兄と千春1
いつもにも増して短いです。すいません。
「で?どういうことなんだよ。花森さんはなんで千春に近づいたんだ?」
「いや、なんと言いますかね。諸事情があるというか、こっちにもいろいろあるというか」
「まったくわかんないんだけど……」
僕と花森さんは人気のないところまで移動して、話しはじめた。
僕はまだ、なに一つわかっていない。花森さんが話してくれないとなにも進まないままだ。
「頼むよ花森さん。教えてくれ。頼む」
僕は固く目を瞑り頭を下げた。
すると諦めたようなため息が聞こえ、「頭を上げてください」と言われた。
「いろいろ話すと長くなるので簡単に言うと私は幽霊ハンターです」
「は?」
中二病なの?花森さんってそっちの方だったの?
「まあ、そうですよね。信じませんよね。では私はこれで」
本当に教室に戻ろうとしたので慌てて引き留める。
「信じる!信じます!その幽霊ハンターさんがどうして千春を?」
「白石さんってバカなんですか?私が幽霊ハンターって言った時点でだいたい察しはつくでしょ?」
「…………」
花森さんにそう言われ僕の頭は――僕という存在自体が真っ白になった。
「……バカは余計だよ」
僕はそれだけ言うと気を失っていた。
****
目を覚ますと、僕は保健室のベッドの上で――泣いていた。
締め付けられるような悲しい気持ちだけが心にばかりあって、どうやっても涙が止まらない。無理やりにでも止めようとしたがどんどん涙は溢れてくる。
「止まれ。止まれ止まれ!止まれ止まれ止まれ……止まってくれ……」
どれだけ止まれと言っても止まってくれない。言うたびに声が震えていくのが自分でもわかる。
「お兄ちゃん」
突然、優しい――包んでくれるような声がして、声のした方向を見るとそこには沙也加が本当に優しい笑顔で立っていた。
そのまま沙也加はなにも言わず、僕を抱きしめてくれた。沙也加を見て止まりそうだった涙は、再び栓が開いたようにぼろぼろと零れてきて肩のあたりを濡らした。
どのくらいそうしていただろうか、いつの間にか保健室にはオレンジの光が差し込んできていて、時計の針の音が妙にはっきりと聞こえる。
「落ち着いた?」
「あ、ああ。悪い……みっともないところを見せちまって」
「お兄ちゃんのみっともない姿なんて見慣れてるから。大丈夫大丈夫」
沙也加は笑いながら僕の背中をとんとんと叩いてくれた。
僕は小さい子供かよ……。なんて、心の中で悪態をついていないと恥ずかしくて死にそうだ。
「それフォローになってなくない?」
「あはは。もう大丈夫そうだね……待ってるよ」
僕は目元を拭うと、顔を挟み込むようにして思い切り叩いた。
「よし!じゃあ、ちょっとお兄ちゃん行ってくるから」
「うん。いってらっしゃい」
沙也加は微笑みを浮かべ僕を送り出してくれる。
ああ、妹よ。ありがとう。本当に。
保健室を出て行く前に僕は振り返ってあることを聞いてみる。
「沙也加……その、今は沙也加なのか?」
僕が問うと、沙也加は一瞬きょとんとし、次の瞬間には笑顔になっていた。
「私はいつでもお兄ちゃんの――ななちゃんの妹だよ」
懐かしい呼び名だった。思えば最初にそう呼んでくれたのは沙也加だった。
僕はその答えに満足して、保健室を出た。
誤字脱字等あれば教えていただけると嬉しいです。