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方舟の巫女姫 〜Eternal lovers〜  作者: 東屋チコ
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07.遺跡調査

「どこのチームに入るか、バルカくん決まっているの?」


アカデメイアに通い始めてからはや三カ月が立とうとしていた。

日中が熱く、夜風の涼しさが身にしみてありがたく感じた季節から、昼間も十分に涼しく、夜にいたっては寒いくらいになっていた。

開け放れた窓から入る風に、その女子のポニーテールがなびいている。

バルカは、声をかけてきた女子を席に座ったまま、見上げながら、何だかんだ言っても美人なのだなぁと思った。


「…まだ決まっていないけど…君と一緒なのは気乗りしないな。マルシア。」

美人を差し引いても余る彼女の気のきつさに正直辟易していたので、ごまかすような苦笑いになってしまった。


バルカ達は、来週からチームに分かれて、街から離れた場所にある遺跡を調査しに行くことが決まっていた。

割り当てられた場所の中には、片道50キロほどの場所もあり、馬を駆けても半日はかかる。

学生に任せるには随分大がかりな調査だった。

来週に差し迫った調査に向けてグループ分けを決めるギリギリのタイミングとなっていた。


マルシアは、眉をひそめ、しかし小声で続ける。

「…遺跡調査には、危険も伴うの。去年は戻らなかったグループもあるのよ。そのような中で、足を引っ張るような人と組みたくはないのよ。」


(…学生の遺跡調査で危険?)


その言葉にバルカも顔をしかめた。

アカデメイアには、まだまだ自分の知らない秘密があり、マルシアは、その秘密に少なくとも自分より精通している。

危険も伴うようなものであるのならば、彼女の力を借りることも必要かもしれない。

うっかり、学年3位を取ってしまったために、自分を敵視している学生も少なからずいるのだ。


「…わかった。お仲間に入れてくれよ。」

「ふふ。そうこなくっちゃ。」


マルシアはその返事を聞き、教室の外にいる男子生徒に手招きをした。

近付いてくる男子生徒は、マルシアと同じ飴色の髪を短髪に切りそろえていた。

十分涼しくなったというのに、制服を肩までまくり上げ、よく日に焼けた長い腕を覗かせている。

快活そうな大きな瞳は、マルシアとどこか似ており、男女ともに好かれる人気者といった印象だ。


「…姉弟か?」

「いいえ、同じ年のいとこなの。」


マルシアはあっさりと答え、自分の遺跡調査チームのメンバーだとも言った。

「こんにちは。バルカ。俺はナチだよ。」


ナチと名乗った少年は、明るい笑顔を初対面のバルカに見せた。

マルシアに比べると気のキツイところはなさそうだった。


(ちょうどいい緩衝材だな。)



3日後、チーム分けが決定し、バルカ達の行先は、最も遠いトウキョウダイガクとなった。

トウキョウダイガクは、この国のかつての最高学府であった場所だ。

今で言うアカデメイアのようなところだろうかとバルカは想像した。

今までも再三、調査隊が派遣されてきた場所であるが、その敷地は広大で、未だ発掘し尽くしているとは言い難く、今回もバルカ達のチームを含めて5チームと最も多人数が派遣される。

早速、マルシアに呼び出され、アカデメイアの図書準備室で発掘調査に向けた作戦会議を開くこととなった。

マルシアは考古学研究会に所属しており、図書準備室は部室となっているらしい。

集まったメンバーには、マルシアとナチの他にも、小太りの男子生徒と童顔の男子生徒がおり、彼らも考古学研究会に所属しているそうだ。

それぞれ、カルタとブリザと名乗った。


「遺跡調査って、何が目的なんだ?」

「やだ、そんなんことも知らないで、アカデメイアに入ったの?」


バルカが、マルシアの嫌味にひるむ様子を見せないので、マルシアの方が折れた。

「まぁ、足を引っ張られたくないし、遺跡調査の期間中は、協定を結びましょう。私が知っていることで、君が同じチームのメンバーとして知っておくべきと思うことは、積極的に教えてあげるわ。」

「ああ、助かるよ。」

苦笑するバルカにマルシアは続ける。


「遺跡調査の目的は聖遺物の発掘よ。」

「聖遺物…?」

「ええ、聖遺物…それは、今よりずっと科学が進んでいた過去の遺産のことよ。医療機器であったり、実験機器や器具であったり、破損が少ないそれらを探し出すの。

そして、過去の実験データや書籍で損傷の少ないもの。これらもまた聖遺物に該当する。」

「聖遺物って…聖人ゆかりの物のことだろう。なぜ、そんな人工的なものを聖遺物と呼ぶんだ?」

マルシアは神妙な顔をした。

「我々の神の化身である巫女姫様をお救いくださる物だから…」


バルカの目が驚きで見開かれる。

「…巫女姫を…救う?」

「年々、巫女姫様の力が弱まっているという話は、バルカくんも知っているのではないか?」

カルタが、マルシアの言葉を引き取った。


「いや…俺は隔離された世界にいたから…」

バルカが、イシスの館にいた時には、勉強や作法は叩き込まれたが、外界の情報はほとんど入ってこなかった。

それは、イシスによって意図的にそうされていたように思う。

おそらく、イシスは、いずれ送り出す奴隷たちに極力、信条や思想といったものを持たせたくなかったのだろう。

カルタは、バルカの事情をとうに承知している様子で、気にせず、続ける。


「この土地に人が住むことができるのは、巫女姫様が、土地を清めてくださっているからだ。昨今は、その力が弱まり、水が不足しがちだし、作物もできにくい。それは、巫女姫様が、お隠れになさろうとしててるからだと、王様たちは考えている。」


(そんな…彼女が衰弱しているというのか…死期が近いと…?)


自分のために刺繍した制服を渡した時の彼女の顔は、死期が近い人のそれではなかった。

肌こそ陶器のように白いものの、頬は、バラのように赤く染まっていたのだ。


「聖遺物は、巫女姫様の寿命を医学的に延ばす…もしくは、その能力を研究し、代替する何かを開発するためのヒントのことなんだよ。」


(寿命を延ばす…?)


カルタの言葉にはじかれたようにバルカは顔を上げた。


「どうしたの?」

「い、いや、何でもない。」

バルカの動揺した様子に、マルシアは少し訝しんだ。


(俺は、まだ彼女のことを何も知らない。だけど、少なくともこのメンバーよりは近くにいるんだ…死期が近いと言われて納得ができるか。)


適当にやり過ごそうと考えていた学生生活だが、真剣に取り組む意義が大いにありそうだ。

この機関は、どうやら彼女にまつわることを研究する学生を育成するためのものであり、研究の補佐的な役割も果たしている。

ここで選ばれることは、彼女の真実に迫る特権を得られるということだ。


(なるほど…マルシアが出会ったときに言っていた「選ばれる」とはそういうことか。)


そこからバルカ達は、遺跡調査に与えられた5日間の調査目標やルート、持っていく食料などを決め、詳細の検討と準備をそれぞれに割り振り、進めることにした。


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