22、タケル君
放課後図書室へ行くと、マキシム君が先に席をとっておいてくれたようで、窓際のテーブル席から、私に手招きをしてくれました。
「レミー、こっちだよ。」
私はマキシム君の席へ向かいました。‥マキシム君の隣の男子生徒の視線を感じながら‥‥。
席に着くと、早速お互いに挨拶を交わしました。
「レミーさん、僕の事はタケルと呼んで下さい。‥昨日マキシムと歩いていたあなたを見て、美しいなぁと思ってたんですよ。だから、こうしてレミーさんと同じ席についてるだけで、幸せです。」
「まぁ、そんな‥‥大袈裟な。」
「‥いえいえ、本当にレミーさんは美しいです。今度良かったら一緒にお出掛け‥。」
オホン、
「タケル、レミーさんが授業についていけるように勉強を教えてあげて欲しいんだ。宜しく頼むよ。」
「‥ああ、そうだった。ごめんね、レミーさん。」
「じゃあタケル、頼んだよ。僕は邪魔にならないように、向こうの席に行ってるから。レミーさんも、頑張ってね。」
「‥‥。」
私はマキシム君がせっかくセッティングしてくれたタケル君との勉強会なのに、何故か急に嬉しくなくなってしまいました。
なぜ、マキシム君はタケル君と私を二人っきりにしてしまうの?
まさかタケル君と私の仲を取り持とうとしてるの?それとも本当に私の勉強の為だけを思っての事なの?
私の中で負の考えが渦を巻いていました。
「レミーさん?大丈夫かな、始めようか。」
「あっ、ごめんなさい。宜しくお願いします。」
私は、タケル君の顔を見て我に返りました。
ダメダメ、変な事を考えるのはやめよう。今は勉強に集中しなきゃ。タケル君にも申し訳ないし‥。
私はタケル君との勉強に集中する事にしました。
タケル君の教え方はマキシム君が言う通り、とても上手でした。おかげで私は、今日の授業の内容もやっと理解できました。その上タケル君は明日以降の予習まで手伝ってくれたのです。なんて優しい人なんでしょう。‥タケル君には、本当に感謝しました。
勉強が終わった頃、ふと窓の外を見ると空がオレンジ色になっていました。私が空に見惚れていると、タケル君が話しかけて来ました。
「この国では、こうして日が沈んで空が赤く染まっていく事を『夕焼け』と言うんだよ。」
「夕焼け‥‥綺麗な言葉ですね。」
私とタケル君は、窓から日が沈むのをずっと一緒に見ていました。
勉強を頑張ったせいでしょうか、何故かとても充実した気分になっていました。
「‥‥さて、帰ろうか。レミーさんは集中力が凄いから、理解も早いね。教えててとても楽だったよ。」
「いえ、タケル君の教え方が上手なんですよ。」
私はタケル君と話しながらも、無意識にマキシム君の姿を探してしまいました。
「‥マキシムはいないよ。多分先に帰った。」
「‥そうなんですね‥。」
私はあからさまにガッカリした態度をとってしまいました。
「ねえ、レミーさん。僕は君に一目惚れしてしまったようなんだけど‥‥。」
「ええっ!?」
「‥もし困るなら、正直に言って欲しい。僕の勘違いでなければ、君はその‥‥マキシムに恋してるよね?」
「‥‥はい。私はマキシム君がとても好きです。あっ、でもマキシム君には言わないで下さい。」
「ハァーッ。‥‥やっぱりそうなんだ。‥うん、もう良いよ。君をもっと好きになる前に分かって良かった。今なら傷も浅いし、諦めもつくからね。」
「‥ごめんなさい。」
「アハハ、謝らないで良いんだよ。それに‥恋人になれないなら、友達になろうよ。僕は無闇に君に迫ったりしないから。寧ろマキシムとの事を応援するから。」
「‥良いんですか?」
「良いんだよ。それに君が勉強をする時、僕が必要だろう?」
タケル君はそう言うと、満面の笑みを私に向けてくれました。
私はタケル君の顔を、今初めてまじまじと見ました。
タケル君は、よく見ると背も高くてとても綺麗な方でした。涼しげな切れ長の目と、筋の通った細い鼻と、薄い唇はとてもセクシーでしたし、艶々の黒髪は真ん中で分けられ肩で揃えられており、少し中性的な雰囲気を醸し出していました。
タケル君‥こんなに綺麗な方だったんですね。‥‥ですが、私にとってはタケル君がどんなに綺麗で賢くて優しい方だろうと、マキシム君の方が愛おしく思えてしまうのです。
‥‥どうやらタケル君を異性として意識する事はなさそうです。私はタケル君の事を恋愛対象として見れませんでした。
ですが、タケル君の性格にはとても好感が持てました。だからタケル君を私に紹介してくれたマキシム君にはとても感謝すべきなのに‥‥。
なのに、何故でしょう。やっぱりモヤモヤしてしまうのです。
「マキシム君、私の為にタケル君を紹介してくれてありがとう。
でもねマキシム君、タケル君がどんなに素敵な人だとしても、私が好きなのはマキシム君だけなんですよ‥‥。」
私の心の中のそんな声も、きっとマキシム君のもとに届く事はないのでしょうね‥‥。




