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日食

俺の名前は天国あまぐに 幸一こういち


人を見ると脳内にイメージされるスイッチを切り替える事で、


他人を幸せな気分にすることができる超能力者だ。




あの二階建ての家の中から4つのスイッチが浮かんでくる。


一階から3つ、二階から1つのスイッチがある。


今日は平日の朝。


固まってる2つのスイッチは通学前の食事中の子供で少し動きが大きいのが恐らく忙しい母親。


車庫に車がないことから、父親は既に出発後。

二階に1人いるから、この家の家族は5人以上だと推察できる。


この家から10メートル以上離れていて、この家が直接見えない状態でも、


「さっきのあの家の中のスイッチ」と脳内から検索するイメージをするだけでも、しっかり4つのスイッチが明瞭に浮かんでくし、ON/OFFの切り替えもできる。


同じように、自動的にスイッチがONになる10m以外の相手でも、その人が見えなくても、その人をイメージするだけで、スイッチが浮かぶ。


明確に特徴を表現する必要はなく「さっきのあのおじさん」とかでもいい。


「日本中の赤い服を着た人」と宣言すると、幾千万ものスイッチが現れる。


もちろんどれでも切り替えるイメージをすることはできる。




自身から10m以外の人間のスイッチをONにしても幸せにする効果があるのか、同時に幾多ものスイッチをONにしても効果はあるのか。


実証されていない事も多いが、もしこれらが可能だと実証されたなら、

俺は文字通り地球上の全人類を幸せに導くことができるということになる。






──希望的観測に過ぎないが、世界中の貧乏な人たちを救い、世界中の貿易を活発化させ、世界中の戦争や紛争だって無くせるかもしれない。



地球上から暴力が消える。地球上から憎しみが消える。地球全土の悲しみが浄化される。



最終的には、地球上の全ての人間が笑顔絶えない幸福な生活を送る。



そんなユートピアな世界、見てる俺は間違いなく幸せなはずだ。



これは単なる俺個人の野望に過ぎないかもしれないが、誰にも危害を加えず幸せにするこの思想は間違ってなどいないはずだ。──






学校に着くと、早速 夢野ゆめのさんに頼んだ。


「授業中、俺がトイレを口実に教室から遠くに離れる。

昨日話した自動的にスイッチが切り替わる半径10mよりも遠くにね。

そしたら夢野さんのスイッチはOFFになっているはずだけど、そこで君のスイッチをONにする。

それで君が幸福な気分になったかを後で教えてくれ。」


「……。なぜそれを検証したいの?」


「分らないか?それが検証できたら俺は世界中の人間を幸せにできるかもしれないんだ。」


「ふーん…。天国くんの自己中心的な人格に相応しくない壮大な思想をお持ちのようね。」


「俺は自己中なんかじゃないぞ。他人を幸せにするって願いが自己中心的だって言いたいのかよ?」


「本気にしないで、冗談よ。承知したわ。それと私のスイッチは基本的に切っておいてちょうだい。くれぐれも変な事はしないようにね?」


「…分かってるさ。」


「おい!そこ2人!何コソコソ話してるんだ?デートのお約束か!?」


野次馬が邪魔だ。


「そんなわけないだろ。お前らにはできない超難解な問題を解決させようとしてるんだからな!」


天国あまぐに、お前勉強できないだろう!」


野次馬のリーダー格、空山そらやま 海翔かいとだ。口は俺より悪く気があう奴だ。


「うるせぇ!バーカ!」




今日は雨で部活がなくなった。早く夢野さんと2人きりで話をしたかった俺としてはラッキーだ。


「この公園なら誰もいないな。夢野さん、さっきの実験結果どうだった?遠くからでも幸せな気分になった?」


期待で鼓動が激しくなる。


「そんなに結果が知りたいかしら?」


「ああ、勿論!遠くからでも誰かを幸せにできるなら、俺は地球の裏側のうつ病患者を元気にすることだってできることになる!」


「もったいぶらせて悪かったわ。残念だけど天国くんのその超能力の適用範囲は10mまでみたいよ。私には何一つ感情の変化が見受けられなかった。」


「そんな…。」


「落ち込む必要はないわ、冷静に考えて。そもそも人間1人が世界を根本的に変革するなんて、できるわけがないでしょ?もっと現実的になるべきよ。」


「確かにな…世界を変えられるなんて…そんな都合の良すぎる話…超能力の域じゃないよな…。どうしてこんな超能力持ってるんだろう…。」


「……悪かったわね。」


「ああ…ん?なんで謝るんだ?」


「その能力をあまりにも否定し過ぎたからよ。確かにあなたの超能力の適用範囲は限られているわ。でもあなたは半径10m以内の人を幸せにすることができる。それは紛れもない事実よ。」


「…出来ないよりはマシってことか?」


「そうよ。あなたはその力を使って、家族や友人にその力を使えばいいのよ。そうすれば世界は変えずとも幸せに生きていけるじゃない?」


「幸せに生きてきたよ。」


「え?」


「俺は小さい頃から…幸せだった。恐らくこの能力の影響で周りのみんなが幸せだったから、俺も笑顔だった。だから俺は自分が幸せな人生をおくるなんてとても退屈で嫌なんだ。」


「プッ!あなたおかしいわね。」


夢野さんが鼻で笑ってきた。可愛い女の子なら何しても可愛いって信じてたけど撤回せざるを得ない。少しキモい。


「天国くんは他人を幸せにしたいけど、自分の幸せは拒むんだ?なかなか面白い頭の構造してるんじゃない?」


少しキモいってのも撤回だ。すごくキモい。なんだこの女。人が落ち込んでるってのにこの仕打ちはなんだ?


「お前何なんだよ!煽るな!」


夢野のスイッチをONにした。


「今お前のスイッチをONにした。お前は今とても幸せだ。俺が今ここでお前に何をしてもお前は大した抵抗はしないだろう。」


右手で夢野の首を締めた。


「やめ……て…」


苦しそうに笑ってる夢野さんを見てすぐさま手を離した。


「ごめん…感情的になり過ぎた…。」


俺は夢野のスイッチをOFFにして急ぎ足でその場を去った。




きっと俺の野望が叶わないってショックでおかしくなっちまったんだな…。


こんな簡単に人の首を絞めてしまうなんて自分でも予想外だ。


この能力はしばらく使うのをやめようと決めた。





つづく

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