27、旭商会の海難事故について
マキシムとフジコさんが街道を海の方角へ向かって進んで行くと、とある商社が見えてきました。入り口にはマキシムのよく知る男性が立っていて、二人を出迎えてくれました。
「マキシム君、客人達が中で待っているよ。」
彼、ローズ伯爵はそう言って、マキシムとフジコさんを建物の中へ入るよう促しました。
広い応接間に通されると、なんとそこにはヒノキ国の貿易商社の代表者達が勢揃いしていました。勿論その中には、フジコさんの父上や、フジコさんに息子との婚約をせまった商社の会長もいました。
そしてこの錚々たるメンバーを集めたのが、他ならぬレミーの父、ローズ伯爵でした。
ちなみにこの伯爵の爵位は、この国の王様からローズ伯爵が授かった一代ものの爵位との事でした。
爵位といっても実質名ばかりのものでしたが、それでもローズ商社が国内外で取引をする際に爵位は大切な身分証明となった為、大変利用価値があったそうです。
さて、このメンバーで今日集まったのは、先日のフジコさんの父上の会社、旭商会の船の海難事故についての話し合いの為でした。
この話し合いの進行を務めるのは、この国の運輸安全委員会のミナトさんでした。
「‥では、早速話に入らせて貰います。‥先日の旭商会の海難事故の件ですが、少々不審な点もありましたので、ご報告させて頂きます。」
そう言ってミナトさんが話し始めると、少しずつ動揺を見せていったのは、旭商会以外の商会の会長達でした。
「‥旭商会の船に不自然に傷をつけたような跡や、故意にエンジンを損傷させた痕跡が見つかりました。その為、故意に起こされた事故とみなされ、積荷や船体に掛けられた保険が降りなかったんですよね。
‥‥旭商会が運んでいた荷は、政府と協力して運んでいた大量の発電機だった為、保険会社から保険金が払われなかった事により、旭商会だけでなく政府も多額の負債を負う事になりました。
その為、政府はこの国の海上保険会社と、疑わしいとされる貿易商社に、海難審判所による海難審判を要求する見解を示しています。」
ミナトさんがそう言った途端、商社の会長達がざわつきました。
そしてミナトさんは、ついに核心をついてきました。
「‥‥僕は、旭商会の船の事故は、他の悪意ある者達による策略によって起こされた事故だと思っています。生き残った船員達の証言でもそれは明らかになっています。僕もだいたいの目星はついています。
それに海上保険会社が、多額の保険金の支払いをしぶり、その悪意ある企みに加わっていた証拠も上がっています。‥皆さん、この海難事故の件についてもう一度話し合いませんか?
その結果次第では、政府も見解を改めるとの事です。」
その後の商会の会長達による話し合いの結果、正当な保険金が保険会社から支払われる事になりました。
そのおかげで、旭商会は負債を負う事もなくなりました。勿論、フジコさんの婚約話もなかった事になりました。
つまり、この事故の真相はこうでした。
急成長し、次々と外国からの大きな荷を運ぶ旭商会をやっかんだ他の商会達が、旭商会を潰そうとして故意に事故を起こしたのです。そして、その企みにのったのが海上保険会社でした。‥保険会社も少しでも支払い金額がなくなった方が良いに決まってますので‥。
その後この事故については、政府の見解も改められ、海難審判も行われる事はありませんでした。
この海難事故の件をこれ以上追及する事をやめた理由は、政府が疑わしいとされた貿易商社や海上保険会社に貸しを作る為であったし、この事により国の貿易業が滞る事を政府が恐れた為でした。
話し合いの後に、マキシムのもとに駆け寄ってきたのは、ローズ伯爵と運輸安全委員会のミナトさんでした。
「マキシム君、君の考えたシナリオは素晴らしいな。それに、短期間でこれだけの面子を集結させたローズ伯爵の手腕も素晴らしい。あなた達とは今後も多いに関わっていきたい。宜しくお願いしますよ。」
ミナトさんはそう言って、マキシムとローズ伯爵と握手を交わしました。
そして、その様子をうっとりとした様子で見ていたのは、フジコさんでした。
「フジコ、良かった!父さんの会社は助かったんだ!お前もあの男との婚約にもう悩まなくて済むんだぞ!良かった~!」
そう言って旭商会の会長がフジコさんに駆け寄ると、フジコさんは父上である会長に懇願しました。
「お父様‥私、マキシム君が欲しい。マキシム君と結婚したいの。‥お願いお父様、私にマキシム君をちょうだい!」
フジコさんの思わぬ懇願に困惑した旭商会の会長でしたが、いつにない娘の真剣な様子に絆されて、思わず頷いてしまいました。
「ああ、良いだろう。あの外国の青年の事だろう?‥私もあのような後継ぎが欲しい。‥マキシム君には、何が何でもお前の婿になって貰おうな。」
旭商会会長はそう言うと、マキシムをギラギラとした目で見つめました。
こうして、フジコさんはその後もマキシムに対する執念深い愛情を、惜しげもなく晒していくのでした。




