中から溢れ出る銀貨に銅貨は、俺が辛うじて積み上げてきた全財産だ。


「あんたが契約すれば、その強さに見合うだけの金額があんたに移る。あんたはその分、俺のために剣を振るう。金がないんだろ?」


 金と聞いてリグルの手が動きかける。

 どうやら一銭も持っていないらしい。

 もう一押しと見て、俺はたたみかける。


「それに、冒険者として大成すれば勇者達も見返せるかもな? もちろん依頼報酬は折半。その上で俺からも金が出るってわけよ。こんな上手い話はないぜ」


 正直苦しい条件だが、なんでもいいからなにか成果をあげたいという俺の欲が金銭的犠牲を省みらせなかった。


「……わかりました。僕でも、何か役に立てるのなら」


 割り切ったように笑顔を見せるリグル。

 しかし、顔だけでも食っていけそうなイケメン野郎である。自分と比べると虚しくなるが。


「契約成立だな。じゃ、サインと親指だ」


 サラリとリグルがサインを書く。

 金は惜しいが、これでなんとか俺ももう少し冒険者として食っていける。それどころかもっと上だって目指せるかもしれない。


 羊皮紙が霧散し、俺は絶望した。

 そのときリグルの手の上に乗っていた、たった一枚の銅貨を見てしまったから。

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[良い点] タイトル。タイトルのつけ方がうまいです。単なる追放モノでなくてそれにあやかろうとしたひとの話だとわかるし、そのうえ易々とあやかれるわけではないのがヒシヒシと伝わってきて。これは読んだことな…
[良い点] ユニークスキルがユニークですね〜 契約としては使い勝手がよさそうだけど、契約内容への対価が自分でコントロール出来ないのがいいなぁと思いました。主人公と共に読んでいるこちらも一喜一憂できる。…
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