24、謎の女子生徒
学校で授業を受けるようになり、二週間程が経ちました。タケル君のおかげで、私は授業の内容もすんなり分かる様になり、先生の話す事も正しく理解できるようになりました。
勉強の楽しさが分かってきた私は、同室のヒルトンさんも呆れるぐらい勉強にのめり込み、いつしか授業後に先生に質問をしに行くほどになっていました。
それに私は勉強以外にも、寮の皆んなと夜な夜なパジャマパーティーをしたりと、とても楽しい毎日を過ごしていました。
そんな平和な日々が続くかと思われたある日、私達の隣の一般クラスである騒ぎが起きました。
「‥何だよ!落ちぶれ商人の娘のくせに、お高くとまってんじゃねぇよ!‥‥いいから俺に付いて来いって!」
「‥触らないで!離しなさいよ!嫌だって言ってるでしょ!」
「‥ちっ、生意気な女だなぁ!」
私達も騒ぎの様子が気になり野次馬に混ざって様子を見に行ってみると、どうやら一人の女子生徒がガラの悪い男子生徒に絡まれているようでした。
男子生徒はまわりの野次馬達に苛立ちながらも、女子生徒の腕を引っ張ってどこかへと連れて行こうとしていましたが、遠くに先生達の姿を見かけると、慌てて走り去って行きました。
「こらー、またお前か!この不良生徒が!!」
そう言って一人の先生が、男子生徒を追いかけて走って行きました。
男子生徒がいなくなって騒動がおさまると、皆んな自分達のクラスへゾロゾロと帰っていきました。
‥‥そんな中、先ほどの騒動の中心だった女子生徒は、自分の教室へ戻る様子もなく、先ほど男子生徒に掴まれて赤くなった腕をさすりながら、まだ立ち竦んでいました。よく見ると、体も小刻みに震えていました。
「‥‥レミー、先に教室へ戻ってて。僕は彼女を保健室へ連れて行くよ。」
「‥あっ、なら私が‥同じ女子同士‥‥。」
廊下で立ち竦んだままの女子生徒に駆け寄るマキシム君に、『私が代わりに連れて行きますよ。』と言いかけた私ですが、すでにマキシム君は女子生徒に声をかけ、保健室へ向かっていました。
男子生徒が女子生徒を連れて保健室へ向かう行為は、周りに誤解を招く行為の為、私は止めるべきだったのでしょうが‥マキシム君にそう言ってしまうのは、マキシム君の善意にケチを付けてるようで、何となく憚られてしまったのです。
‥‥私はマキシム君を止めるのではなく、マキシム君とその女子生徒に付いて行く事に決めました。
「‥‥これは別にやきもちとかそう言うのじゃないわ、あくまで世間体を考えての事よ、決して私がマキシム君と女子生徒を二人きりにしたくないから、付いて行く訳じゃないわ。」
私がそうやってブツブツ呟きながら、マキシム君達のあとを追うと、マキシム君は私の方を振り向いて、済まなさそうに笑って言いました。
「レミーも来てくれたんだね。‥ごめんね、授業さぼらせちゃって‥。」
「大丈夫です。私こそ、勝手についてきてしまってごめんなさい。」
私とマキシム君がそんなやり取りをしていると、いつの間にか保健室にたどり着いていました。中に入り三人で椅子に腰掛けると、女子生徒がやっと口を開きました。
「‥あなた達、外国から来た方達なのよね。だから、こうして私に平気で親切にして下さるんだわ。‥‥変な事に巻き込んでしまってごめんなさい。」
彼女は、本当に済まなさそうに私達に謝ってくれました。そして、彼女の身の上話をしてくれました。
彼女は、ついこの間まではヒノキ国でも指折りの大きな貿易会社のお嬢様だったのだそうです。
ところが、先日の嵐による海難事故で、船に乗せていた全ての荷物を流してしまい、多額の負債を抱えてしまって会社は倒産寸前なのだそうです。
「保険を掛けていたのでは?」
「‥確かに貨物海上保険をかけていたのですが‥‥‥。」
彼女の話だと、保険の「清算人」が、船の事故は嵐によるものではなくて、船の管理が行き届いていなかった事や操作のミスによる事故だと主張したのだそうです。
その為、事故で流されてしまった荷物の負担をほとんど彼女の会社が負う事となったのだそうです。
「‥勿論保険会社も少しは負担してくれますが‥‥私の父の会社は多額の負債を抱えてしまったのです。
‥‥先程私に絡んできた男子生徒は、以前から私の父の会社を、ライバル視していた会社の息子なのです。
‥‥最近彼の家の会社が、私を彼に嫁がせるなら、父の会社に融資をしても良い、と言い出したのです。‥それ以来、ああして彼が私に付き纏うようになったのです。
‥‥私は彼の事がとても苦手なのです。でも、父の会社の事を考えると‥やはり彼と結婚をするべきなのでしょうか?‥‥それでも、どうしても彼が嫌だというのは、私の我がままなのでしょうか?」
彼女がそう言ってハンカチで涙をおさえていると、マキシム君は‥彼女の手を取り、優しい口調で言いました。
「‥あなたの父上の会社の事故や、保険会社、それに先程の彼の家の会社‥‥何か怪しいですね。僕が調べてみます。だから、泣かないで下さい。」
「‥‥ありがとうございます。」
彼女はそう言うと、マキシム君に寄りかかり泣き始めました。マキシム君も、彼女の背中に手を伸ばし、彼女を宥めるかのように優しくその背中をさすってあげました。
彼女はマキシム君の腕に抱かれながら、急に私の事を睨みつけてきました。
‥その目は、まるで邪魔者を見るかのような鋭い目でした。
私はこの時とても嫌な予感を感じました。
彼女はきっとマキシム君を好きになる‥‥。
そして私のそんな予感は見事に当たってしまうのでした。




