34、舞踏会に向けて
舞踏会への参加を決めた日から、私は授業の後に音楽室でタケル君とダンスのレッスンをする事になりました。
タケル君のお願いを受けた音楽教諭の有栖川紀彦先生が、ピアノを伴奏してくれています。
音楽室の中には、ダンスレッスンに興味津々で一緒に参加したヒルトンさんと、その彼氏のユズル君、そしてマキシム君もいました。
マキシム君は、パートナーがいない為、本を持ち込んで読書を決め込んでいました。
有栖川先生が優雅にワルツやバラードをピアノでひいてくれる中、私達は軽快に、時にはしっとりと踊り続けました。
私は王妃教育でダンスは完璧でしたが、タケル君はダンスは初心者のようでした。それでもタケル君の舞踏会に対する思いはとても強いようで、何度も何度も繰り返し踊り続けて、数時間後には何とかダンスも様になってきました。
そんなタケル君と私が踊る隣では、ヒルトンさんとユズル君が踊っていました。この二人も勿論初心者ですが、ヒルトンさんは初めてとは思えないほど、リズムにのれていましたし、ステップも私のを見よう見まねですぐに覚えてしまったようです。
「ヒルトンはダンスが上手なんだね。‥僕は全く駄目だよ。ちっとも君をリードできないや。」
「別に上手じゃなくても良いのよ。私はこうしてユズルとくっついて踊れるだけで楽しいの。」
「ヒルトン、ありがとう。僕も君と踊れて楽しいよ。」
「ユズル、私も楽しいし、嬉しい。」
「‥‥‥。」
私とタケル君は、隣で踊るヒルトンさんとユズル君カップルの仲睦まじい様子に当てられっぱなしで、なんとなく気不味い感じになってしまいました。
オホン、
「では今日はここまでにしましょうか。先生もさすがに疲れてしまいました。‥では、タケル君とレミーさん、舞踏会当日は楽しんで踊って来て下さいね。」
「はい。」
「‥マキシム君、ちょっとここに残ってもらえますか?」
私達が寮へと帰ろうとする時、マキシム君だけが有栖川先生に呼ばれて残されました。
「‥先生、なんでしょう?」
一人残されたマキシムは、何事なのかと怪訝な顔で先生にたずねました。
「マキシム君、君はピアノが弾けるんだよね。しかも、ダンスの曲を何曲も覚えているよね。」
「はい。」
「‥君がこの音楽室でたまにピアノを弾いてたのを、僕は知ってたんだよ。‥しかも、君のピアノは、プロとして活躍できる程の腕前だ。」
「‥‥そうですか。」
「それで‥なんだけど、僕と一緒に舞踏会当日にピアノ伴奏者として来て欲しいんだ。‥駄目かい?」
「‥‥いえ、喜んで行かせて貰います。」
「‥‥そうか、引き受けてくれて良かったよ。僕一人で行くのは何かと不安だったんだよ。‥‥本当に良かった。」
「いえ、こちらこそ貴重な機会を頂けて感謝しています。」
「‥そう言えば、僕の勘違いでなければ、君はレミーさんを好きなんだろう?舞踏会当日は、決まったパートナー以外ともダンスを踊って良い事になっている。‥君もレミーさんをダンスに誘うと良いよ。」
有栖川先生は悪戯っ子のような笑みを浮かべてそう言うと、マキシムに招待状を手渡し、ウインクをして去って行きました。
マキシムは、先生がくれた舞踏会の招待状を、大切に胸元のポケットへしまうと、遠ざかる先生の背中に感謝の意を込めてお辞儀をしました。
マキシムは寮の部屋に戻ると、この事をタケルに報告しました。
タケルは意外にも喜んでくれました。
「‥マキシムが同じ会場にいるかと思うだけで、僕も心強いよ。‥実は少し不安だったんだ。ダンスもまだ下手だしね。」
タケルは心から安心した顔をして、マキシムの参加を歓迎してくれました。
「当日は、僕もレミーをダンスに誘おうと思う。」
マキシムがタケルにそう宣言すると、タケルは黙って頷きました。
これで、マキシムは舞踏会でレミーをダイアン王子から守り抜き、ダンスも申し込む事ができるようになりました。
マキシムは、当日の事を考えると緊張してくるのを感じました。
「‥ハハハ、何だか緊張してきたよ。」
「ピアノ伴奏のせい?」
「‥いや、レミーをダンスに誘う事を考えて緊張してるんだよ。」
マキシムがそう言って招待状を手に握りしめるのを見ながら、タケルは何となく嫌な予感を感じていました。
マキシムが、レミーにダンスを申し込むだけでなく、なんらかの決意を胸に秘めているような、そんな気がしたからです‥。




