かぐや姫・オブ・カリビアン
むかしむかしある所にお爺さんとお婆さんが住んでいましたり
ある日、お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に出かけました。
…それがこれから起こる日常を壊すことになるとは知らずに…!呑気に…!
×××
お爺さんは芝刈りに出掛けましたが、途中であることに気がつきました。
「しまった…斧を忘れてきてしまったぞ困ったのう…」
お爺さんは大慌て。急いで帰ろうとしますがお爺さんは道に迷ってしまいます。
「困ったのう…念のためサバイバル術は身につけてあるが武器もなにもないからのう…」
時代背景が既に崩壊しているような発言をするこのクソジジイ…お爺さんは疲れからか変なことを言ってしまったようですね。
その後も何とか見たことのある景色にたどり着くまで歩き回りますが…このジジイは目でもやられてんのか?森の中に入ってしまいました。
「困ったのう…」
こいついっつも困ってんな…こほん、さてお爺さんは絶体絶命。心無しか視界が暗くなった様な雰囲気に包まれます。
「ふぅ、どうしたもんかのう…」
歩き疲れたお爺さんは一旦腰を下ろし休憩をすることにしました。サバイバル術を身につけたとか言ってもこのお爺さんはもうお年。どこぞの七つの玉を集めるお話に出てくる亀の爺さんみたいに動くくことなんて出来ません。
「少し眠るか…」
ついにお爺さんが自殺願望を持ってしまいました。こんな森の中で昼寝こいてる余裕なんてねーぞ!?
熊とか蛇とか鬼とか現れて殺されちまうぞジジィ!
「おっと、その前に小便をして置かんとな」
で、出た~老人特有の細かいところだけやけに日常茶飯事の如くこなす奴〜。
お爺さんは立ち上がります。すると視線の先には光る竹がわんさと生えていたのです。
その竹達ははまさに神々しい光を放っておりました。まさにそう、その竹を切ると中からかわいい女の子が産まれてきてしまいそうな…。
「チッ…どうしてわしはこういう竹に巡り会えたというのに今日に限って斧を忘れてしまうのじゃ…?悔しいクヤシイ…これじゃあ✞竹取の翁✞の名が泣くぞい」
自分のことを✞竹取の翁✞だと思っている老(害)人は自分のミスでこの竹を持ち帰れないことを深く悲しみました。それはもう、血の涙を流す程に。
そして怒りのせいか、お爺さんは普段思いつきもしないようなことを思いついてしまいました。
「そうじゃ、ここにわしの小便を掛けてマーキングしておこう」
犬かアンタ。
YouTubeで上げたら面白そうなタイトルのような発想のままにお爺さんはそこに小便をぶちまけました。
すると、不思議なことが起こりました。
さっきまでキラキラ輝いていた竹が、ドス黒い色へと変わっていったのです。
「ど、どういう事じゃ?さてはばぁさん昨日の食事に毒を盛ったな!?」
だったらあんたも既にお陀仏だろというツッコミを持ち、そのドス黒い竹は今にもこの世界に絶望を振りまくような存在感を見せます。
そして、次の瞬間!その竹は更に強い黒いオーラを発しました!
