世界がゲームになりまして 1
お久しぶりです。
どうも皆さま、ニムルです。
なんだかすごい久々に投稿をした気がします。
不定期ながら行進頑張っていこうと思いますのでお暇なときに読んでいただけると幸いです。
『んじゃ、俺そろそろ落ちるわー。景も早めに寝とけよ』
「わかってるよ。じゃ、おつかれ」
場末のオンラインゲームを友達とプレイしていると、友達がもう寝るというので、俺はゲームをログアウトし、通話を切断してPCの電源を落とす。
ヘッドフォンを外してしばらく静かな室内に耳を傾けていると、ふと外からピーピーと鳥の鳴き声が聞こえた気がして、真横の窓のカーテンを開ける。
うすうす気づいてはいたのだが、そこにはこちらのにわかな期待を裏切るように夜明けを知らせる朝焼けの空があった。
「やばいな、また寝るの忘れてた……」
こうして日曜の晩から月曜の朝にかけて徹夜でゲームをしてしまったのはいったい何回目だろうか。少なくとも両の手の指で数えられる数でないことは明らかだった。
普通のオンラインゲームをしているプレイヤーならば時間表示を気にしてプレイするのかもしれないが、昔からその辺が苦手な俺はいつもその辺の時間配分を間違えてしまうのだ。
「月曜はフルで講義あるんだがなぁ……」
徹夜していたという事実に気づくと同時に俺の体を倦怠感と眠気が襲ってきたが、傍らに置いてある冷蔵庫からエナジードリンクを出してそれを飲み干し、一時的にそれをしのぐ。
「今日は買い物も行くかぁ。エナドリもあと2缶しかないし、栄養ドリンクは在庫が尽きてるか。カップ麺の予備も買ってこないとな。バイトの後となると十時超えてるけど……ドラッグストアは空いてないよなぁ」
エナジードリンクだけでは最近体が動いてくれない事も多いので、大差はないのかもしれないが多少の効果アップも期待して最近は栄養ドリンクも飲むようにしている。ちなみにコーヒーは苦くて飲めなかった。
「取り合えずシャワー浴びるか」
さすがに一度風呂に入ったとはいえ、寝ずにゲームして汗をかいた体でそのまま大学へと足を運ぶ気にはなれなかった。
シャワーを浴びている途中で何度か意識が飛びそうになったが、腕の肉をつねるなどして体に痛みを与えて何とか目を覚まさせる。
すこし伸びた髪が額に張り付いて邪魔くさい。バイトの給料日を迎えたら美容院に行こうとスマホのカレンダー機能で給料日に通知をオンにして「美容院」と書き込んでおく。
ついでというか本当はこっちが本題なのだが、今日の講義について大学側から何か連絡が来ていないか、スマホでメールを確認する。
「とりあえずは何もないか」
朝食のカップ麺を作るために給湯器に水を入れてお湯を沸かす。
そのわずかな間の時間をいつものようにSNSを見漁って、面白い投稿や好みの投稿は拡散したり、推しの絵師の新作を保存したりしてつぶしていると、やたらと目立つ奇妙な広告が視界に映った。
その広告は文字化けしていてはっきりとは読めないが、何かの生配信の広告らしい。
「ちょうどいい。飯でも食いながら見るか」
その広告のリンクをクリックすると、見覚えのない配信サイトのページに飛ばされる。
「リンクまで文字化けしてるって、誰かのいたずらにしては手が込んでるな。てかこんなこと実際できるのか?」
生配信が始まるそのサイトのコメント欄には「これいったい何の配信?」「俺も知らん」などというコメントがあふれていて、みんな俺と同じように興味本位で見に来たんだろうなという予想はついた。
中には英語や、見たことのない言葉のコメントまであり、総視聴者数はサイトの表示を信じるのなら五億を今超えたところだった。
「暇人ばっかりだな」
思わず笑いそうになったが、それ以上にこの状況が奇妙すぎて心臓の脈が速くなる。
いつになったら始まるのだろうと出来上がったカップ麺をすすっていると、画面の中央にピエロの格好をした男性が現れた。
今まで砂嵐しか映っていなかった画面の中央に急に、だ。背景の砂嵐は変化することなくピエロだけがそこに現れた。白塗りのピエロの顔の仮面をかぶり、でっぷりと太った格好をしていて男女の区別はつかない。
『ごきげんよう、わが星の諸君』
ピエロの声はあまりに中性的で、男女どちらかに分類するためには要素がまだ足りない。
というかそんなことを気にする必要もないだろう。
『この生配信を見ているのは……フム、五億人と少しか。予定より少し多いがまあ、問題はないだろう。私は、あー、何と言ったらいいかな。ウン、運営とでも読んでもらえればいい』
日本語で話していてほかの国の人たちは内容を理解できていないのではないかとも思ったが、コメント欄を見る限りそんなことはないようで、運営と名乗るピエロの言葉はなぜか見る人に対応した言語で聞こえているようだ。
『こっちもやっと準備が終わったからさ、とっとと説明して寝させてもらうね。かなり省いて説明するけど、まずこの世界は今からゲームになる。何を言っているかわからないだろうが、ゲームになるんだ。ゲームをするわけじゃないぞぅ? そしてこの放送を見なかった奴らはみんなモブ。生き残ろうが死のうが関係ないただの背景だ。しかしこの放送を見ることのできた君たちは違う。このゲームのプレイヤーになる権利を私が与えよう。君たちに拒否権はない。せいぜい私の実験のために、好き勝手に世界を荒らしてくれ。では説明は以上! サヨウナラ!」
一方的に話すだけ話して大した説明もなく生配信は終わってしまった。
「なんだったんだ、あれ」
不気味な生配信だったな、と思い、支度を終えて家を出る。徹夜したと気づいた時から二時間ほどたっていたが、あの奇妙な配信のせいか、妙に目がさえていた。
「って、やばっ。このままだと一限に間に合わない!」
さすがにこれ以上単位を落とすことはできない、というところまでやらかしてしまっているので、せめて出席だけはちゃんとしなくてはならない。
「えーと、財布、鍵、教科書、筆記用具にノート、課題、ノートPC。よし、オッケー」
いつも通り部屋中に散らかっていた荷物をかき集め、中から必要なものだけを取り出して鞄へと突っ込んだ。
学生寮である5階建てのアパートの3階から外に出ると、なぜかやけに町が騒がしい。
「おい、こっちにも化け物だ!」「どこに行っても化け物しかいないじゃないか!」「いったい何なんだよ!!」
一部の建物からは火の手が上がり、現実では見たことのないような緑や青の肌の化け物たちが町の人々を襲っている。
「……まるでゲームに出てくるゴブリンみたいなやつらだな」
「そんなのんきに言ってる場合か! 一旦寮に戻るぞ!!」
「うぉっ!?」
いきなり背後から声がしたかと思うと、腕をつかまれてアパートの中へと再び引き戻される。
「変な音が聞こえたと思って外の様子を見に来たらこれだ……とりあえず俺の部屋にこい」
そういって俺に振り向いたのは、つい数時間前まで一緒にオンラインゲームをしていた友人であり、本来月曜のこの時間帯には起きているはずのない学生、航だった。
読んでくださりありがとうございました。
また次回もよろしくお願いします。