死の森へ
もうすぐ梅雨が明ける。夏が近づいて来ている。
母さんと別れてから1年経った。
“お前なら謎が解ける。父さんの蔵に行け”
これが父さんの最後の言葉。あの日、僕は父さんの蔵に行った。扉を開けると、ずいぶん開けてなかったのか埃が降って来た。電気もなく、暗くて目が慣れず、最初はあまり見えなかった。目が慣れてくると、部屋は広く、壁際にずらっと本棚が並べてある事がわかった。それ以外何もないのかと思った時、部屋の真ん中で何かにつまずいた。それは、埃をかなり被っていたが、綺麗な表紙の分厚い本だった。
その本が何なのかわからず、その時は「何でこんなところにこんな本があるんだ」くらいにしか思っていなかった。本の隙間を探したが、見つかるわけがない。そもそも、こんなだだっ広い部屋の真ん中に本が落ちるわけがない。
だから僕は、父さんのメッセージだと思った。こうなる事が分かっていたのか?とりあえずその本を開いてみたが、読めない字が多すぎてわからなかった。
数年経ってからまたその本を見ると、表紙にも何か描かれているのが分かった。碧色の表紙に血のような色で模様が描かれていた。七人の人が円になっていて、それぞれ胸に星が刻まれている。星の中の文字は細かく、汚れていたのでよく見えなかったが、名前のようだ。
開くと、一際大きく目立っている文字があった。
『昔、ひとつの大きな禍いがあった。その禍いは、一族達が住む村をひとつ、またひとつと滅ぼしていった。
ある時、男と星の名を持つ七人の神使が、禍いの前に姿を現した。その男達は、禍いに立ち向かい、ついに禍いを滅ぼしたのだ。それから男達は、“英雄の星”と呼ばれるようになった』
「ィジー、デイジー!危ないわよ。ここから先には行かないほうがいいわ」
ウィンがデイジーの意識を“今”に戻した。
デイジーの前には、死の森という森が広がっていた。この森の本当の名前は、die organizati。『死の森』というのは、ただの別名である。長く、言いにくいdie organizatiを直訳すると、『生物が死ぬ』となる。それをもっと簡単にして、『死の森』となったのだ。
単純だ。こんな所に入ったところで死ぬとは到底思えない。そもそも、僕は何度もこの森に入った事があるが、今もこうして生きている。
「どうして?ここは名前ほど怖くはないよ。何度も入った事あるし」
ウィンは悲しそうな顔をしていた。
「何故か……。わからないけどこの先、嫌な事がある気がする。行きたくない」
「嫌な事……?どんな事なんだよ」
こんなウィンは見た事がない。いつも強気なウィンがどこかへ行ってしまったみたいだ。
「だからわからないって言ってるじゃない!まさか行こうとか思ってないよね」
「え……。えっと」
「やっぱり!絶対に行かせないから。というか行きたくないって言ったでしょう?」
ウィンの取り乱し様を見る限り、本当にやばそうだ。だからと言って、行かないという答えには結びつかない。本当は今すぐそこに行って確かめたい。どうなっているのかを……。
「うん……。でも、気になるよ。ちょっとでいいから行こうよ。ウィンが行かないなら僕だけでも行ってくるし」
「嫌な事があるのに行くつもり?ばっかじゃないの?」
ウィンの言葉が棘みたいに刺さる。
「そんなだったらあなたのお父さんを助けられないわよ。危機感がないもの。嫌な事があるってことは、その環境を作った元凶があるかもしれないのに」
胸にナイフが刺さったように息苦しくなった。父さんのことを思い出して……。
ウィンの言うことは正しい。でも、デイジーも考えなかったわけではない。元凶がその場にあるのなら、嫌な事だけではないと思ったのだ。まず、“怖い”と思うはずだ。でもそうではなかった。ならその場にはないという事。
でも決して危なくないわけではない。心して掛からないと「嫌な事」の中に自分も入ってしまうかもしれない。
「でも行きたいんだ!行かないといけない気がするんだ」
ウィンは大きくため息をついた。呆れた顔が目にとまる。
「何を根拠にそんなこと言ってるの?でも……あなたがそんなに行きたいって言うなら、私も使命としてあなたについて行くわ」
そう言ってウィンは死の森に足を踏み入れた。その後を、デイジーは駆け足で追いかけた。
二章突入です。
すみません、更新するの遅いですよね。
もう少ししたら
連続で更新できると思います。
それまで気長に待っていただけたら嬉しいです。
二章もよろしくお願いします!