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・・・。


・・・。


「つぅー。頭いてー。」


ってあれっ?


目の前には草原。見渡す限りの緑が広がっている。


ここはどこだろう?


公園か何かかしら?あらやだん。大自然って素敵☆


都会育ちのわたくしには、心のオアシスですわ☆ 


そして、大空の向こうには、とってもかわいい大きな鳥さん☆



「って、えっ、えーーーつ!!」


鳥かと思っていた生き物は、1mは優に超えるであろう巨大な蛾だった。


しかも、こちらへ向かって真っすぐに飛んでくる。



えーと、ここは冷静に、


「逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。」


キリッ!


っていやいやいや。


大好きなアニメの名台詞に浸っている場合じゃないですやん。


めっちゃこっちへ向かって来とりますやん。


モ〇ラみたいなやつが俺を捕食する気まんまんですやん!


「あああああああぁー!!」


やっと状況を悟った俺は、一目散に逃げだす。その時だった。


ピコン。


「ホルダーのスキルが発動。《加速》のカードを取得しました。使用される場合は《加速》と頭の中で唱えてください。」


頭の中に浮かんでくる文字。


・・・。


えっ?何これ!?


ついに俺もおかしくなったのか?


ふふっ。


サヨウナラ☆古いわたし。そして、ビバ☆新しいわたし。キリッ!


「ギィィィィィ!!」


って、いやいやいや。


本当にふざけている場合じゃないですやん。もう目と鼻の先ですやん!


ええぃっ!


「《加速》!」


藁にもすがる思いでその言葉を唱えた。同時、ふわりと足が軽くなる。


「おっ、すげぇこれ」


気が付けば、俺は風を切り裂き走っていた。


それも人類がおよそ到達できないであろうスピードで。


これならあの巨大蛾も?


「ギィィィィ!ギィィィィ!」


後ろを振り返る。


恐らく俺を見失ったのだろう、遥か後方で旋回を繰り返す巨大蛾の姿がみえた。


「ふう、よかったー。」


走りながら一息。


でも、あれ?これってどうやって止まるんだろう?


「あああああぁー!止まれぇぇぇ!」


ピコン。


「《加速》の効果を解除します。」


やった!でも間に合わな・・・。


ズドーォォン。


俺は目の前の大きな木に激突した。


ピコン。


「ホルダーのスキルが発動。《停止》のカードを取得しました。」


いてて・・・。なんか今日はこんなんばっかだな。ずっと痛い。


「先輩はドMすからねー。ははっ。」


「ちげぇよ。全部不可抗力だ」


田村の笑い声が聞こえた気がする。思わずつっこんでしまった。


というか、ここは本当にどこなのだろう?


最初は公園や植物園かとも思ったが、そうなると先ほどの巨大蛾の説明がつかない。


だったら夢?だが、木にぶつかったときの痛覚は、妙にリアルだった。


「限定ボックス、開けたかったな。」


ははっ。こんな時でもHopeのことを考えるなんて、自分の暢気さに少しあきれる。


・・・。


「はっ!カード。」


巨大蛾から逃げるために使用したカードのことを思い出す。


あれ、カードってどうやって確認するんだ?


「カード表示。」


・・・。


なにも起こらない。


「カード一覧。」


「カードオン。」


「デッキ一覧。」


「デッキオン。」


・・・。


「表示。」


ピコン。


「ステイタス画面を表示します。」


あっ!なんかできた。やっぱ人間、やればできるものだなー。



名前:三上優

年齢:16歳

所持スキル:「ホルダー」

所持カード:《加速》《停止》

ステイタス:

HP 25/32

MP 20/22

物理攻撃力 10

物理防御力 10

魔法攻撃力 10

魔法防御力 10

すばやさ 10



16歳って、えぇっ!めっちゃ若返ってるー。


体は子ども、頭脳は大人。その名は、のアレですやん。


ってことは、俺の体!?


おもむろにTシャツを脱ぎ、胸元を確認する。


やったー。ない!あの煌々と生い茂っていた俺の胸毛がない!つるつるだー。


これで女の子から気持ち悪いって言われない。ごめん、私毛深い人無理なんだ。って振られることはもう二度とない。


ひやっほーい。生理的に嫌いって言葉を聞くこともないぞー!


