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治療する者

陽の光が、葉を避けてデイジーにあたる。だが、辺りは薄暗い。風は吹かず、動物達の鳴き声や動作音すら聞こえない。


この森、『生物が死ぬ森』こと死の森は、本当に生き物がいない。森だから樹木はあるけれど、どこか元気がない。弱ってるみたいだ。こんな森はここにしかないだろう。ウィンは柄にもなく震えている。


「早く帰りたい。吐きそうだわ」


ウィンが言った。本当に気分が悪そうだ。僕はそれほどでもないが、前に来た時と違うことは分かる。


死の森に入ってから、もう二時間ほど歩いているが、ウィンの言う「嫌なこと」にはまだ辿り着かない。


「せっかくここまで来たんだから、もう少し歩いて……!」


突然、ウィンが肩を抱いて座り込んだ。デイジーが声をかけようとした途端、急激な吐き気が襲った。


「やっぱりだめ……。本当に嫌だわ」


そう言うとウィンは苦しそうに涙を流した。デイジーは、ウィンの涙を見るより先に、場所を少し移動した。


丸木舟にでも酔ったような感覚が、ずっとデイジーを苦しめた。深呼吸をするが、いっこうに良くならない。


「ウ、ウィン。だいじょうぶ?このままじゃ、進めない。い、一旦戻ろう」


ウィンは、デイジーが途切れ途切れに言うのを聞いて、小さくうなずいた。



二人支えながら歩いていると、だんだんと陽が落ちてきて、ついに月と入れ変わってしまった。あたりは暗く、樹木のせいで足元もはっきりと見えなかった。


それでも、デイジーの気分は良くなってきた。ウィンも少し落ち着いたようだ。だが、まだ完璧に復活とまではいかない。普通に苦しいし、出来るならここから早く出たい。


しばらく足を止め、木にもたれて休んでいると、背後で不気味な音がした。音といっても、耳のいいデイジーにしか聞こえないくらいのほんの小さな音だが。


「デイジー、まだ頭が痛いの。もう少し休んでも……」


デイジーが慌てて口に人差し指を当てた。そして、小声で答えた。


「今、怪しい音が聞こえたんだ。この森はほとんど音がしないのに変だろう。さらに今の僕たちには分が悪い。気分も悪いし、この暗さ。何かあっても対処出来ない」


「音?何も聞こえなかったわよ。気のせいじゃないの?」


ウィンも小声で言った。だが、返事は返ってこなかった。また、不気味な音が聞こえたのだろうか?


ウィンが答えた後、またあの不気味な音がデイジーには聞こえていた。つまり、ウィンの推理は的中した。


デイジーは眼を瞑った。音に集中するためだ。さっきと似たような音だが、確実に近づいているということは分かる。まただ、またひとつ音がした。


何かを引きちぎっているのか?いや、何かの物音?どちらにしろ、それを行なっているのは生き物だ。どうなってる?この森には生き物がいないのに……。


「どうなってるの?何も聞こえないわよ。何かあるの?ねぇ、ねぇってば!」


そんなウィンの言葉も聞こえないくらい、デイジーは集中していた。


音がだいぶ近くなってきた。このままここにいては危険だ。隠れないと。


デイジーは眼を開け、ウィンを連れて太い木を探した。だが、さすがの死の森だ。そんな木は絶対と言っていいほどないだろう。


とりあえず、他のより一回り太めの木に身を隠した。


「ウィン、音が近い。そろそろ足音が聞こえると思う。だから息を殺して」


デイジーがそう言った数分後には、ウィンにも足音が聞こえた。不気味な音と一緒に。


「……。足、跡……?」


しまった。人間なのは良かったが、こいつ足跡が読めるのか!


デイジーは焦りながらも、息を殺した。ウィンは頭痛を我慢しているのか、手で頭を支えていた。


地面がところどころ明るくなるので、多分、火を持っているのだろう。他にも何か持っているらしく、火を落としそうで怖い。


「鳥さん。もうすぐよ、もうすぐ着くよ。清邪せいじゃの泉まではもう少しよ」


清邪の泉?聞いたことない。そもそもここはそんな清楚なところじゃない。鳥は怪我でもしたのか?だとしたらこんな所にいては余計に悪化する。止めるか?


「あなた!こんな所に来ちゃだめよ、危険だわ。今すぐ帰りなさい」


デイジーが考えているうちにウィンが飛び出してしまった。さっきの声と喋り方で女と分かったからか、どこか強気だ。頭痛で苛立っているのだろうか。


ウィンが正体を晒してしまったため、仕方なく、デイジーは木から出た。


「ウィン、落ち着いて。あの、君はどこから来たんですか?ここが危険な場所だと分かってますか?」


デイジーはため息をつきながら女を見た。


包帯の巻かれた鳥を抱いている女は、デイジーと同じくらいの歳にみえた。もしかしたら、少し上かもしれないが、足が長く、肌が白いので唇がとても紅く見える。肩の高さでくくっている髪は、美しい金色で胸まであった。肩からは大きめの白いバッグをぶら下げている。


「危険?おかしなことを言うのね。この森はこんなに“命”に憧れているのに!これから行く泉だってね……」


「そのくらいにしておきなさい、エリー」


声のした方を覗くと、女の後ろからデイジーより遥かに背の高い男が現れた。


デイジーはとても驚いた。足音や不気味な音が聞こえたのは、ひとつ分だ。当然、二人いると思っていなかったのだ。


兄様あにさま。だって、この人たち何にも分かってなんですもの。兄様も言ってやってちょうだいな。この森は死の森なんかじゃないって」


兄妹なのだろうか。それにしても、兄様と呼ばれた男は少し怖い。体格は普通だが、眼は女の髪と似た色をしている。妹と思われる女をみる眼は優しいが、時折こちらをみる眼は鷲のように鋭い。


「ここは正真正銘死の森ですよ。この人らは合っているんです。でもまあ、死の森と言うのは少し物足りないですけどね。それよりお二人とも、気分が悪そうですね」


デイジーとウィンは顔を見合わせた。確かに気分が悪かったが、推測されそうな態度はとっていない。デイジーは男を危険と感じ警戒した。


「何故分かったんですか?気分が悪いのだと。それともでたらめ?かまをかけたのですか?それに、死の森じゃ物足りないってことは、他にこの森について何かあるってことですか?」


ウィンが問い詰めた。


「まあまあ。落ち着いてください。まずあなた方の体調を治しましょう。それからはいくらでも質問に答えましょう」


女の兄が答えた。次に口を開いたのは、女だった。


「そうね、兄様。“治療する者”として患者は放っておけないわ」


そう言い終わる前に、女はバッグを漁りだした。

今回は早めですね。

早めに投稿できました。

この調子で頑張りますんでよろしくお願いします。

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