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謎の旅人(Ⅱ)


野営地に戻るまでの間、デイジーは不思議な気分だった。

何故泣いてしまったんだろう。僕はあまり泣かない方だったはずなのに、あの音を近くで聴くと涙が出てしまった。


野営地に着くと、もう母さんは寝ていた。

深く眠りについているせいか、デイジーが帰ってきた事にも気付かない様子だった。


それにしても泣き顔を見られなくてよかった。もし見られてしまったら、母さんはしつこく質問してくるに違いない。どれだけ「大丈夫だよ」と言っても無駄だろう。


デイジーはほっとしながらも、母さんを起こさないようにポーチに手を突っ込んだ。

母さん手作りのポーチで、他のに比べるとものすごく大きい。食べ物を入れる袋として使っている。

このポーチから六粒ヤマモモを取り出すと、一粒ずつ食べ始めた。


甘酸っぱくて、少し苦味がある。でもこれが一番美味しいフルーツ。他の地域にはもっと美味しいのが有るのか知らないが、この地域ではみんなこれが一番と言う、らしい。実は、僕は他の人を見たことがない。だから、これは母さんから聞いた話だ。


「デイジー。起きてたの?」

母サランがあくびをしながら言った。いつの間にか夜明けだ。

「うん。何だか眠れなくて……」

ヤマモモは、真夜中を過ぎた頃に食べ出したのに、二粒も残っている。

デイジーは二粒のヤマモモをズボンのポケットに入れた。

(せっかく出したから、後で食べよう。)


「デイジー、あまり寝てないんじゃない?少しくらい寝なさい。」

優しげな口調でデイジーに言った。しかし、デイジーは首を横に振った。

「いや、起きているよ。そろそろ狩りの時間だしね。」

デイジーは立ち上がりながら、ポーチをバッグの中に入れ、立てかけていた弓矢と投石器を持って狩りに出かけた。

「デイジー無理しちゃだめよ!」


母さんの声を遠くで聞きながら走り出した。もうすぐ朝を迎える。真っ赤な太陽が輝きを放つと、鳥たちが朝を迎える唄を歌いはじめた。



鳥たちの唄を聴きながら、笑う森に入った。


夜が明けてまもないせいか、少し肌寒く、鳥たち以外の声は聞こえない。他の動物はまだ冬眠しているのかもしれない。

美しいほしざくらも咲きだし、あたり一面を桃色で包んでしまった。


デイジーたちが野営をしている所は眠る森だ。とても静かで、肉食動物の狩りがほとんど無い。笑う森は、眠る森から一マイル(約1600m)程ある。


この森は肉食動物たも草食動物もいる。だから狩りができる。この森には動物達の王がいると言われている。出来れば会ってみたいと思う。


デイジーは矢を肩に担ぎ、弓は手で持っていた。投石器は腰のベルトに繋いでいる。


今日はいい天気だ。朝は霜が出なかったし、太陽もしっかりと輝いている。風が囁くように吹いている。なんて気持ちがいいんだろう!今日は狩りがうまく行……!


突然、目の前を横切った何かが、その先のほしざくらの木に当たった。見ると、それは矢だった。あとほんの少し進んでいたら死んでいただろう。


「やっとだわ。」

たった一言で誰かも分からず戸惑ったが、木陰から顔が見えた瞬間、誰だか分かった。


髪が長く茶色く、瞳が碧い。

つい数時間前に会ったから忘れてはいない。


『太陽への儀式』の女だ。

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