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泉Ⅱ


夜が更けたのか、いよいよウィンの顔すら見えなくなってきた。それでもジェイソンとエリー兄妹は、止まる事なく進む。余程この森に慣れているのだろう。足元も見えないこの暗闇の中で、よくここまで歩けるものだ。


デイジーは、吐き気は収まったものの、まだ本調子ではなかった。一つ足を踏み込むたびに身体がふらつくぐらいだ。しかし、ウィンは鼻歌を歌える程薬が効いたようだ。


「ねぇ、まだなの?泉とやらは。もう夜になっちゃったわ。それに、大分疲れてきてるんだけど?」


ウィンがジェイソンとエリー兄妹を疑う。デイジーは頭痛を治してもらった分際で何をいっているんだ、と言ってやりたかったが、諦めた。


しかし、遠すぎる。出会う前、もう少しと言っていたにもかかわらず、もう数時間、歩いている。


「もう、文句ばっかり言ってないできびきび歩いて。本当なら一時間前には着いていたはずよ」


エリーは、まるで僕とウィンの歩幅に合わせていたかのような言い方をした。それから少しだけこちらを覗いた。


実際そうなのかもしれない。この暗闇で、あれだけ歩けるんだ。付いて行くと言った僕たちを撒きもせず、ゆっくりと歩いてくれたのかもしれない。


「それって、私たちが居なかったらもっと早く着いたってこと?」


ウィンが不機嫌そうな声で言った。デイジーは呆れた顔でウィンを抑えようとしたが、ウィンは全く動じなかった。


ふいにエリーが後ろへ振り返った。


「そ、そんなこと言ってないじゃない。ただ私たちはこのを早く泉に浸からせてあげたいの!それに……。」


「エリー、やめなさい。それに、もう着きましたよ」


久しぶりにジェイソンの声が聞こえたかと思うと、目の前をすっと指差していた。指先の向こうを見ると、明るくなっていた。太陽が顔を出したのかと思うくらい明るかった。


しかし、それは太陽でもなんでもなかった。異常に光っているだけで、よく見るとただの泉だった。でもその泉に近づくにつれて、不思議とデイジーの吐き気が治まってきた。


「着いた……」


エリーは一言だけ発すると、駆け足で泉に近づき、膝をつき、アカショウビン(8部参照)という鳥を泉は浸けた。


デイジーは、何をしているのかを見るために少し近づいた。しかし、ジェイソンに手で止められた。「どうしてだ」と尋ねても首を振るばかりだ。ウィンについては、珍しくおとなしいなと思うと、泉を見て感動しているようだ。


「ほら、鳥さん。元気を出して。そしてゆっくり息をするのよ」


そう言うと同時に、泉の水で濡れた鳥の翼がぶるっと震えた。それからは一瞬の出来事だった。


鳥は泉の中で翼を広げ、羽ばたこうとしたので、エリーは鳥を泉から出してやり、思う存分飛ばせてやった。


「奇跡だわ」


ウィンは涙を流して喜んでいた。


当の僕はと言うと、死んでいるに近かった鳥を見事に復活させて、元気に飛ぶ姿がまだ信じられず、呆然と立っていた。


「ね、言ったでしょう?ここは死の森なんかじゃないって」


「どうですか?これで私たちのことも信用してくれますか?デイジー君は先程まで疑っていたようですが」


ばれている。僕がエリー兄妹を信用していない事が。まぁ無理もない。泉に着くまでの間、たまに話しかけてきていたが、殆ど無視していた。ウィンは普通に会話をしていたので、余計に変だと思ったのだろう。


「いや、疑ってなんかないよ。ただ、まだ気分がね、落ち着かなかっただけだよ。でも、今のを見ただけで疲れすら吹き飛んでしまったよ」


エリーはどや顔でこちらを見ていた。


「ああ、私ちょっと席外すね」


そう言ったウィンは、森の方へ消えて行った。まるで吸い込まれるように。


そう考えると、やはりこの泉は変だ。ここの周りは殆ど枯れているか、あっても細く脆い木しかない。にも拘わらず、この泉は生き生きとしている。もしかして、周りの生気をこの泉が吸っているのか?いや、それしか考えられない。


突然、どこからともなく笛の音が聞こえてきた。おそらくウィンの笛だろう。初めてあった時から、夜になると必ず笛を吹いている。とても美しい音で、聴くといつも母さんや父さんのことを思い出す。そして必ず涙が出てしまう。


「あら、なんの音かしら」


ようやくエリーたちにも聞こえたようだ。


「多分、笛の音ですよ。それにしても綺麗な音だ。鳥が蘇った事がよっぽど嬉しかったのですね」


「あの音笛なんだ。え、待って、音だしてるのってウィンなの?」


驚いたエリーの肩に鳥が降り立った。すると鳥はエリーの頰に頭を擦りつけた。助けてくれたエリーに感謝の気持ちを表しているのだろう。


とにかく、ウィンのおかげで気まずい雰囲気は回避できた。


笛の音が止むと、まもなくしてウィンが帰ってきた。


「あれ、みんなどうしたの?」


少し顔を引きつって言った。


笛の音が止んで再び静まり返った時、後ろからガサガサと誰かがやってくるので、ウィンと分かっていても皆構えてしまうのだ。


「ああ、ごめんね。ウィンさんだと分かっていても自然と体が動いてしまって」


この時、デイジーは何かがおかしいと思うが、気のせいだと自分に言い聞かせてしまった。

こんにちは

今回は会話が少なくなっています。

比べてデイジーの心の声が多いですね。

またいつ更新できるのか、それはまだ

わかりませんが、

どうぞよろしくお願い致します

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