泉Ⅰ
「治療する者……。医者ってことなの?」
ウィンが、女から貰った粒状の薬をつまみながら言った。頭痛を和らげる薬だそうだ。
「そうよ、だから早く飲んで!信じられないかもしれないけど、私たちまだしなければならないことがあるから」
女が答えた。デイジーは、薬を貰うのを拒んだが、兄の方が睨むので仕方なく受け取った。吐き気どめの薬をドキドキしながら薬を飲んだが、苦くもなく、飲みやすかった。毒ではない、みたいだ。ウィンもしばらくして飲んだ。
「しなければならないこと?もしかして、その怪我してる鳥のこと?」
デイジーは、タオルの上に寝かされた鳥をみた。その鳥は、見事な朱色の身体を持ち、大きさは約12in(約30cm)程だ。腰の青い斑点が、また美しい。
多分、この時期によくみられるアカショウビンという鳥だろう。キュロロロロとさえずりをする鳥で、雨乞いをするそうだ。
「そうよ。ね!兄さん」
女が兄に振った。
「はい、そうですね。怪我しているというよりも、もう死んでいると言う方があっているのかもしれませんがね。だから治しにここまで来たのです。ところで、自己紹介をまだしていませんでしたね。まず私から」
そう言うと兄の方が一歩デイジーたちに近づいた。
「私はジェイソンです。皆からは『ジェン』と呼ばれています。そして、こっちは私の義妹のエリーです。治療が優秀で、私の方が劣っているほどです」
エリーが頭を下げる。兄、ジェイソンには毎度丁寧な言葉遣いで、関心する。
「優劣は僕たちには何も分からないんだけど、ジェイソンとエリーだね。分かった。僕はデイジー。あることがあって旅をしている。こっちは……」
ウィンが僕を止めた。自分のことは自分で紹介するということだろう。
「私はウィンよ。アドランスイ王国の第一王女よ。私はある事について調べる為、デイジーと一緒に旅をしているわ。よろしくね」
怖い笑顔だ。それにしても、こんなにきちんとした自己紹介が出来たんだな。
「第一王女?!」
ジェイソンとエリーは声を合わせていった。
「第一王女、様が、なんで……。あ、ある事を調べるとはどんな事なの……ですか?」
エリーは不慣れな敬語で質問した。ウィンはにやっとしてから答えた。
「なーいしょ!それよりその鳥を、泉だっけ?連れて行かなきゃいけないんでしょう?私たちも付いて行くわ。案内してちょうだい」
そう言ってエリーの質問は全く受け付けなかったのに、自分の意見はしっかり突き通している。こういうところは「姫様なんだな」と思う。
ウィンの頭痛はもうすっかり治ってしまったみたいだ。そう考えると凄いな、ジェイソンとエリーは。ウィンのとても痛そうだった頭痛をいとも容易く治してしまったんだから。僕の吐き気も、随分前から楽になっていた。
「それと、良いわよ。下手な敬語なんて使わなくたって。貴方も私も疲れるしね」
ウィンは大笑いした。エリーが泣きそうになりながらこちらを見た。デイジーは申し訳なさそうに、小さな声で謝った。
今のウィンにはみんながっかりした。いわば、みんな後悔しているのだ。“薬を飲ませなかったらよかった”と思ってしまうほど、ウィンは元気になったからだ。
「分かったわよ、敬語なんて使わない!その代わり罰なんて用意しないでよね」
「エリー、落ち着いて。……。それでは、あなたも王女様も、調子が良くなられたようですので行きましょうか。あの泉へ」
数日空きました。
少ないですが読んでくれたら嬉しいです。
初めてウィンのきちんとした自己紹介が聞けましたね!笑
また更新するのをお待ちあれ