兄と生徒会
「はぁ……」
つい妹に釣られてしまった……神部先生め僕の扱い方がわかってきたな……。
ま、いいや。妹と仕事ができるんだから!
仕事は嫌で嫌で仕方ないが、妹と仕事となるとそれは違ってくる。
それにしても……生徒会の手伝いってなにやるんだろ。
雨だから外で活動ってことはないだろう。
となるとデスクワークか……。重労働でないだけマシだな。うん。
「さてと……」
僕は誰もいない廊下で思い切りあくびをしながら生徒会室へと向かう。
ねっむ。
角を曲がったところが生徒会室なのだが、この学校の生徒会は隔離でもされているのだろうか。
生徒会室のほかに空き教室が何部屋かあるだけでほかにはなにもないのだ。
「……失礼しまーす」
「はーい」
生徒会室のドアを開けると、そこは桃源郷だった。
そこには女子生徒しかおらず、なんかいい匂いがする。
「なにかご用ですか?」
そう微笑みながら声をかけてくれたのは、俗にいうお誕生日席に座っている可愛らしい女子生徒だった。
ハーフだろうか。綺麗な金髪をしていて、それをツインテールにしている。
……小学生?
そう見間違えるほどに彼女の顔は幼く、身長もまた小学生と大差ないだろう。
現に今も顔から下は机の下に隠れてしまっていて顔しか覗えない。
「神部先生に言われてきたんですけど……それより、ここは学童クラブかなんかなんですか?」
「む、失礼な。私は立派な高校生です!」
ぷくっと頬を膨らませ訴えてくる様子は、なんだか昔の沙也加を見ているようで兄心というか、そんなのが目覚めてしまいそうになる。
……かわいい。
不覚にもそう思ってしまった自分は、ロリコンではないと願いたい。
「んん。会長、神部先生の紹介ということは……」
僕と幼女との楽しい時間を遮ってきたのは、僕から見て幼女の斜め右に座っている。女子生徒だった。
眼鏡をかけていて黒髪ショートのいかにも優等生っぽい。クラスでは学級委員長とかやってそうだ。みんなから頼られる私……イケてる!みたいな?
……それはないか。
「そ、そうだな。よし、君名前は?」
会長と呼ばれた幼女ははっと気づいたように僕に向き直す。
え……この人会長なの?
「僕ですか?」
「君しかいないだろ……」
「確かに。えっと……僕は白石七瀬ですけど」
「ふぅん。君が」
「え?」
「いいや。なんでもないんだ、気にしないでくれ」
含みのある言い方だな。余計気になるじゃないか!
「じゃあ、そのかわり僕のことこれからずっとお兄ちゃんって呼んでくれませんか?」
「え?え……」
し、しまった――!つい、本音が!
幼女に素で引かれてしまった。
いや、これはこれでありかもな……。ねぇよ。
「しょ、しょうがない。先輩として後輩の願いを叶えてあげるのは当然のことだ」
「ま、マジっすか⁉」
おぉーこれはいけるかもしれない!
さあ、早く呼ぶんだ。僕のことをお兄ちゃんと呼べ!
「お兄――」
「だ、ダメ――!会長なに考えてるんですか!」
僕の最幸の瞬間を邪魔したのは誰であろう僕の妹で、どうやらずいぶんとお怒りのようだ。
「はぁ……会長。悪ふざけはこのくらいにしてそろそろ出てきてください」
「えー楽しかったのにー。鈴ちゃんのいけずぅー」
鈴ちゃんと呼ばれた眼鏡委員長さんは呆れた感じでため息を吐きながら言った。
いや、委員長なのか知らんけど。
「え……?」
僕が疑問に思ったのもつかの間、机の下からぬっとなにかが出てきた。
怖いな⁉
出てきたのは、イスに座っている幼女が成長したような金髪の美少女だった。
髪はそこまで長くなく肩にかかるくらいで、特にアレンジをしているわけではないが、妙に魅力的というか妖艶というか、まあとにかく――おっぱいがデカかった。
「ええ――⁉どうなってんの」
一瞬で幼女が成長したのか?って、そんなわけあるか!
