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♪~♪~♪~。


定時を告げる社歌が流れる。



「お先に失礼します。お疲れ様です!」


「おっ、おお。三上、お疲れ様。どうした?なにかあったのか?」


「えーと・・・。もう定時なんで、たまには早く帰ろうかと・・・。」


課長の怪訝な顔に、少したじろぐ。


「・・・。」


「・・・。」


数秒の沈黙。


「おう!そうか。たまには息抜きも必要だな、お疲れ様!」


「お疲れ様でした!」


ほっと息をつき、事務所の扉をそっと閉めると、駆け足で駐輪場のほうへ向かった。



「お疲れっすー。ってあれ?三上さんどうしたんすか?」


声をかけてきたのは5つ下の後輩、田村だ。今日は契約を取れたのだろう。声が少し明るい。


「田村、課長と同じことをきくな。俺が早く帰るのが、そんなにめずらしいのか?」


「うーん。めずらしいというか、なんというか・・・。だってこの会社、定時に帰るやつなんてほとんどいないじゃないですか?ブラックの代名詞みたいなとこですよ。三上さん、2chに書き込まれたうちに対する評判、みたことないんすか?」


「・・・。なんていうか、あらためて身内にきくと、しみじみとうちのヤバさを感じるな。確かに1年目は死にそうだったけど、5年目ともなると、な。いろいろ鈍感になってくるんだよ。ははっ。」


「ははっ。三上さんドMですからねー。ダク〇スさんばりの!超薄給。その上昇給も出世も見込めないこの会社によく5年もいられますねー。」


「それは3年もいるお前にも当てはまるんだと思うんだが・・・。」


「ははっ。そうっすねー。でも自分の場合は、三上さんがいるっていうのが大きいっすかね。」


「はっ?今最後のほうが聞こえなかったんだが・・・」


「うるせーすよ。うるせー。うるせー。で、三上さんが早く帰るってことは、やっぱり Hope 関連ですか?」


「ああ、まぁな。今日は限定パックの発売日なんだよ。」


Hope。正式名称 Hope of God は、かつて世界で最も人気のあったTCGトレーディングカードゲームだ。ウォーカーと呼ばれる自身の分身にカードの効果を重ねて強化エンチャントし、相手ウォーカーを攻撃。それを繰り返し行い、相手ウォーカーのライフポイントをゼロにすることで勝利となる。


「うげぇ。やっぱHopeすか。自分思うっすけど、Hpoeのプレイヤーって、ドMしかいないと思うんすよー。あんな数十万種類のカードの中からデッキを組んで、さらにゲーム中に適切な組み合わせを考えるって、鬼畜すわ。自分も三上さんに習って、2年ぐらい本気でやってみましたけど、全然ダメでしたもん。」


「いや、そこが面白いんだろ。」


「えー。いやいやいや。普通の人はそうじゃないですって。」


Hope最大の魅力は、カードプールの多さとエンチャント効果の多様性だ。通常のカードゲームは特定のデッキに勝率が集中するため、環境上位のデッキを使用しなければ大会で入賞することはできない。しかし、Hopeは、発想次第でどんなデッキも組めるし、プレイング次第でどんなデッキにも勝てる。TCGプレイヤーにとっては、理想のゲームではないだろうか。・・・。少なくとも、俺はそう思っている。


「そもそも、プロリーグの世界大会で三上さんが5連覇もするから、不正だとか癒着だとか、なんかいろいろ炎上して、Hope人気が激減したんじゃなかったでしたっけ・・・。そのせいでプロリーグも解散になりましたし。やっぱ三上さんパネェす!!尊敬します!」


パチン。俺は黙って田村にデコピンした。


「ってーー。いたー!」


「お前おちょくってるだろ。まぁ、俺も大学の学費とかで、そのときは必死だったんだよ。」


ヴィ~ン。ヴィ~ン。


スマホが震える。発売開始10分前の合図だ。


「おっと、俺は帰るから。じゃあな。」


「あっ、待ってくださいよぅ。三上さんデコピンしたー。パワハラだー。内部通報窓口に電話してやるぅ。ってやばっ。うちの会社にそんな社員思いな窓口はなかったー。なんというブラックぅー。いや、最早漆黒ぅー!!」


後ろで叫ぶ田村を無視し、俺は自転車に飛び乗ると会社をでた。



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毎朝8時に1話投稿します( *´艸`)!

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