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母との別れ


「デイジーじゃないか?大きくなってはいるけど、昔の面影がある」


デイジーの背中に話しかけたのは見ず知らずのおじさんだ。木のような服を着ていて、髪は真っ黒。肌は白いのに全体にすすを塗っている。


「誰?なんで僕の名前を知ってるの?」


振り向きながら言った。


「やっぱりデイジーか!大きくなったなぁ。サランは元気か?久しぶりに通ったから様子を見に来たんだ」


どうやら母さんの事も知っているらしい。ウィンの仲間か?


「誰なんだよ。ウィン、君の知り合いか?」


「なんで私に振るのよ。でも、見たことはないけど、格好からして『旅する者たち』かしら。書説で読んだことがあるわ」


旅する者たち?なんだそれ。あ、でも。何だろう、聞いたことがある。でも、ずーっと小さい頃だったと思う。確か母さんが話していたような。父さんと一緒に……。


「お?俺たちの事知ってるのか。嬢ちゃん偉いね。何処の国のもんかな?」


「じゃあ、あなたたちがあの『旅する者たち』?初めて見たわ。私はアドランスイという国の者ですわ。早速ですが、あなたは族長ですよね。ここにサインをして頂けませんか?いろんな一族からサインを集めることが私の趣味なのです」


そう言いながらウィンは自家製のノートを渡した。

ずいぶんウィンは性格が変わったな。僕の前ではあんなに態度が大きかったのに、今ではおやつを見つけた犬のようだ。


「アドランスイ?聞いたことないなぁ。同胞達にも教えてやらんといけないな。嬢ちゃんの国、機会があれば行かせてもらうよ。」


サインを書きながらそのおじさんは言った。


デイジーはおじさんのサインをじっと見た。文字を書いているようだった。遠くてはっきりとは見えない。


「あの、これはなんて書いてあるのかしら?」


「ウィンちょっと見せて」


デイジーは、ウィンの持っているサイン入りノートを見せてもらった。


「内緒だよ。嬢ちゃんがもっと偉くなったら読んでみな?」


読める。僕にとっては日常で使う文字だ。何で?どうしてこの文字が読める?


「デイジーどうしたの。調子でも悪いの?」


ウィンが気遣ってくれるが、さっきまでと違いすぎて背筋が冷えた。


「いや、僕この文字が……?」


言いかけた時、さっきのおじさんが口に指を当てて首を振った。


「嬢ちゃんの楽しみがなくなるだろう?我が同胞よ」


同……胞……?


デイジーは同胞という言葉に聞き覚えがあった。でも何処で聞いたか定かではない。


「足が速くなったわねデイジー。あら、お久しぶりね。カーナス。私を覚えてる?」


「覚えているもなにも、我が同胞のサランじゃないか!忘れるなんて事はない。一族の血にかけて」


カーナス……。カーナスおじさん?カーナスおじさんだ!間違いない、僕が5回目の夏を迎える頃に一度、次の目的地へ行く途中でここに立ち寄ってくれた。あの時僕と一緒に遊んでくれたのは、確かカーナスおじさんだった。その時に「小さい同胞に会えて嬉しいなぁ」と言っていた。