えっとつまり……イスに座っている幼女は本物の幼女……なのか……?
こうしちゃいられん。
僕は咳払いをして幼女にコンタクトをとることにした。
「こんにちはー」
「…………」
無言である。
僕の笑顔が怖かったのだろうか。
「チョコ、いる?」
「いる!」
チョコで釣れちゃったよ!
ぐへへ……。
いやいや、僕は変なことはしない。幼女と戯れるだけだ。
「お名前教えてくれるかな?」
「アリス!」
「アリスちゃんっていうのかー。お兄ちゃんといいことしない?」
「いいことー?」
「そう、いいこと!」
ククク……ガハハハハ!きた――!これは完全に釣れた!
「いい加減にしろ!」
「いってぇ!」
妹にぐーで思い切り殴られた(物理的ダメージ)。
「警察に通報するよ?ここに変態がいますって」
「いやいやいや!おかしいだろ!僕はまだなにもやってない!」
「まだって……これからなにかするつもりだったの?」
ジト目で見てくる妹から僕は目を逸らす。
と――今度は眼鏡委員長と目が合ってしまい、僕が作り笑いをするとゴミを見るような目で見られた(精神的ダメージ)。
そんな目で見ないでください……。
「ま、いいじゃん、ロリコン君」
「おいそこ!僕はロリコンじゃない!」
今度は会長さんから攻撃を受ける(精神的ダメージ)。
やめて!七瀬のライフはもうゼロよ!
僕はその場に倒れこみ涙を流した。
「どうして泣いてるの?お兄ちゃん大丈夫?」
唯一の救いは純真無垢なアリスちゃんの言葉だった。
「ちょっと悪いお姉ちゃんたちにいじめられちゃったんだ……」
するとアリスちゃんは僕を庇うように手を広げて立ち――
「お姉ちゃんたちやめてあげて?この変態さんは悪気がなかったんだよ?」
ごふっ……。
「あー、とどめさしちゃったかー」
「意外とアリスちゃんも容赦ないですねー」
「当然の報いです」
「??」
アリスちゃんはなにがなんだかわかってなさそうだが、女子四人からの攻撃は僕には重すぎた。
だが、こうやって死ぬのも悪くない……か
「さて、白石君?今日から君も生徒会の一員だよ!今日からよろしくー!」
「は、はい?僕はただ手伝いで……」
「あれ?神部先生から聞いてなかったの?ある人からの推薦で君も生徒会の一員になったんだよ?」
神部ェ――――!
「す、すいません。僕これから部活なんで……」
「入ってないでしょ」
沙也加……お兄ちゃんを助けてよ!
「……あ、宿題がですね」
「今日はないでしょ」
なにを言ってもダメなようだ。
堪忍するしかないか……。
「わかりましたよ!やればいいんでしょ、やれば!」
「おお、わかってくれて嬉しいよ!」
半ば投げやりだったが、どうやら納得してくれたらしい。
会長は「今日のところは自己紹介からかなー」と言って、イスに座った。
会長:西園春
副会長:椎名鈴
書記:白石沙也加
癒し:西園アリス
それぞれ自己紹介が終わると、春さん(こう呼べと強要された)は「今日は終わりでいいやー」とゆるい感じで締めた。
それにしても生徒会三人でこれまでよく回ってたな。
アリスちゃんは……まあ、ほらね?
それにしても僕の平穏な日常はどこに行ったのだろうと疑問に思いながら家路に就くのだった。
えーまずは謝罪。すいません妹あんま出てきませんでした!
書いてるうちにアリスちゃん好きになっちゃったんです許してください!
次話こそ、次話こそは妹回にします!
またお会いできると信じて。 長門佑