康平、SNSにハマる!!
「ご指導ありがとうございました…」
頭を下げ、生徒指導室を出た。
「絞られたか?」
壁に寄りかかって、ニヤニヤ笑いながら俺を見てるのは祐司。
「どうせまた、ふて腐れた顔で説教聞いてたんだろ?」
そう言ったのは、ひたすらスマホを弄ってる暗そうな奴が、柚希。
高校入学時の自己紹介で、「女みたいな名前だな」と、からかい、喧嘩になった…
それを止めに入ったのが、祐司だった…
「じゃ、帰るか…。んぅーーーーっ!!」
固くなった身体を伸ばした。
ガチャンッ…
「ただいま。腹へったー。クンッ…」
玄関を開けると、旨そうな匂いが漂ってくる。
グゥーーーーッ…
「こ、ん、や、は、な、に、か、なーっ!!」
そんな事を呟きながら、キッチンに入ると…
そこに母さんの姿がなく、いたのは妹の純だった…
「母さんは?」
「あっち!」
とリビングを指差す。
「何してんの?」
「今、話しかけない方がいいよ!今日、初めてスマホかったもんだから…」
「なるほどね…。」
ソファに座り、説明書を見ながら、アレコレ操作してるのが、俺と純の母親で梅木静香、こう見えて40歳!
「で、出来たかなぁ?あっ、康ちゃんおかえり!!」
俺の事をいつもちゃんづけで呼ぶ…純の事も、父さんの事も…
「た、ただいま。何してんの?」
「ん?亮ちゃんがね、スマホ買っても良いって言ったから…買ったの。で、やってんの。」
亮ちゃんってのが、父さんで、梅木亮平。ガッチガチの50歳だけど、母さんとは、かなり仲がいい!!
¨脅したんだろうな、きっと…。¨
父さんも父さんで、仕事人間だから…
グゥーーーーッ…
「純、飯はー?今日、何ー?」
「麻婆豆腐ー!」
そんな呑気なやり取りをし、食卓についた…
「ごち…そうさん…」
母さん、スマホしながら飯食ってるから、何度も麻婆豆腐を溢す…
「む、難しいのね!!」
「ママ、あとでまた教えてあげるから。さっさと、食べちゃって!!」
なんか、立場が逆転してる…
飯が終わると、風呂に入り、テレビ見ながら祐司達とラインやらTwitterやらしてる間も、母さんは、純に教わりながらスマホの勉強?してた。
「俺も、課題やらんとな。」
テレビを消し、部屋に戻るものの…
やるのはTwitter…
それなりに…それなりに…課題もしてる…
でも、やはり、Twitter…
「完全に依存してるやんけ!!」
ピロロッ…ピロロッ…ピロロッ…
「んあっ?ラインだ…」
珍しく電話番号で友達に追加されたらしい。
「しーちゃん、ね。追加、追加っと…。」
ピロロッ…ピロロッ…
≫追加してくれて、ありがとうございます。
≫いえ。こちらこそ。
≫なんて呼んだらいいですか?
≫康平です。
最初は、そんなやり取りだった。
学校にいる時も、家にいる時も、しーちゃんからラインは届いた。
「最近、お前よくスマホ見ながら、ニヤニヤしてるよな?」
「…。」
「彼女でも、出来たのか?」
「いや…」
彼女、ね。このしーちゃんってのが、彼女だったら、どれだけ楽しいんだろ?
「柚希は?」
「俺?別にまだいいかな?別れてまだ1年だし…」
相変わらず、スマホから目を話さないで言う。
「1年?えっ?!いたの?」
「うん。お互い離れてたからな。」
遠距離してたのか…
「祐司は、莉那と付き合ってどれくらい?」
「俺んとこは、今年で4年か?」
「うん。」
祐司の側には、いつも莉那がいる。昼休みだけは…。
「康平くん、彼女欲しいなら紹介したげよっか?」
ピクンッ…
その言葉に、耳が動いた…
「ま、まだいいよ。」
「残念!じゃ、どんな女の子がタイプ?」
「んー、明るくて、料理やお菓子を作るのが上手い人!」
頭の中には、しーちゃんがいた…。しーちゃんも、料理やお菓子を作るのが得意とか言ってたから。
「俺は、俺が浮気しても、泣いて包丁を振り回さなきゃ誰でもいい…」
「…。」「…。」「…。」
いったい、柚希の彼女は、どんな女の子なんだ?
