40、社会人になった私達
私は学校を卒業後、国の植物関連の研究施設に就職し、そこから国立の植物園に派遣されて働く事になりました。
広い温室の中で、作業着を着て長靴を履き、植物の世話をしたり記録を取ったりして、毎日充実した日々を過ごしていました。
ヒルトンさんとは手紙のやり取りで近況を知らせあっていましたが、彼女は相変わらず元気で自由気ままに過ごしているようでした。
ユズル君も元来の真面目さや気配り上手な面が評価され、仕事も順調なようでした。
タケル君は、マキシム君と時々会っているようでした。マキシム君の話によれば、研究の仕事の楽しさにはまってしまい、仕事以外でも研究の事ばかり考えているようです。恋愛の方は‥‥今のところ、まだ気になる女性は現れてはいないようでした。
それと‥マキシム君ですが、近々環境問題を話し合う為の世界会議に出るらしいです。その世界会議は、私達の故郷であるメディチ王国で行われる為、マキシム君は会議の期間中自分の実家に滞在する事になりました。
そして今日は、マキシム君が船でヒノキ国を出国するので、私はそのお見送りに来ていました。
ちなみにメディチ王国へ行くには、ヒノキ国と同じ大陸にあるとはいえ、内陸部を進むよりもお金に余裕があるならば、船で行った方が早いようです。‥‥そういえば、メディチ王国も海沿いの国でしたね。
「レミー、しばらく会えないけど元気でいてね。‥メディチ王国にいる両親に、君と結婚する事を報告してくるよ。」
「マキシム君のご両親に宜しくお伝え下さいね。」
「分かったよ。それにしても、レミー‥いつになったら、マキシムって呼んでくれるんだい?君付けは子供っぽくて何だか嫌だよ。」
「あっ‥‥ごめんなさい。」
「‥さあ、マキシムって呼んでごらん?」
「‥マキシム?」
「アハハ、何で疑問形なの。もっと堂々と呼んでよ。マキシムって、ほら。」
「‥マキシム!」
「おっ、言えたね、その調子だよ。」
「マキシム!」
「アハハ、分かったから。」
私は、マキシム君‥じゃなくて、マキシムの名前を呼びながら、思いっきり彼に抱きついてしまいました。
こうして隙あらば、マキシムに抱きついてしまう私ですが、彼の方もそんな私にはもうすっかり慣れてしまったようです。
今も彼は、抱きついてきた私の背中に手を回し、いつものように丁度良い塩梅で抱き返してくれるのでした。
そんな彼に対して、私はどんどん図々しくなっていました。
今だって、私は彼が船に乗り込む寸前までずっと抱きついたまま、マキシムを離すつもりはありませんでした。
‥だって、マキシムが船に乗ってしまったら、もう何週間も会えなくなってしまうのですから‥‥。
「‥レミー、嬉しいけどそろそろ船に行かなきゃ。」
そう言ってマキシムが私の体を引き離そうとするので、私は少し抗ってみました。
「‥レミーはこうなると、そう簡単には離れてくれないからなぁ‥。」
そう言ってマキシムは、片手で私の顎をクイッと持ち上げると、チュッと唇にキスをしてきました。
「‥‥!」
驚いた私は、慌ててマキシムから離れました。
「アハハ。レミーやっと離してくれたね。」
「マキシム、今‥口に‥。」
「‥あれ、口にするのって初めてだっけ?」
マキシムはそう言って、しれっとした顔で私を見ています。
「‥初めてです!‥だから、もっとしっかりキスしたいです。ずるいです!」
「レミー‥‥それ以上は言っちゃ駄目だよ。‥そんな思わせぶりな事を言われたら、男は色々と勘違いをしてしまうからね。」
「‥‥ごめんなさい。嬉しくってつい‥。でも、やっぱりせっかくだから、もう少しマキシムとキスしたかったです。」
「まったく‥‥レミーは僕に対して時々びっくりするぐらい積極的になるよね。まあ、そんな所も可愛いんだけど。」
「‥‥。」
二人でそんなやり取りをしていたら、とうとう出航の時間が迫ってきてしまいました。
「レミー、本当に元気でいるんだよ。僕が帰って来るまで、頼むから大人しくしていてくれよ。‥危ない真似だけはしないでくれよ。」
「‥もう、私は子供じゃないんですからね。」
「‥でも、心配だ。」
「大丈夫ですって!それよりマキシムこそ、どうか無事に帰って来て下さいね。」
「ああ、大丈夫だ。行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい!」
マキシムはタラップをあがって船に乗り込みました。そして、船のデッキから私の姿を確認すると、手を振ってくれました。
私もマキシムに手を振りました。船が港を離れ、地平線の向こうへと消えて見えなくなるまで‥‥。
私はマキシムを見送った後、一人暮らしをしている自宅ではなく、自分の実家へと向かいました。マキシムが戻って来るまでに、結婚に向けての準備が色々とあるからです。