あとは顔だが・・・。水たまりを探し、水面に移った顔を見る。


・・・。


うわー、俺、なんか超イケメンになってるー。


元の顔とかけ離れすぎていて、ちょっと引く。


これはもう、骨格から変えないとこうはならないやつですやん。


髪型やファッションを頑張れば到達できる雰囲気イケメンとは、かけ離れた領域ですやん。


・・・。


ちょっと落ち込んできた。


これはもう完全に異世界転生じゃん。


もう現代には戻れません!みたいな。


ははっ。いやいやいや、そんなんありえないし。


絶対頭打っておかしくなったに違いないし。って、それはそれでいやだな。



ぎゅるるるー。


現実逃避しているとおなかが鳴った。


やっぱ生理的欲求ってすげー。マズローさんマジ神っす。やっぱ、生理的欲求が最上位っす。

・・・。


色々考えるのは、おなかを満たしてからにしよう。


まずは水だな。


《加速》。


俺は超速で走りながら近くの森の中を散策し始めた。



「あった!」


目的の湖はすぐにみつかった。


俺は水を手ですくうと、口に運ぶ。それを夢中でくりかえした。


ぷはーっ。うまい!やっぱ水分って大事。



「ガルルルルッ!」


あれ、なんか後ろで声がしたような・・・。


ははっ。まさか、ね。


・・・。


恐る恐る振り返る。


すると目の前には、まるで巨大な熊の様な生物が二本足で立っていた。軽自動車程の巨躯。漆黒の体。そして鋭い牙の間から延びる細く長い舌の先端からは、ぽたぽたぽたと涎が流れ落ちている。



「うわわぁぁっ!」


俺は慌てて《加速》を発動。森の中へと逃げ込んだ。



グアァァ!


やばい。追ってくる。


スピードは・・・。よし、こっちほうが早い!


しかし、すぐにその判断が誤りであったことに気づく。


鈍重そうな外見とは裏腹に、巨大熊の身のこなしは軽やかだった。木々や地面のぬかるみに足をとられ減速する俺に対し、巨大熊は木々の間を縫うようにして着実に距離を詰めてくる。



グアァァ!


やばいやばいやばい。このままでは追いつかれる。


どうする?


どうする?


・・・。そうだ!


《停止》。


俺は減速の動作をしないまま、その場でぴたりと停止した。物理法則を無視した、ありえない動き。


「ガ?ガアァァッ!」


目標が急停止したことに気づいた巨大熊は、減速しようとしてバランスを崩し転倒、そして、


ガン、ガガガガ、ガン!ズドォォォォン。


複数の木にぶつかり、その場に倒れた。



・・・。


助かった、のか?


ピコン。


「グリズリーを討伐しました。ホルダーの効果が起動します。」


ピコン。


「《経験値C》のカードを取得しました。《経験値C》は消費カードのため、自動消費されます。」


ピコン。


「《経験値C》の効果により使用者のステイタスがアップしました。HP+5、MP+3、物理攻撃力+3、物理防御力+3、魔法攻撃力+0、魔法防御力+0、すばやさ+5。《経験値C》は消滅しました。」



経験値?ステイタスアップ!?


まさか!表示画面を開き、ステイタスを確認する。



ステイタス:

HP 20/37

MP 20/25

物理攻撃力 13

物理防御力 13

魔法攻撃力 10

魔法防御力 10

すばやさ 15



一部のステイタスが上昇していた。



・・・。


なんか色々と混乱してきた。


落ち着け。落ち着け俺。一旦、置かれた状況を整理してみよう。



①今俺は別人として別の世界にいる。痛覚のリアルさから夢の中の可能性は低い。


②現世の俺は既に死亡しているか、意識を失っている可能性が高い。


③この世界で命を失うとどうなるのかについては不明。


④ステイタス、モンスター、魔法のようなカード、以上の3点から、この世界はRPGゲームに近い構造をしている。カードの入手条件は不明。モンスターを倒すとステイタスが上がる。



こんなところか。うーん。やはりいまいち実感がわかない。


ぎゅりゅりゅりゅる~。


忘れるな、といわんばかりに2度目のお腹が鳴った。


そうだ。俺、お腹すいてたんだ。


周囲を見渡し、食べられそうな木の実を探す。


・・・。


ない。


食べられそうな木の実がみつからない。


《加速》。


さらに広い範囲を探す。


・・・。


やばい。食べられそうなものが全然見当たらない。


木の実らしきものはいくつか発見した。


しかし、それらは毒がありますといわんばかりにギトギトした発色のもの、あるいは果肉がほぼないものばかりで、とても食べられるような状態ではなかった。


魚も考えたが、湖がモンスターの溜まり場になっている可能性は高い。


巨大熊のような捕食者に再度遭遇する可能性を考えると、湖に近づくことはできなかった。


・・・。


あの熊、食べられないかな?