「う、うわぁ!?」
お爺さんは驚いて腰を抜かしてしまいました。これではもう逃げることが出来ません。
そしてその光は収束し。人の形を型どるようになっていきます。
「な、なんじゃこれは…」
お爺さんはおしっこをしたことを悔やみました。せめて左に受け流しておけば…そう思わざるをえません。
でもこの状況でおしっこしていなかったら確実に漏らしていたと考えたお爺さんはなんとか自分を正当化せることに成功しました。
そんなことを考えているうちに、その黒いオーラは収束を終え、一つの型を成しました。
「お、お主は一体…!?」
「…名前はまだ無いわ」
それはそれは、ブサイクという言葉の似合う横幅の広い女性が立っていたのでした…。
××××
「ねぇ、ちょっとどうしたの!?絶世の美女が目の前にいるのに貢ぎ物もないワケ!?まじ笑えない~」
自称絶世の美女、かぐや姫は突如SNSになると気が強くなる陰キャみたいな発言をしてきました。マジ卍。
お爺さんは思いました、彼女を絶世の美女と謳うなら、ガラガラヘビですらアイドルグループのセンターだと。
「しかしのうなにか与えようにもわしは道に迷ってしまってのう…」
「えーウソー!?大変ねー、私が案内したげるわ!」
「よ、よいのか!?」
「モチのロンよ!」
「チョベリグじゃのう…」
死語の嵐を巻き起こし、お爺さんはブサイクに付いていくことにしました。
××××
歩き始めて30秒。お爺さんは絶望しました。
既にお爺さんの住んでいる家が見えてしまったのです、これではもうこのブサイクから逃れることはできません。
そして何よりお爺さんのメンタルに響いたのはブサイクを頼らなくてもあと30秒歩けば家の見える場所につくことが出来たということ。
「あれがあなたの家ね!」
「…そうじゃ」
恐怖を胸に、お爺さんは歩き始めました。
(お婆さんになんて説明しようかのう…)
この見るからに性格の悪そうなブサイクに何を要求されるのか。お爺さんは怖くて怖くてたまりませんでした。
××××
「ただいま帰ったぞ婆さん」
「あらお爺さんおかえりなさい。あのね今日面白いことがあったのよ。川から大きな桃が流れてきてそれを猿と犬とキジが貪りつしてたのよ~って、あれ?後ろのブサ…いえ、女の人…?は誰?」
「あぁ婆さん、今から説明するよ…」
そしてお爺さんはさっき起こったことを話しました。
話している途中でいつもニコニコなことで有名な日本昔話のお婆さんキャラの笑顔が引き攣っていきました。
お爺さんは長い間このお婆さんと一緒に暮らしていましたがここまで怒りを顕にしたのはお爺さんが他の女性との三股疑惑が浮上した時以来でした。
ですがなぜ怒るのでしょうか?お爺さんは思いました。
よく考えてみればこのブサイクが産まれたのはほとんど事故の様なもの、仕方の無いことではないのだろうかと思いました。
だから聞いてみることにしました。
「な、何故そこまで起こっておるのじゃ婆さん」
「どうして左に受け流さなかった」
そこですか。貴方はそこに怒っておられるのですか。
お爺さんは乾いた笑いしか出てきませんでした。
××××
「ねぇぇ~お願い養ってぇぇ~ん」
この名も無きブサイクが求めてきたものは生活保護でした。お爺さんを助けたお礼をそれで帳消しにしてやるというのです。
ブサイクの懇願がここまで目に毒になるとは思わなかった。お爺さんとお婆さんは視線で会話を交わします。
(どうするんじゃ爺さんや)
(こ、こうなってしまった以上仕方ない。満足させて帰ってもらうしかないのじゃないかの?)
(ふむ…その作戦だったら逆の方がいいかもしれんの…)
(と、言うと?)
(この家には面白いものはないと見せつけてやればいいのよ爺さん)
(なるほど!そりゃあ名案じゃ!)
お爺さんとお婆さんはぐっと親指を立てました。
さすが生涯を共に過ごし、障害を乗り越えてきたパートナー、息はぴったりです。
「さて…えっとあんた名前は…?」
お婆さんは名前を聞くことにしました。
「え?ウチ?名前はまだ無いからテキトーに名前つけて」
「そうじゃのう…命名ぐらいはしてやるかのう」
