37、舞踏会にて ダイアン様との再会
私が別室へ向かうと、入り口の所でダイアン様と目が合ってしまいました。
「‥レミー、久しぶり。‥しばらく見ない間に、ますます綺麗になったなぁ。」
「‥ダイアン様‥。」
ダイアン様の後ろには、フラン大国のアイシラ王女が立っていました。‥私は二人を見た瞬間、昔の嫌な記憶が蘇り、思わず顔をしかめてしまいました。
「‥レミー、君は僕の事をまだ恨んでいるかい?‥僕はあれからも君の事をずっと想っていたよ。‥それに時々無性に会いたくなっていたんだ。」
ダイアン様はそう言うと、私の髪を一筋すくい上げ、そこにキスをしました。
「‥‥奥様の前で‥最低!」
私はこの瞬間、ダイアン様に無性に腹が立ち、少し酔ってふらついていたダイアン様を、思いっきり突き飛ばしてしまいました。
‥ダイアン様は、簡単に倒れてお尻をついてしまいました。
別室にいた人達は、そんなダイアン様を見てクスクスと笑っているのでした。
ダイアン様は、情けない表情をして私に手を伸ばしました。‥起こしてくれ、という事でしょうか?私はうっかりその手を取ってしまいました。
すると、ダイアン様は口の端を吊り上げて私を見上げると同時に、掴んだ私の手を強く引き寄せ、抱きしめてキスをしようとしてきました。
「やめてー‥‥。」
「‥‥‥んぐ‥‥、んぐ‥。」
「‥‥?」
キスをされるかと思って抵抗していた私の耳に、ダイアン様の変な声が聞こえてきたので、私は思いっきり反らしていた頭をもとに戻し、閉じていた目も開けてみました。
すると、私とダイアン様の間に挟まれて、マキシム君がいました。ダイアン様は、私にキスしようとした口を、マキシム君の手で塞がれて、もがいていました。
「‥レミー、間一髪だったね。助けに入るのが遅れてごめんね。」
「‥マキシム君!なぜここにいるんですか、‥マキシム君!」
私はびっくりしたのと、嬉しいのとで、思わずマキシム君に抱きついてしまいました。
マキシム君は驚きながらも、抱きついてきた私の背中をトントンと叩いて宥めてくれました。
「レミー、怖かったね。もう大丈夫だ。」
マキシム君の腕の中は、温かくて、ほのかに汗と石鹸の香りがして、とても心地良かったので、私は公衆の面前だという事を忘れて、しばし抱きついたままでいました。
「レミー、もう大丈夫だから‥立てるかい?椅子の所まで行って腰掛けよう。」
私は渋々マキシム君から離れました。
そして、床で座り込んだままのダイアン様に再度近付きました。
私はダイアン様に対して、無性に何か一言言ってやりたくて堪らなくなったのです。
「ダイアン様!女性を馬鹿にするのも大概にして下さい!あと、お酒はきっぱりやめるべきだと思いますよ!
それと‥‥もっと身重の奥様の事を、思い遣るべきだと思います。あなたは‥‥。」
「もうやめて!」
私がダイアン様に文句を言っている最中に、アイシラ王女が割り込んできました。
「‥もういいの。もう、終わりにするわ。‥ダイアンに婚約者がいる事を知っていて近づいた私が悪いの!‥結婚した後も、ダイアンがレミーさんの事を時々愛おしそうに思い出している事も知ってたの。それにお酒に酔って、侍女達に手を出していた事も‥見て見ぬふりをしていたの。
ダイアンは、私の初恋の人なの。こんな彼でも愛していたのよ‥。」
アイシラ王女は、そう言って泣き出してしまいました。
するとダイアン様は嘲笑しながら、信じられない言葉をアイシラ王女に吐き捨てたのでした。
「‥アイシラのお腹の子だって、誰の子か知れたものじゃないだろ?‥どうせ愛人との子供なんだろう?」
その言葉を聞いたアイシラ王女は、ダイアン様の頬を思いっきり平手打ちしました。
「この子はあなたの子よ!‥愛人なんていないわ。頼りにならないあなたに代わって、私が政治を行なっていたのよ‥。あなたの言う愛人達は、そんな私の為に一生懸命に動いてくれた側近達よ。」
「‥そんな、‥そうだったのか。僕はてっきり君が僕の事を裏切ったのだと思って‥‥。だから、侍女達と浮気してしまったというのに‥。」
「‥もう、いいわ。あなたは我が国の王になる器でない事は、よく知っていたの。‥もう、いいの。終わりにしましょう。あなたの事を解放してあげるわ。‥さようなら、ダイアン。」
アイシラ王女は、そう言ってダイアン様から目を逸らすと、私のいる方を見てきました。
「‥あなたに謝ったりしないわ。だって‥私だって充分苦しんだのよ。」
アイシラ王女はそう言って、泣きそうな笑顔を私に見せると、一人その場から去って行きました。
取り残されたダイアン様は、相変わらず床に座り込んだままで、茫然としていました。
そこに、メディチ王国のミカエル王太子夫妻が現れました。
「‥レミー?」
「ルビーさん‥、ルビー様!」
レミーは、婚約者選定時代に仲の良かったルビーさんとの再会を喜びました。
「レミー、色々と力になれなくてごめんね。」
「‥私こそ、黙っていなくなってごめんなさい。」
レミーはミカエル王太子に気付き、礼をしました。するとミカエル王太子は、すまなそうな顔をしてレミーを見てきました。
「レミーさん、弟が済まなかった。あなたに我が国がした事を済まなく思う。‥許してくれとは言わないが‥、せめて謝罪の気持ちだけでも受け取ってくれ。」
そう言って、レミーに頭を下げてしまいそうな勢いの王太子様を制して言いました。
「そんな‥王太子様、お願いですから謝らないで下さい。もう済んだ事ですから。それより‥‥ダイアン様はこれからどうなりますか?」
「ダイアンはメディチ王国へ戻し、領地で隠居してもらうつもりだ。‥王位継承権も剥奪してな。」
王太子様はそう言うと、ルビー様を連れて去って行かれました。
やっと騒動が落ち着いて、野次馬達も立ち去った後、別室には私とマキシム君だけが残っていました。
‥‥タケル君も、いつの間にかいなくなっていました。
私とマキシム君は手を取り、お互いに見つめ合っています。
私は、マキシム君の一挙手一投足に集中していました。
室内に緊張感が漂う中、マキシム君が言いました。
「レミー、僕は君が好きだ。結婚を前提に付き合って欲しい。」
「‥はい!私もマキシム君が大好きです。宜しくお願いします!」
私はそう言って、マキシム君に抱きつきました。
それを‥マキシム君は、戸惑いながらも受け止めてくれて、抱きしめ返してくれました。
私は、この時人生で最高に幸せな瞬間の中にいました。




