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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界転生・転移の文芸・SF・その他関係

テンプレ嫌いの皆様におくる、異世界転生も転移もチートもハーレムも王侯貴族の生まれも成り上がりも無いお話

「……はあ」

 ため息を吐く。

 今日も今日とて不毛な結果に情けなくなる。

「これっぽっちか」

 自分が手にした成果を確認して、泣けてくる。



 今日も何匹かのモンスターを倒し、それなりの成果を得た。

 だが、求める結果にはほど遠い。

 手に入る報酬もそれ程ではない。

 モンスターと戦う事で得られる経験値もそれほどではない。

 食っていく事は出来るが、言ってしまえばそれだけで潰えていくだけの成果しか上がらない。



「何やってんだろ」

 正直、なんでこんな事をしてるのかと思ってしまう。

 成果もなく、結果も出せず、いったいなんでこんな事を続けてるのかと。

 だが、他に何が出来るわけでもない。



 学校を卒業してから、ずっと続けてきた仕事だ

 それをもうずっと続けてる。

 他の仕事に今更転職出来るとも思えない。

 やるにしても、そんな事が出来る時期はもう過ぎてしまった。



「今年で、もう四十か……」

 そんな年齢では、もう雇ってくれる所もない。

 仕事の内容を選ばなければ、それなりに仕事はあるだろう。

 だが、そんなものを選んでどうするというのか?



 仕事の内容にこだわらなければというのは、待遇がそれほど良くない仕事という意味でもある。

 生活するだけでギリギリの待遇くらいしか得られないだろう。

 そんなものに転職してどうするのか?