お爺さんは偶然とはいえこのブサイクを生み出してしまった張本人。名付けるぐらいはしてやろうと考えます。
「そうじゃな、ここはシンプルに『ドブス』でどうじゃろうか」
「お爺さん、それはあまりにも…女性なのですからあせめてもうひとひねり加えてあげてください、例えば『溝姫』」
「おお、いいのう!溝姫!気に入った!」
どうやらこの家に住むお爺さんとお婆さんは、日本昔話ので登場する様な精神は持ち合わせていませんでした。
「という訳で溝姫、よろしくの」
「今ドブネズミを用意しますね溝姫様」
「ウチその名前キラーい!『かぐや姫』がいーい!けってーい!はいこれでもうウチの名前はかぐや姫!次間違えたら返事してあげませーん!」
なんと嬉しいことでしょう。苦痛に満ちたお爺さんとお婆さんの表情が一気に和らぎました。
お爺さんとお婆さんは、これから毎日自称かぐや姫を溝姫と呼ぶことにしました。
そうすればこの家には面白いものはないと思うはず。
そうなればきっと帰ってくれるはず。
淡い希望、でも確固たる決意を胸に、お爺さんとお婆さんは自称かぐや姫と共にこれから生活することを決めたのでした。
××××
「ねぇ!?デザートは!?食後にはデザートがつきもんでしょうが!?」
まずこの老夫婦に絶望を与えたのは食費でした。
かぐや姫は一日五食をモットーに、しかもデザートをなにかつけないと納得しないのです。
お爺さんはもしかしたら性格はいいのかもしれないという淡い希望を持っていましたがそんなものは無いとはっきり理解しました。
「ねえっ!?ウチに男子中学生が変な思いつきでダメージジーンズを履きたいと思って自分のジーンズにハサミで切り込みを入れた残念過ぎるエセダメージジーンズレベルのボロボロ具合のこの服をウチに着せるわけ!?この老害共頭イってるんじゃないの!?」
ある日もある日もかぐや姫がよくわからない例とともに難癖をつけてきました。
その難癖に対し、お爺さんは言いました。
「すまんの溝姫」
自称かぐや姫は何も言わず一日を寝ながら過ごしました。
返事をしない、を貫こうとしているようです。お爺さんは笑いました「思い通り…!」と。
それは日本昔話のお爺さんがやっては行けないような、そんな笑顔でした。
××××
次の日も次の日も。自称かぐや姫はことある事に難癖をつけてお爺さんとお婆さんを困らせます。
その度に2人は「溝姫」と呼ぶことで何とか彼女を収めてきました。
そして遂に、「溝姫」の返しに耐えられなくなった自称かぐや姫は家を去りました。
「や、やったぞ!勝った!」
「やりましたねお爺さん!」
お爺さんとお婆さんは長年のパートナーらしくハイタッチを交わしました。
そう、お爺さんもお婆さんもこれでこの件は終わりと思い込んでいました。実は、まだ何も解決はしていなかったのです…!そして更に新たな問題がこの老夫婦を襲うとは誰も思わなかったのです…。
××××
次の日でした。
外がやけにうるさいのでお爺さんとお婆さんは二階の窓から何があったのか見下ろしました。
すると、そこには金属バットで扉をガンガン叩く自称かぐや姫かいたのです。
お爺さんとお婆さんはびっくり。お爺さんは急いで止めに行きます。お婆さんは二階の窓から大きな声で叫びました。
「何をしとるんじゃかぐや姫ェ!」
初めて名前を呼んでくれたからか、ジャンル自称かぐや姫はちょっと笑顔で二階のお婆さんに目を向けます。
しかしそれこそがこの老夫婦の作戦でした。
「な、何をしとるんじゃ貴様ァァァ!!?」
視線が二階に行き、バットを振り回す手が止まったタイミングを見計らい、扉を開けてお爺さんはラリアットを1発ぶちかまします。
「ぐげぼっ!?」
自称かぐや姫は大きく後ろに吹き飛びました。
そして二階の窓からお婆さんは自称かぐや姫目掛けて飛び降ります。どうやらこの2人の怒りは殺意に変わってしまったようです。
「くぅっ!」
しかし、この攻撃を自称かぐや姫は身をねじり回避します。
ドンッ!
お婆さんの飛び蹴りは無情にも地面に突き刺さりました。地面にひび割れか入っているところを見ると、このお婆さんはなにかスポーツでもやってたの?