祐司らと顔を見合わせた。
「よし、クリア!!」
「ゲームしてたのか!マメだなぁ。」
「可愛いだろ?俺の愛しのまりあちゃんだ。」
ゴクッ…
¨可愛い!!おっぱいでけー!!¨
「やらし!!私、もう戻る!!」
莉那が、怒って自分のクラスに戻っていった。
「莉那、小さいからなー。」
「そうか?俺には、わからん。」
「女は、胸がでかい方がいい!!」
と、いきなり柚希が言ったから、近くにいた女子数人がこっちを見て睨んできた。
ヴィーッ…ヴィーッ…ヴィーッ…
「おっ!?」
¨しーちゃんからだ…¨
「うまそ…」
≫友達とランチに来ました♪
「誰?女?」
「いや、母さんから。」
咄嗟についた嘘…
「あっ、次の教科、俺、当番だった!!おい、倉本ー。」
友達と弁当を食いながら話してる倉本志津を呼んだ。
「世界史の当番!!」
忘れていたのか、慌てて飯を掻き込んでムセていた。
「じゃ、行ってくるわ!」
「世界史…課題!!」
「あぁぁっ!!」
叫んでは、また睨まれてる二人…
資料室に入って、リストを見ながら探していく。
「あっ、これだ。はい、ちょっと重いけど…」
「はい。」
ガタンッ…
「あと、年表か。」
「そこの緑のケースにありますから…」
そう言われ、そこから使う時代のを1枚取り出す。
「これで、全部、か?」
「たぶん、あります。」
渡した資料を持ち、教室へ戻る…
教卓に置き、席に戻り、スマホを取り出す。
¨しーちゃんって、どんな女の子なんだろう?¨
≫お友達と別れ、ひとりショッピングなうです。
≫俺は、まだ学校だよ。腹へったー。
≫好きな物ってなんですか?
≫肉ーーー!!肉が食いてー!!
≫(笑)
ガラッ…
5限目の授業が始まる。祐司達もギリギリ課題を終わらせたらしい。
¨きょ、今日こそ、じ、自撮りUPしよう!!しーちゃんに見せてみよう。¨
授業を終え、また倉本と資料を戻しに行き、待っててくれた祐司らと帰る。
ヴィーッ…ヴィーッ…ヴィーッ…
「ん?Twitter?」
ひとり新たにフォロワーになってくれた人がいた。
「片想いさん、ね。俺も、片想いだなぁ。しーちゃんに…」
ガチャンッ…
「ただいまっと!!げっ!!父さんの靴だ!」
玄関に真新しい革靴が揃えて置いてあった。
「いるってことは?!」
パタンッ…
「すげー、ご馳走だ!!」
ダイニングテーブルの上には、父さんの大好物が並んでる。
「ただいま、母さん。」
「あっ、おかえりー!さっき、亮ちゃん帰ってきたのよー。」
かなり喜んでるのが、わかる。
父さんものんびりしてる。
「父さん、ただいま。」
「うん…。」
この日、しーちゃんからはラインが夜遅くにあった。
≫今日は、久し振りに嬉しい事がありましたっ!!!
「…か。」
Twitterは、新しくフォローしてくれた片想いさんと少しやり取りをした。
どうやら、片想いさんも、料理やお菓子を作るのが得意らしく、読書家らしい。
俺も、読書は好きだ!
漫画だけどな!!
ラインのしーちゃんとも、Twitterの片想いさんとも、ほぼ毎日やり取りをしている…