03.夢 A.D.2036
バルカが前世の記憶を夢に見ます。
タイトルに西暦を入れました。
前世の記憶は、順不同に入ってくるので、タイトルに西暦を付けることにしました。
「悪かった。悪かったから泣くな、…子」
震える小さな頭にそっと手を置く。
「っひく。」
1回しゃくり上げたかと思うと、彼女は顔を上げて、潤ませた目できゅっと睨んできた。
「……くん、何が悪いと思って謝っているの?」
さっきまでウサギのように震えていたくせに…というか、今でも目に溜めた涙がこぼれ落ちそうなくせに。
いつ何時でも理屈が通っていないと気に入らない。
そういう性格なのだ。
…正直面倒くさい。面倒くさいけれど、そんなところすらも可愛いと思えるのだから、自分は相当まいっているな、としみじみ思う。
「悪いと思ってるよ。俺はただ、お前の笑顔が見たかったんだ。まさか泣かすことになるとは思っていなかったから。」
その言葉に溜めていた涙が落ちる。
今度はダムが決壊したかのように、ボロボロと涙をこぼし、盛大にしゃくり上げる。
しまった。また泣き出した。
そして、何より泣き方に色気がない。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
俺は苦笑いしながら、小さな頭をぎゅっと抱きしめた。
長い黒髪を手でなでて、シャンプーの香りを楽しんでいると、彼女がもそもそと身じろぐ。腕の力を少し緩めると、ぷはっと顔を出した彼女に上目遣いでおねだりをされた。
「ねぇ、もう一回言って」
あざとい…。そうは思っても、心をかき乱されるのは、惚れた弱みというものだ。
動揺するまいと、顔はいたってポーカーフェイスを決め込んで。
本日2回目の一世一代の告白をする。
「好きだよ、……子。」
俺の言葉に、彼女はとっさに顔を伏せた。
耳が赤い。
そして、決心したように再びこちらを仰ぎ見る。
顔を赤らめたまま、眉を下げて、口は無理に口角を上げようとするから、なんとも言えない顔になってる。
でも、最高の笑顔だ。
この笑顔をずっと守っていきたい。守っていこう。
そう思った。
バルカは目を覚ました。
雨戸の隙間から差した光の中をホコリがフワフワと舞っている。
頬が冷たい。
(俺、泣いているのか。 )
(泣いていたのは、彼女の方だったはずなのに。)
遠くから時を告げる鐘が鳴る。
アカデメイアへ行くにはまだ早い時間だ。
バルカは上半身だけを起こしてしばらくそのまま夢を反芻していた。
でも、夢はどんどん遠のいて、次第に細部を思い出せなくなっていく。
それなのに、彼女への愛おしさはじわじわと体に染み渡っていく気がするから、不思議だ。
彼女の名前を思い出したい。
そう願ったが、肝心の記憶は霞の向こうに行ったきり、戻ってきそうになかった。
(そういえば、彼女も俺をバルカとは呼んでいなかったな。)
黒髪の少女。
どこか、巫女姫に似ている気がする。
バルカは、働かない頭で、夢の中の少女と、主人を重ねていた。