倒した巨大熊のことを思い出し、死体に近づく。


白濁した眼。剥き出しの皮膚。漏れ出た体液。


動物の死体をみるのは初めてではないが、決して気持ちのいいものではなかった。


・・・。


「背に腹はかえられない、か。」


先のとがった石を拾い、熊の腕を切断しようと試みる。


カリッ。


石で引っ掻いた刹那、


「うわっ!」


溢れ出る赤い血液に、思わずたぢろいだ。


ピコン。


「ホルダーのスキルが発動。《黒煙石のナイフ》と《剣技》のカードを取得しました。」


ナイフ!?やった。


「《黒煙石のナイフ》発動。」


カラン。黒い石で精巧に作られたナイフが目の前に出現した。


・・・。


・・・。


まさか!?


手に取ったナイフを見て思わず息を呑む。


特徴的な波型の刃先。持ち手に彫られた絡み合う3匹の龍。


手にしたナイフは、俺が最も愛用していたHope のカード「黒煙石のナイフ」のイラストと瓜二つだった。


・・・。


はっ!もしかして!


「《剣技》発動!」


ピコン。


「《黒煙石のナイフ》に《剣技》の効果がエンチャントされました。これにより《スラッシュ》の効果が起動します。」


シュッ。シュババッ。


瞬間、流れるようにナイフを手にした右手が動き、巨大熊の体は解体された。


・・・。


間違いない。


《黒煙石のナイフ》に《剣技》をエンチャントすることで得られる効果スラッシュは、俺がはじめての世界大会で使用したコンボの1つだ。効果はホブゴブリンや、スノーウルフなど、中級モンスターを無条件で破壊することができるというもの。これにより劣勢を覆し、俺は10代目のチャンピオンとなった。


「Hopeのカードがこの世界でも使える!?。」


今は可能性にすぎない。しかし、この仮説は、俺のモチベーションを上げるには十分すぎる内容だった。


「うぇーい!とぅっとぅるー♪三上さん家のごはん♪はーじまーるよー。さーてと。肉の下処理を終えたら、次は火をおこす準備をします。」


薪は、スラッシュでにより枯れた木を切断することで、簡単に集めることができた。


次に、周囲の枯れた植物、木の皮などを拾い集め、火種をつくると、環状に組み上げた薪の上に置く。


「えっ。マッチやライターもないのにどうやって火を起こすかって。甘い。甘いよ。チミたち!もうとろっとろに甘い。ふふふっ。じゃじゃーん。ここで秘密兵器、カードスリィィーブ!」


なんか独り言多くなってきたな。


俺は、ポケットに入っていたカードスリーブに水たまりの水を入れ、それをレンズ代わりにして火種に太陽光を集めはじめた。


TVで見ただけだけど、これで大丈夫なはず?うん。きっと大丈夫!



20分後・・・。


「やべー全然つかないじゃん。」


・・・。


・・・。


一時間が経過し、あきらめかけたその時、火種の中に小さな明かりが灯るのがみえた。


うん。人間、やはりやってみるものだ。


ふぅー。ふぅー。消えるな。頼む消えないでくれ。


枯れ木や草など、燃えやすいものを少しずつ足しながら、慎重に火種を大きくしていく。よし、火がついた!そう思ったそのとき、


ぼわっ。ぷしゅぅ。


恐らく薪が湿っていたのだろう。火種は組み上げた薪に燃え広がることなく消えてしまった。


・・・。


終わったー。そう思ったその時、


ピコン。


「ホルダーのスキルが発動。《火焔》のカードを取得しました。」


奇跡が起こった。神様~!



《火焔》!


早速試してみる。するとピンポン玉ほどの火の玉が6つ、円を囲むようにして出現した。


「いけ!」


巨大熊の肉片に火の玉がぶつかる。


じゅわっという音とともに、食欲を貫く芳ばしい香りが周囲に広がった。


あちっ。俺は焼けた肉にかぶりつく。


「うまい!」


ははっ。


肉を頬張りながら、俺は、この生活も悪くはないかもしれない、そう思い始めていた。



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毎朝8時に1話投稿します( *´艸`)!

高評価、ブックマークいただけますと筆者のモチベーションが上がります<(_ _)>

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