兄と夏
そういえば、と僕は思い出す。
花森さんは自分のことを幽霊ハンターなんて称していたけれど、やっていたことは普通のお祓いとかとなんら変わりなかった気がする。ハンターなんて言うから幽霊を斬れる刀とかが出てくるのかと思った。
本当に出てきたら絶対に止めたけど。
まあ、こんなクソどうでもいいことを考えていたのは今が夏休みだからである――
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夏休みと言えば!海!山!花火!祭り!リア充達が一番活発な期間なのではないだろうか。
僕はずっと家だけどね!
外なんて出るか。なんでこんな暑い中わざわざ外に行かなきゃならんのだ。仕事以外で外出してる人ってバカなの?買い物も今はネットスーパーとかあるから行かなくて済むし、便利な世の中になったもんだ。
クーラー万歳!蚊は絶滅しろ。
「お兄ちゃん」
僕が外出してる人たちをバカにしているとなにやら妹に話しかけられた。
「なんだね我が妹よ」
ソファに寝転がっているため顔だけを超絶かわいい僕の妹――沙也加の方に向ける。
沙也加は夏休みだというのに夜の十二時には寝て朝八時前には起きるという僕には考えられない生活を送っている。
もったいないなー夏休みは時間を浪費するためにあるのだ。昼頃まで寝ろよ!深夜番組見ようよ!それでも僕の妹か!とつい最近言ったが思い切り殴られた。
その沙也加はというと夏休みだというのに制服を着ていた。うーん。嫌な予感がする。
「今日生徒会だよ」
「なん……だと。いやだーやだやだいやだー!家から出たくないー!外暑いー!とにかくいやだー!」
「お兄ちゃんもいい加減大人になりなよ。上からの命令は絶対」
「ぐっ……それでも僕は――抗ってみせる!」
運命に逆らう主人公ごっこスタート。これで沙也加も巻き込めばいつの間にか忘れているはずだ。
「はいはい。そういうのいいから早く準備して」
そもそも乗ってきてくれなかった……。
このままでは生徒会に行かなければならなくなってしまう。どうすれば……。
そうだ――
「僕は沙也加と二人で過ごしたいんだよ!だからね?一緒にいよう?」
「…………」
どうだ、これは効いただろ。クックック。
フッ……やはり顔が真っ赤になっている。フハハハハハかわいい。
「お母さんもいるよ~」
「うっせぇよ母さん!今大事なとこだから」
母さんのせいで沙也加が正気に戻ってしまう!僕も正気に戻って恥ずかしくなるわ!
「つ、つまらない冗談言ってないで早く準備してよ!」
「冗談じゃねぇよ。僕は沙也加と一緒にいたい」
「むむむー。しょ、しょうがないなあ。今日は一緒に行ってあげる!」
ん?あっれれー?おかしいなー。いつの間にか行くことになってるぞー。
……でもまあ、それはそれでいいか。
僕は結局折れることにした。
沙也加が前より僕と話してくれるようになったのは、僕が沙也加のことを知ったってこともあるだろうし、たぶん一番の要因は千春のことでいろいろ気を遣ってくれているからだろう。
僕が何度大丈夫だと言っても沙也加は「お兄ちゃんのことだからいろいろ溜めこんじゃうでしょ」と言って聞かない。
信用されていないのだろうか。まあ、たとえ信用されてなくても沙也加が僕のことを気にかけてくれているというのはそれだけで嬉しい。あまり心配はかけたくないけど、逆に心配をかけるというのもありっちゃありかもしれない。いや、ねぇか。
「あっちぃ~」
思っていた通り外は死ぬほど暑かった。汗は滝のように流れ出ているし既にシャツはびしょびしょ、太陽はギラギラと僕を照らしている。
焦げる溶けるなくなる~!
沙也加も僕と同じような気持ちだろうと沙也加のほうを見ると――普通に歩いていた。
な、なんだこいつは……こんなクソ暑いのに平気で歩いているだと……。ありえない。本当に僕の妹なのか……?
もしかしたら実は義兄弟かもしれない。そうだったらいいなぁ。いや、ないんだけどね。
まあ、本当に義兄弟だったらたぶんうまくしゃべれないと思うし、そもそもしゃべることさえなさそうだ。
とまあ、こんなことを考えているうちに学校に着いたわけだが、本当に沙也加とは一緒に行っただけで全然話さなかった。というか、話題がないのだ。正直沙也加の最近の趣味とか知らないし。知っていたら知っていたでキモがられて終わりだからなぁ。はぁ……。
「なあ、沙也加は暑くないのか?」
「暑いけど?」
「あ、そうですよね……」
我慢してただけだった……。
誤字脱字などあれば教えてください。