旧友
管理事務所で宿泊の手続きを終えて、寝具一式を受け取る。
大型連休を過ぎた山間の合宿所はガラリとしていて、オレ達の他には数家族が宿泊しているだけらしい。学校行事や部活動の合宿で利用されることの多いこの施設には、やはりどこか教育施設の様な画一的な香りが漂う。
長く続く廊下に誘われて懐古的な思いに浸っていると、右手の部屋から男性がひょっこりと姿を表した。瀬尾だ。「よぉ」と軽く手を挙げて挨拶すると、荷物をいくつか引き受けてくれる。
「今回は少し天気が微妙だったけど、なんとかもちそうだな」
「あぁ、まぁ、雨なら雨でそれも風情があって良いだろ」
「……変わらないな、そういうところ」
「ん、なにが?」
「いや、どんな状況でも淡々と楽しもうとするだろ、お前」
「お前は変わったんじゃないのか、主にその立派な腹の辺りj
「うるさいよ。どうやって維持してるんだ、その体型」
「ん? 読書かな」
「嘘つけ。そんなわけないだろ」
大きな引き戸を開いて、部屋に荷物を運び込む。何の装飾もない畳敷きの簡素な室内が、いかにも合宿所らしい。
今夜は自炊の為のバーベキュースポットを借りて、カレーを作る予定をしている。
瀬尾の奥さんは、夕飯の食材を受け取りに食堂へ向かったとのこと。相変わらず、無駄なく動く人だ。
「オレは晩飯まで釣りしてるから」
「相変わらずマイペースだな、お前。隆史君は?」
「いまアーチェリーの弓矢を借りに行ってるよ。楽しみにしてるみたいだぞ」
簡易ではあるが、この合宿所はアーチェリー場を備えている。もう随分と前の話だが、オレには洋弓の心得があった。高校生になって洋弓部に入った隆史君は、一緒に弓を引くのを楽しみにしてくれているらしい。
「お父さん、隆史君のところへ行ってあげて。夕飯の用意は私達でやっておくから」
一息つく間もなく妻の声に送り出されながら、オレは玄関へ向かうことにした。