36、舞踏会にて ハインリヒ様との再会
舞踏会のワルツの曲が何曲も繰り返し演奏される中、私は次々と申し込まれるダンスの誘いにもう辟易していました。
私は何人目かのダンスの誘いを丁重にお断りし、壁際の椅子に腰掛けて休憩を取る事にしました。
「ふぅ、疲れた。」
「‥お疲れのようですね。‥‥あなたのダンスはとても素晴らしかったですからねぇ、皆んながダンスを申し込んでくるのも無理ないですよ。‥僕も是非あなたと踊りたかったなぁ。ねぇ、レミー。」
「‥!」
聞き覚えのある声が、すぐ横から聞こえてきました。恐る恐る横を向くと、そこにはハインリヒ様がいました。
「‥ハインリヒ様‥、なぜここに?」
「‥なぜここに、だって?‥ハハハ、それはこっちのセリフだよ。
なぜ君は僕から逃げてここへ来たんだい?」
「‥‥なぜって‥。」
ハインリヒ様は、虚な目で私を睨みながら、手を強く握ってきました。
「‥逃がさないぞ。レミー!」
ハインリヒ様がそう言って、さらに強く手を握ってきた為、私は思わずその痛みに顔を歪めてしまいました。
その時です。その様子を見ていた私服の警備員達が私とハインリヒ様を取り囲みました。
「そこまでだ!彼女から手を離せ!」
「‥貴様ら‥僕を誰だと‥!」
ハインリヒ様が私服警備隊と睨み合いをしていると、同じく舞踏会に参加していた、ギリス大国の王太子様がやって来ました。
「ハインリヒ!みっともないぞ!また国から勝手に出て行って、外国の女性に手を出そうとしていたのか!‥もう我慢の限界だ!‥お前には、今後我が国からの出国を一切禁ずる!!‥もうこれ以上我が国の恥を晒すような行いはさせないからな!」
ギリス大国の王太子様はそう言うと、自国の騎士達に命じてハインリヒ様を捕らえてしまいました。そして、私に向き合い穏やかに話し始めました。
「‥あなたがレミーさんですね。ハインリヒが大変失礼をしました。‥ですが、これからは我が国でしっかり監視をしておきますので、ご安心下さい。‥お詫びに何かさせて頂きたいのですが‥。」
ギリス大国の王太子様は、長い顎髭を触りながら、私の言葉を待っているようでした。
「‥‥と言われましても、特に何もありません。お気持ちだけ頂いておきます。」
「‥‥なるほど、いいでしょう。今ここで、こちらの善意をあなたに押し付けるような事はしたくありません。‥ここは一つあなたに借りができた、と考えましょう。‥ではまたいつか。この借りはきっとお返しいたしますので‥。」
ギリス大国の王太子様は、そう言って私の前から去って行かれました。
一人その場に取り残された私は、胸をおさえて深呼吸をしました。‥‥落ち着いて何事もなかったかのように冷静に振る舞わなきゃ‥と思うのですが、時すでに遅しでした。
今の騒ぎのせいで、人がたくさん集まって来てしまいました。
‥‥やだ、こんな風に目立ちたくなんかなかったのに‥。
私はそっと会場から退場し、別室へと向かう事にしました。
一方、レミーの事を少し離れたところで見守っていたマキシムとタケルの二人は、ハインリヒが捕まえられた事に安堵しつつも、まだまだ警戒心を解かずにいました。
そして引き続きレミーを見守り続けるのでした。




