17、これから先‥
王子側からの突然の婚約破棄と、新たな婚約話のあった日から数日が経ちました。
両親は私の新たな婚約話に悩んでいました。
私が王子側から婚約破棄されたとあって、今後この国での私の婚約は絶望視されています。
かと言って、ギリス大国の王子‥と言っても何番目の王子かは不明ですが、その王子と婚約して、将来七番目の妃となる事は、私も両親にとっても、とても不本意な事でした。
「‥‥レミー、いざとなれば亡命という手もある。お前は私達の大切な一人娘だ。だが、この国にいる限り、王様の命令は絶対なんだ。断る訳にもいかん。だから‥何処かの国に亡命しよう。」
「あなた、私も亡命に賛成です。領地からの収入は途絶えますが、贅沢さえしなければ暮らしていけるだけのお金はあります。それに‥いざとなれば私だって働きますから。」
「お父様、お母様、ごめんなさい。私のせいで、本当にごめんなさい。」
「レミー、お前は何も悪くない。お前こそ、可哀想に‥たくさん傷ついただろうに。」
「あなた、もうこれ以上この国に尽くす義理はありません。亡命こそが最善の策です。それに、あなた‥何処かの国の爵位を頂いてませんでしたか?」
「‥まあ、文書として一応持ってはいるが、その国の王様は既に代替わりしてるし、あてにはならないと思う。」
「‥そうですか。あっ、あなた、侍女達はどうしましょう。」
「‥申し訳ないが、退職金を沢山あげて辞めてもらうしかない。」
「‥‥。」
両親と私がそんな話をしていると、扉がノックされ、執事がマキシム様の訪問を告げました。両親は少し警戒しつつも、応接間にマキシム様を通す事にしました。
「ローズ侯爵、お久しぶりです。」
「宰相のとこの‥マキシム君。何の用ですか?」
「‥レミーさんに良いお話を持って来ました。」
「‥?」
両親はマキシム様をソファーに促すと、マキシム様の話に聞き入りました。
「レミーさんを留学させてみませんか?ヒノキ国に良い学校があります。共学で、寮生活になりますし、平民も通う学校ですが、勉強のレベルは我が国とは比べものにならない程高いです。学費に関しても、貴族の通う学校とは違い平民も通える学校ですから、膨大な費用がかかる事はないです。
‥‥我が国では、貴族の令嬢は花嫁修行以外の勉強は良しとされておりません。その為、貴族の令嬢なのにも関わらず、文字の読み書きも覚束ない令嬢が少なくありません。
そんな中、レミーさんは王妃教育に忙しい中でも、毎日図書室に通い勉強をしていました。植物の種類から世界地理に至るまで、分野を問わず様々な知識を得てきました。
レミーさんは、好奇心旺盛で想像力が豊かで、勉強熱心で素晴らしい女性です。この国の中で埋もれてしまうのは、もったいない女性です。ですから、是非留学をお勧めしたいと思います!」
少し前のめりになり力説するマキシム様に、母は圧倒されていました。
ですが、父の方は‥目に涙をためて体を震わせてます。
「‥マキシム様、そこまで娘の事を思ってくれて‥。この国で、あなただけが唯一レミーの事を心配してくれました。そして、レミーの将来の為といって、真剣にレミーの進むべき道を示してくれた。‥‥本当にありがとうございます。」
父はマキシム様の手を掴むと、両手で強く握り、マキシム様の目を見て深く頷きました。
マキシム様は、そんな父に対して優しく頷き返してくれました。
「レミーさん、あなたはどうしたい?」
「私は、ヒノキ国の学校へ行って勉強したいです。国のしがらみから離れて、自分の力で生きていける力をつけたいです!」
あっ‥‥思わず本音を言ってしまいました。両親や国に対して遠慮して、今まで言えなかった本音が‥‥つい口をついて出てきてしまいました。
私がしまった!‥‥とばかりに口を両手で押さえて固まっていると、両親やマキシム様は、何故か笑顔で頷いてくれてました。
「なら、決まりだね。君はヒノキ国の学校へ留学するんだ。」
「レミー、心配無い。私達もヒノキ国へ亡命する事にする。‥偶然私が持ってる爵位はヒノキ国のものなんだ。‥まぁ今更無効だろうが。とにかく私も行ったことのある国だ。ヒノキ国は、亡命者にも良心的な国だと聞く。‥大丈夫だ。」
「えーっ!?お父様、お母様、本気でこの国を出るのですか?」
「ええ、さっきも言ったでしょ。これが最善の策なのよ。‥別にレミーのせいだなんて思ってないから。寧ろ、レミーのおかげでこの国から出られるんだから、感謝したいぐらいよ。」
両親は、満面の笑みでそう言いました。その顔には、迷いなど見受けられませんでした。
両親と私はマキシム様を玄関まで見送りました。
「‥惜しいな。マキシム君は本当に良い男なのに‥。」
「ええ、マキシム様がもう少し背が高くて、変な眼鏡さえかけていなければ、きっと令嬢達にモテモテだったでしょうにねぇ。惜しいわね。」
「‥お前は馬鹿か!そんな事を言ってるんじゃない。うちがもう少し立派な家系で、レミーがもう少し落ち着きがあったら、マキシム様にも見初められたかもしれないのに‥‥という事だ。」
「マキシム様は女性や結婚に興味が無さそうだものねぇ。」
「‥マキシム君は、きっと何かやりたい事があるのだろう。この国の男性には珍しく立派な青年だ。」
「‥‥そうね。ね、レミー、あなたはマキシム様の事どう思ってるの?」
「‥マキシム様を?‥分からない。」
私は母の問いに、マキシム様を好きかどうか分からない‥と答えましたが、実は私にとってマキシム様は、この国の中で一番大好きで信頼できる人です。
ですが、この気持ちは決して誰にも言うつもりはありません。
もう恋愛で振り回されるのは懲り懲りですし、それに万が一私の気持ちがマキシム様にばれてしまい、マキシム様に避けられたりしたら、私はもう立ち直れないでしょう。
マキシム様だけは絶対に失いたくない‥‥だから、私はマキシム様への思いを一生心の奥に封印します。
マキシム様への思いは、きっと一生叶う事はないでしょう。
それにヒノキ国へ留学したら、もうマキシム様とは会えないかもしれません。
ですが私はちっとも悲しくありません‥‥悲しんではいられないのです。
これから、この国を出て見知らぬ国で生きていく事を決めたのですから。




