兄と海
夏休みも半分が過ぎたころ、僕は海に来ていた。
僕はこの夏どこにも行くつもりはなかったのだが、いろいろあって行かなければならなくなってしまったのだ。
太陽はギラギラと視界がゆがむほどの日差しを浴びせてくるし、海岸で遊んでいるリア充どもはこれでもかというほどうるさい。
「プライベートビーチじゃなかったのかよ」
そんな僕の独り言に返答があるはずもなく、僕の前を通ったカップルに変な目で見られるくらいだった。
だが、まあ。いいか。あんなに楽しそうにはしゃいでいるから。
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さかのぼること一週間前――
「沙也加ー?いつまで寝てんだー?」
今日は春さんからの招集もなく、久しぶりの休日だった。
夏休みなのに休日ってのは変だけど、ここ最近生徒会の仕事ばかりだったのだ。人使いが荒すぎる……。
時刻は十一時を回り、もうじき暑さのピークを迎える。
いつもは沙也加と一緒にテレビを見たり、ゲームをしたりしている時間なのだが――今日に限って沙也加はまだ起きてきていない。
前にも言ったが、沙也加は休みでも八時には必ず起きているので、こんなことはこの夏――いや、これまでで初めてのことだった。
「沙也加?入るぞー」
呼びかけても返事がないため沙也加の部屋のドアを開ける。
――沙也加はベッドの上に座っていた。なにか物が飛んでくるんじゃないかと身構えたが、なにかが飛んでくることはなかった(いつもは勝手に部屋に入ると怒られる)。
「起きてるなら返事くらいしろよ。お兄ちゃん心配しちゃったぞ?」
冗談めかしてみたが反応はなく、動く様子もない。……寝ぼけているのだろうか。それとも座ったまま寝てるとか?なんにしても普通じゃないことは確かだった。
反応がないとなんだか悲しいよ!
「おい。沙也加?沙也加!」
近づいて体をゆすってみると微かにまぶたが動いた。それを機と見て、僕は畳みかける!ほっぺをペしぺし叩いたり、耳に吐息を当ててみたり、水で濡らした手でほっぺをぐにぐにしたり。
それにしてもこいつのほっぺすべすべしててやわらけぇ。
と――「ぶえはっ!」
殴られていた。
妹に殴られたこともなかったのに!と言っても、今殴ったのはその妹なのだが……。
「さ、沙也加……?」
「お……」
「お?」
「男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ぎゃあああああ」
妹にボコボコにされる兄がそこにはいた。「いったいどうしたんだ?」とはわざわざ聞くまい。
またアレがきたのだろう。
憑依とやらが。
忙しかったので間が開いてしまいました。すいません!
短いですが勘弁してください!
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