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魔王城の隣んち  作者: 八月季七日
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第三話 聖女が引越しの挨拶で持ってきた菓子が刺激的で困る

引き続き聖女視点です。

 城の中を歩くこと15分。私は城の最奥にある一際豪華な扉の前に立っていた。ここまで来るまでに何故か下男の他には一人の魔族にも合わなかった。え? これ罠じゃないの? 城に魔族が一人しかいないとは考えられない。私はすっごく不安になった。この扉の先には魔王軍が待ち伏せしているのかもしれない。


「さ、どうぞ」


 そんな私の心配を余所に下男はノックもせずに徐にドアを開いた。身構える私。その向こうには一人の男が待ち構えていた!


「遅かったじゃねぇか」


 ひらひらとこちらに向けて手を振る男性。間違いないあの方は……


「勇者様っ!!」


 まさかいきなり勇者様に出会えるとは思っていなかった! 不安な気持ちが一気に消し飛び、私は持って来ていた引越しの御挨拶用菓子折を下男に押し付けて勇者様に抱きついた。


「おっ!? おまっ!? エリカか!?」


 勇者様は驚いた様子で私の顔を見つめる。三年経っても変わらない。サラサラの金髪に整った顔立ち。どこまでも澄み渡るスカイブルーの瞳。彼こそ私が助け出そうとしていた勇者様その人だった。


「なんでこんなところに!?」

「私、勇者様を助けに参りましたの!」

「俺を助けに?」

「さぁ! 勇者様! 今すぐここを出ましょう! 何故か丁度ここには魔族がいないようです……あとはあの下男を何とかすれば!」

「下男て……あそこで菓子食って悶えてるやつのことか?」


 振りかえると下男は床に倒れ喉を押さえて苦しみもだえていた。私の持ってきた魔王暗殺用毒入り菓子折りを勝手に食べたようだ。


「ああ! 魔王用だったのに! まあいいわ、さぁ! 行きましょう!」


 勇者様は苦しみ悶えている下男を指差してゲラゲラ笑っている。もうっ! 早く逃げないといけないのに! 私が勇者様の腕を引っ張って連れ出そうと頑張っていると、下男がよろよろと立ちあがってきた。


「う、うぅ……やりやがったな小娘……」

「毒とか効くんだな」

「俺のことなんだと思ってやがんだ! 山葵と同じくらい効くわっ! ちょっとくせになったらどうすんだ!」


 何なのこいつ!? 今の毒は私が魔王用に特別に調合した猛毒。一滴で相撲レスラー1万人が殺せる程の猛毒なのよ!? いくら魔族と言っても下男風情が喰らって平然としてられる訳がない。


「流石魔王だな。胃腸も丈夫だわ」


 な!? 魔王!? この冴えない男が!? しまった! やはりこれは罠だったのね!? 私が暗殺に来たことを察知してここまでおびき寄せられたのね!? いけない! このままじゃ私『くっころ』されちゃう!!


 ※くっころ……主に女騎士がオークに捕まり辱めを受けることを指す。


「おいっ! お前っ! ふざけんなよっ! ぶっ殺すぞ!?」

「ひぃ!」


 下男改め魔王は私の方を向くと一瞬目を大きく見開き、次の瞬間には顔に明確な怒りの表情を張り付けていた。怒りを表すようにドシドシと足音を立てて私に向かって近づいてくる。


 こ、殺される!


 私は恐怖でギュッと目を瞑り、勇者様にしがみ付いた。


「DVD再生してんじゃねぇか! ちょっと玄関に行ってくるから一時停止しとけって言っただろうが! ああ! 30分も進んでる! なんで一人で続き見てんだよ!」


 ぱーどぅん?


「いや、だってお前中々帰ってこないしよ。続きが気になってさぁ。いいじゃん後でもう一回見直せば」

「後で見直せじゃねぇよ! 巻き戻せよ!」

「えぇ~、ヤダよめんどくせぇ。俺はこのまま続きが見てぇんだよ」

「ふざけんなよ! そしたら俺は内容分かんないままエンディングまで見ちまうことになんだろうが! 映画の1回目ってのは特別なんだよ! 台無しになんだろうが!」


 ええっと……彼らは何を言っているのかしら?


 私の目の前で猛烈に勇者様に怒りをぶつける魔王。理由はどうやら一緒に見ていたDVD映画を勇者様が勝手に一人で先を見ていたことらしい。まあ、気持ちはわかるかな。てゆうか勇者様ってこんな性格だったかしら?


 私は暫く二人の言い合いを見ていた。


「あの~、私引越しの荷ほどきとかあるんで今日はもう帰りますね~」

「戻せって言ってんだよ!」

「ヤダっつってんだろ!」


 二人は私を無視してリモコンの取り合いに夢中だ。


 毒も効かなかったし、今日は取り合えず帰ろう。私は魔王城を後にした。


 魔王城攻略1日目は惜しくも魔王の計略により失敗に終わった。明日はもっと強力な毒の入ったお菓子をもって来よう。


 私は決意を新たに魔王城の隣にある自宅に帰ったのだった。


どうやら聖女もお隣から通ってくるようです。

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