「変わらないわね、カーナス。私はこんなにも衰えてしまったわ」


「そんな事はない。一族の血が途絶えぬ限り我らは燃え続けるのだ!」


なにが面白いのか、カーナスおじさんは大いに笑っている。5歳の時に会ったとは言ってもいちどしか会っていない。懐かしみなんて微塵もない。


「カーナスおじさん。今思い出しました。えっと、先ほどの無礼お許しください……」


「お?あはは、いいんだ!思い出してくれたか?デイジーが小さい頃よく遊んだよなぁ」


またカーナスおじさんが笑った。そんな中、ウィンが混乱したような顔で僕をみた。


「デ、デイジー?あなたは『旅する者たち』なの?でもあなたは旅していないわよね。どういう事?」


すかさず母さんが口を開いた。


「カーナス?あなた、娘がいたの?!」


「いないよ!息子ならいるけどね。この子はアドランスイから来た次期女王様だよ」


カーナス以外3人の口がぽかんとあいた。


「ど、どうしてわかったんですか?」


「どうしたって、我が一族をなめないで欲しいなぁ」


次に口が動いたのはサランだった。


「次期女王様?!そんな子がどうしてここに?」


「あ、それはちょっと。機密事項なんで……」


サランは少し違和感を持った。次期女王というこの娘がどうしてデイジーといるのか。機密事項とは何なのか。


「ウ、ウィン!?どうして僕に話してくれなかったんだ?そう言えば、全然君のこと教えてもらってないし」


「あはは、ごめんね!言う事がたくさんあり過ぎて自分の事言う暇なかったのよ」


デイジーはウィンが次期女王様ということを知って今までの行動を振り返っていた。


本当に王女が弓を持って山を歩いたり、狩をしたりするのか?絵本の中ではお城に閉じこもって気乗らない結婚をするんじゃないのか。


「しかし、サラン。風の噂でだな。なんだ、その、ジュンが……し、死んだとか……聞いたんだが」


サランがふっと息をこぼした。


「そうかもしれない。でも、死んでないかもしれないわ」


そう言うと、サランはなにが起こったか全てを話した。


「そうか、そんな事が……。辛かったな。サラン、デイジー。実はここ数年、こう言う事件が増えているんだ。ジュンだけじゃない。他にも変な穴に吸い込まれて消えた人物がたくさんいるんだ」


「え!!!」


3人ともが同時に声を上げた。


父さんだけじゃなかっただなんて。ほかにも、他にも被害にあった人がいたなんて……。


「そして、吸い込まれた人物は皆、男なんだ。ただの男ではない。親が一族と一族のハーフの男だ。ジュンの親は確か天の一族と地の一族だったな。だからなんだ。もしかしたらデイジーも……」


「いやよ!はぁ、はぁ。もうこれ以上……大事なものは失いたくないわ!」


サランは涙を堪えようとしたが、止まらなかった。


母さんを慰めようとした時、ウィンが小声で話しかけた。


「デイジー、今こんな話するとかではないと思うけど……。あの事を決めて欲しいわ」


デイジーは顔を曇らせながらサランに声をかけた。


「大丈夫だよ。僕は、絶対にあの穴には落ちない。平気だよ。大丈夫」


「サラン、すまんな。でもこれだけは伝えたくてここに寄ったんだ」



“あの事を決めて欲しいわ”その言葉が頭の中を駆け巡っていた。もう答えは決まっているのになかなか言い出せない。勇気が持てない。でも、『旅する者たち』がいる今この時がいい機会なのかもしれない。



「母さん。僕、父さんを探しに行ってくる!だけど母さんは一緒に行けないよ。ここにいるウィンと一緒に行ってくる。僕の使命なんだ」


サランは一気に血の気が引いた。


「なんですって!あなたは私のそばを離れてはだめよ。ずっと私と一緒に居るのよ!」


「いやだ!父さんを探しに行く!母さんは僕が居るから探しに行かなかったんでしょう?でも僕はもう大きくなった。狩も出来る。」


サランが一層泣き出してしまった。カーナスはデイジーの決心に感心していた。


「カーナスおじさん!僕の、僕の母さんをこれからの旅に連れて行ってくれませんか?母さん一人じゃ僕も落ち着いた旅ができない。お願いします!」


「……。それはいいが、同胞が戻ってくるだけだからな。だが、もしデイジーが父さんを見つけたとしても母さんには二度と会えないかもしれないぞ?」


デイジーは少し躊躇ったが、すぐに立ち直った。


「大丈夫、家族なんです。血が家族を引き戻すでしょう!」


サランはデイジーの言葉にびっくりした。自分をもうとっくに超えてしまったように思えたのだ。


「そうね。そうよね!あなたなら大丈夫だわ!私はあなたとジュンをずっと待ってるわ。ずっと、帰ってくるまで永遠にね!」


「デイジー、言うようになったなぁ!頼もしいじゃないか」


カーナスも笑いながら言った。




それからデイジーとサランはそれぞれの旅の準備をした。時々サランは、デイジーにあれこれ注意した。



「もう、母さん。大丈夫だよ。もう決めた事だから。ちゃんと父さんと一緒に帰るから」


「この先トラや、クマもたくさん居るんだから……いや、もういいわね。気をつけて行って来なさい」


「はい!母さんも気をつけて……!」


急に腕を引っ張られたかと思うと、サランに抱きしめられていた。






───愛しているわ。これからも、この先もずっと───






またまた更新遅れてすみません。

一応これで一章は終わりです。

まだまだ続きますが気長に待ってくれたら嬉しいです。


あとですね、お気付きの方もいらっしゃると思いますが、アドランスイを並べ替えるとアイスランドになっちゃっいます。国名は難しいので並べ替えにさせてもらいました。

ありがとうございます、アイスランドさん。

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