「ちっ…外したか…!?」
「ふふふ…残念だったわね、今の一撃を当てられなかったのは致命的よ」
自称かぐや姫はバットとは別に持っていたケータイをお婆さんに見せつけます。
もう時代背景が迷子だ。こいつら日本昔話やるつもりねぇな。今更ですけれど。
そしてそのケータイには普通の人が見ればこの撮影している人が虐待を受けているようにしか見えない動画が流れていました。
「ウチにこれ以上ストレスを与える行為を行ったらこれをトゥイッターに位置情報付きで投稿するわよ!」
「グッ…なんということを…!」
お爺さんとお婆さんは悔しそうに歯ぎしりをします。
もしそんなことになってしまえば炎上確定、家バレからの周りからの冷たい目線。
これはもう、自称かぐや姫を家に戻すしかありませんでした。
「分かればいいのよ」
そう言ってかぐや姫はずけずけとお爺さんとお婆さんの家に入り込みました。
老夫婦の目には涙が浮かんでおりました。その後も辛い生活が続きました。
このかぐや姫は出歩く度に人様に迷惑をかけます。
盗みや放火。多くの悪事をこなしてきました。
そして逃げ込むのはお爺さんとお婆さんの家だったので当然この老夫婦にも憎しみのベクトルが向きます。
家に卵を投げつけられたり、罵声を浴びさせられたりでした。
もう住民にお爺さんやお婆さんが何を言っても無駄でした。
出歩けば冷たい視線で見られて、お爺さんとお婆さんは肩身の狭い思いで暮らしていました。
2人の心は限界でした。
××××
「…家を出ようか、婆さん」
「それがいいのかもしれませんね」
ある日の夜、お爺さんとお婆さんは長年住んできた家を出る決心をしました。
ここにいたらいずれ寄生される。そして全てを奪われ殺されると思ったのでしょう。
「すまないのう…わしが左に受け流さなかったせいで…」
「もういいのですよ、左に受け流さなかったせいではありません、全てあの自称かぐや姫が悪いのです」
「そうじゃのう…でも左に…?」
その時、圧倒的なひらめきがお爺さんの脳を走りました。
そう、光る竹は。
「一本ではなかったのじゃ!!」
××××
お爺さんとお婆さんはその日の夜から必死にその光る竹を探しに出かけました。
夜の方が光ってるから見やすい、そしてかぐや姫は何故か就寝時間午後10時は守るという理由を合わせての行動でした。
そして遂にお爺さんは光る竹を見つけることが出来ました。
「あの時、わしはこの竹に小便を掛けてしまうという罪を犯した…その罪を贖うのではない!わしは罪を重ねこの世界の害あるものを断つ!婆さん!耳を塞げ!」
「頼みましたよ…貴方だけが最後の希望…」
お爺さんはその光る竹に前と同じように小便を掛けました。
願いはひとつ。彼女と同じくらいのブサイクの誕生でした。
××××
次の日。
「かぐや姫や、あなたに紹介したい人がいるのです」
お婆さんは家でケータイをポチポチ弄ってるかぐや姫に話しかけます。
実はお婆さんから話しかけるのは初めてでした。
ですのでかぐや姫は少し戸惑いはしましたが「はーい」と適当に返事をしてまたケータイを弄り始めます。
「では、入ってください」
その声と同時に、奥の扉がガラリと開きました。
そこに居たのは…。
かぐや姫そっくりのブサイクな男でした。
「ぜひかぐや姫と結婚していただきたいのです」
「嘘…何この人イケメンすぎ…マジゃばいもぅむり」
計画通りかぐや姫はこのブサイク系男子に一目惚れしました。
あとはこの男が恋に落ちれば良いのですが…。
「なぁんと美しい姫なのだァ!ぜひ結婚させてください!お爺さん!お婆さん!」
お爺さんとお婆さんは各る心のか中でガッツポーズをしました。
「こちらこそ!早く引きと…いえ、ぜひそうしてくださいな」
「ウチこの人にどこまでも付いていく!ずっといっしょだょ」
「デュフ、ありがとコポォ」
そして2人は宛ての無い旅に出掛けました。
××××
その後、お爺さんとお婆さんはかぐや姫を村から追い出したということでこの村の英雄として扱われました。
今日でかぐや姫がいなくなって一年が経ちました。今日は1周年記念ということで村の祭りが開かれてます。
熱い手のひら返しでしたが、心の広い2人はそれを許すことにしました。
だって、この先はもう何にも縛られることなく楽しい老後が送れるのですから。
しかし、お爺さんは一つだけ気になることがありました。
あの竹を普通に切ったら、一体どんな子が産まれるはずだったのか…ということです。
ですが考えても仕方ありません。今を楽しめればそれでいいと思いました。
お爺さんがふと空を見上げると、光り輝く何かが月へ向かって消えていくのが見えました。
誰かの悲痛な叫びが聞こえた気がしました。
ですが、お爺さんは気にしません。
今ある幸せを壊してはいけないと思ったからです。
苦労の末勝ち取ったこのささやかな幸せを逆境を共にはねのけたお婆さんと共に過ごそうと、お爺さんは固く決意しました。
その後、お爺さんが山へ芝刈りに行くことはなくなりました。
そして2人はいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
おしまい。