「今と変わらないよな……」

 だったら、少しは慣れ親しんだ今の仕事を続けた方がマシと言えた。



 世界各地にダンジョンがあらわれて数十年。

 そこで得られる物資は世界を潤している。

 当然、それを得る為の仕事というのも誕生する。

 ダンジョン探索者と呼ばれるその者達は、今日も成果を求めてダンジョンへと挑んでいく。



 そんなダンジョン探索者になって二十年以上。

 中学校卒業と同時にダンジョンに入った男は、そんな自分の人生を振り返る。

 食っていくのがやっとの貧困家庭。

 子供を省みる事もなく、むしろ厭い、疎み、虐待してくる両親。

 いじめて使いっ走りにしてくる同級生。

 味方をする事はなく、むしろ率先して虐げてくる教師や近隣の大人達。

 そんな環境を中学卒業まで続けていた。



 当然ながら、学業成績を上げる事など出来るわけもない。

 生き残る事がまず第一だったのだから。

 当然ながら、進学など出来るわけもない。

 就職先だってない。

 唯一就く事が出来たダンジョン探索者であった。



 ダンジョンに潜り、そこに生息するモンスターを倒す。

 倒したモンスターから、核と呼ばれる物質を切り取って持ち帰る。

 それを売り飛ばして稼ぎを得る。

 経歴・学歴不問で誰でも馴れる唯一の職業。

 そんなダンジョン探索者だけが、生活の糧を得る為の唯一の手段だった。



 だが、ダンジョン探索者になったとて、それで生活の保障があるわけではない。

 モンスターという危険な存在を倒さねば、核を手に入れる事は出来ない。

 常に生死を賭けた戦いを強いられる。

 それにしては実入りが少ない仕事とも言われていた。

 それでも他に選択肢がない者は、この仕事で名を上げるしか出世の道はなかった。



 可能性は無くもない。

 モンスターを倒す事で得られるのは核だけではない。

 経験値と俗称される何かをえる事が出来るのだ。

 それを得ていけば、能力や技術や知識が向上する。

 これは実際に確認されてる事象であり、それを人はレベルアップと呼んでいた。

 生活だけでなく、このレベルアップを狙ってダンジョンに挑む者もいる。



 それが出来れば、人とのしての限界すら上回る程の能力を得る事だって出来るのだから。

 そしてレベルアップすれば、戦闘も有利に進められる。

 これがダンジョンに挑む者達にとって大きな希望になっていた。



 強くなればその分モンスターも簡単に撃破できるようになる。

 簡単に撃破できるならば、数を稼げるようにもなる。

 そうなれば自然と収入も上がっていく。

 最初は食っていくのがやっとという程度であっても、続けていけば、そこそこ裕福な暮らしも出来る。

 それを狙ってダンジョンに挑む者達はそれなりの数になる。

 貧困から抜け出そうという者達にとっては、起死回生の手段と考えられていた。



「なのになあ……」

 男はそんな世間の常識にため息を吐く。

 確かにレベルが上がる事で能力は上昇する。

 それは事実だ。

 しかし、能力の上がり幅というのは個人差がある。

 一般的な標準より大きな伸びを示す者もいれば、その逆もいる。

 男の場合は後者だった。



 男もこの二十年以上の人生でそれなりのレベルアップをしてきた。

 しかし、その結果は芳しいものではない。

 一回のレベルアップで上がった数値は、他の者達に比べて小さかった。

 他の者達に比べて数分の一という小さなもの。

 その小さな進歩は、他の者達から取り残されるに充分なものだった。



 何せ、他の者達がレベルを一つあげるだけで到達出来る所に、男は数回のレベルアップが必要なのだから。

 そして、レベルアップに必要になる経験値は他の者達と大差ない。

 結果として、男は他の者達に置き去りにされる事になった。



 それでも男はどうにかしてダンジョンに挑み続け、それなりのレベルにも到達した。

 現在、レベル15。

 最上位には届かなくても、本来ならば中堅として充分に稼げるレベルではある。



 だが、その実態は一般的なレベル3程度の能力しかない。

 これは、初級のダンジョン探索者とほぼ同等の水準と言える。

 当然、倒せるモンスターもダンジョンの入り口周辺のものに限られる。

 そこから得られる稼ぎなど高が知れている。



 それでも長い年月ダンジョンに挑んでいるので、歩き回った範囲の地形などは熟知している。

 一人でダンジョンに入っても迷わずに動けるほどだ。

 しかし、そうやって動けるのは入り口付近だけでもある。

 実質レベル3のダンジョン探索者が無理なく行動出来る範囲は狭い。

 その範囲で無理なく活動出来たからといって、大きな利点にはなりえない。

 せいぜい、初心者ダンジョン探索者の道案内がせいぜいである。



 そんな状態が長く続く中で、男ももう色々と諦めていた。

 これ以上続けても、さしたる成果は望めない。

 レベルが上がっても、急激に能力が向上する事もないだろう。

 仲間になってくれるような奇特な者達もいない。

 そんな男に出来るのは、自分に倒せる範囲のモンスターを倒して、何とか生活費を稼ぐ事くらいである。



 そして、男が倒せるモンスターは金額換算でだいたい200円程度。

 30匹も倒せば、一日の稼ぎとしてはまあまあとなるだろうか。

 だが、その30匹を倒すのもなかなか大変である。

 実質レベル3の能力では、それこそ死力を尽くす事になる。

 そうしてようやく日当6000円程度の金を手に入れる。



 一ヶ月30日として、その全てを仕事に費やしても月収20万円に届かない。

 更にそこから年金やら保険料やらをとられていく。

 税金も当然差し引かれる。

 武器や防具の整備の為に金も費やさねばならない。

 男の生活は本当に余裕のないものだった。



 そんな仕事を男は続けている。

 学歴も資格も技術もない男にとって、これしかやれる事がない。

 血反吐を吐くような毎日の中で、ただひたすらダンジョンに挑んでいく。

 報われる事もなく、栄達する事もない。

 人並みの生活だって夢のまた夢。

 そんな絶望しかない生活を、黙々と続けていく。



 未来に可能性があると信じてるからではない。

 単純に野垂れ死にをしたくないからだ。

 死ぬのは怖いという生物としての本能が男を動かしていた。

 しかし。

 時に思う。

 こんな人生を続けて何の意味があるのかと。



「あいつらは、上手くやってるって言うのにな……」

 ダンジョンに入った最初の頃。

 こんな男を仲間としてくれた者達がいた。

 その者達と、いつかは成り上がろうと言ってがんばっていたものである。

 だが、レベルが上がり差が明確になるにつれて、そんな雰囲気は無くなっていった。

 どうしても足を引っ張る男を誰もが邪魔に感じていった。



 それは彼等がダンジョンの奥を目指すあたりではっきりとした形になった。

 男を追放するという行動で。

 以来、彼等との接点はほとんど存在しなくなった。

 町などでたまにすれ違うくらいである。

 その時にだって挨拶などもしない。

 それくらい、完全に縁を切られてしまっていた。



 追放当初は声をかけた事もあったが、無視をされる事で男から声をかける事もなくなった。

 そんなかつての仲間は、現在ダンジョンの深い所に入り、それなりの稼ぎを得ている。

 話を聞く所によれば、月収100万近くを叩き出してるようだった。

 彼等の武勇伝などを聞くと、それくらいの金額は稼げてるのが分かる。



 また、叩き出す稼ぎによって裕福な生活をしているとも。

 結婚もして、今は子供も何人かいるようでもあった。

 あるいは、何人もの女との浮き名を流してる者もいる。

 そのどちらも、成功してるという事が前提にあるからこそ出来る事であろう。

 男には全く縁のない話であった。



 そんなかつての仲間と今の自分を比較すれば惨めになる。

 自分は何で彼等のようになれなかったのかと。

 他人と比較しても仕方が無い、という慰めにもならない言葉は男には意味がない。

 明確な比較対象がいるのだから、それと自分を比べるのは当然だろう。



 そして、どうしようもない差が出来てる事を確認して、男は絶望にひたる事になる。

 全てを諦めればそんな気持ちにもならないのだろうが。

 だが、あらゆる事を投げ出す程に男は生きる事を放棄出来なかった。

 だからこそ、自分のおかれた環境を嘆いてしまう。



 それでもどうにか手にした稼ぎをもって男はダンジョンの出口へと向かう。

 今日もどうにか食い扶持を稼ぐ事が出来た。

 明日はどうなるか分からないが、それでも生きる気力があるうちはダンジョンに潜るだろう。

 そうしてるうちに、どこかでくたばる事になるだろう。

 誰かにみとられる事もないのも分かってる。



 それでも、男はダンジョンに潜っていく。

 そうしたいからではない。

 そうせざるえないから。

 そこに生き甲斐や誇りなどは微塵もない。

 ただ、惰性があるだけだった。



 そんな男の人生は、それから数年後に終わる。

 いつものようにダンジョンに潜り、いつものようにモンスターと戦って。

 そして、いつもと違って戦いに負けて、モンスターに殺される。

 どこにでもいるダンジョン探索者の、よくある死亡理由のままに男は死んでいった。

 何一つ誇るものも、栄誉も名誉もなく。

 ダンジョンに散らばる汚れの一つになって、男の人生は終わった。

 テンプレを否定する皆さんなら、これで大満足のはず!

 高評価、待ってます!

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