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2018/05/14
『常識と化した差別に殺された白い少女。
その差別の元凶は、白兎の魔女と呼ばれる一人の伝説だった。』
これは、かつてフリーゲームとして配布されていたMMORPG『黒の豪雨は降り止まない』の広告の中の一文。フリーゲームとしては規格外の自由度により一世を風靡していた作品であった。製作者の一人とされる『ぐりむマッチョ』氏によって世界中のSNSを経由して一夜でプレイヤー総人口7000万人を突破したこのゲームは、十数年もの間多くの人々に支持され、世界でもトランプと同レベルで有名な存在へとのし上がった。
そして、ここに出てくる白い少女は私。でも、今生きている世界に限って言えば、このゲームのストーリーは相当な部分が違っている。
賢かったお母さんは忌子である私の生活リズムを昼夜反転させ、毎夜、人目のない夜の世界へと連れ出した。存在はお母さんの知恵によって隠蔽されていたため、今でも私のことを知るのは双子の弟であるルルスとお母さんの二人のみ。ルルスも精霊か何かと勘違いしているため、現在では私を真の意味で知っているのは私自身だけとなった。
生きて行くすべは粗方身に付けたつもりだし、お母さんが死んだ以上、もうこの村に居る理由は無い。唯一の気掛かりはルルスの今後くらいだけど、親が死んだ子は村長の家で育てられることになってるから、きっと大丈夫。
他にも理由が有ったり無かったり。兎に角、私はこの村を出ることにした。
ナイフ一本と干した木の実を幾つか鞄に入れて夜を待つ。村から灯りが消えたのを見計らい、柵の外へと踏み出した。
【月の兎】
スキルによって重力を軽減し、車輪の跡が見える方向へと一気に跳躍する。こんな時間に外へ出る物好きは居ないと思うが、念のためだ。
着地と同時に草むらへと身を潜め、走る。体に当たる草の感触が不快ではあるが、流石にもう慣れた。産まれてから13年も経つのだから、当然といえば当然か。
そんな思考が頭を過るが、特に深い考えでもないので一瞬にして消えた。
そう、始まった。始まったのだ、私の物語は。最初はこう始めようじゃないか。
ーー或る日、草原をひとつの白い影が突き抜けました。