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魔王城の隣んち  作者: 八月季七日
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第一話 魔王城のお隣さんが毎日やってきて困る

 ここは魔王城。世界の半分を手に入れるかもしれないくらい強力な魔力を持ち、魔族を支配している絶対的な王の住処である。


 彼ら魔族は、異世界からこの世界へとやってきた。その後、あっという間にここノスト大陸ににある大国、ランス神聖王国から領土を奪って魔王国を建国したのである。

 

 これはそんな恐怖と絶望の象徴ともいえる魔王の暮らす魔王城を舞台に、人間と魔族の生存を懸けた戦いの物語である。

 




『ぴんぽーん』


 どこか間延びしたインターフォンの音が魔王城リビングにこだました。普通なら、室内側のインターフォンで応答するところだが、だいたい誰かわかるので俺は無視することにした。


『ぴんぽーん』


 懲りもせずまた鳴る。リビングのソファーに寝転がりながら、俺は週刊少年ジャンクのページをめくった。丁度今週は山族王を目指す主人公が世界の山々を踏破する漫画で標高4000メートル級の陸軍将校と対決するところなんだ。来客に対応している時間はない。


『ぴんぽん!ぴんぽん!ぴんぽん!』×100


「うるっせぇ!!」


 めちゃめちゃインターフォンを連呼してくる来客に俺はインターフォン越しに怒鳴った。


『やっと出た! おっせぇよ。遊びに来たから開けてくれぇ』

「ちっ、やだっつっても勝手に入ってくるんだろ」


 俺は城の城門開閉のスイッチを押して客を招き入れる。奴はほっておくと勝手に色々ぶち壊して侵入してくるから始末に負えない。嘘かホントか奴は民家に入って箪笥から金をパクってもお咎めがないと聞いたことがある。そんな我がままに育ったから壁とか壊して入ってくる奴になったのだろう。


「おっす! 遊びに来たぞぉ!」


15分程して客はリビングに入ってきた。サラサラの金髪に透き通るような青い瞳、整った顔立ちの長身の男。腰には大層立派な剣が下げてある。


しかし! 残念ながら恰好はグレーのヨレヨレのスウェットの上下だ。イケ面だいなし。天は二物を与えなかった。


俺が返事をする前に、その男は俺の座っているソファーに対してL字型に設置されているソファーへと腰を降ろす。


「ふぃ~いつ来てもお前んち玄関からここまで遠いよなぁ」


 当然だ。門をくぐって一番最初の部屋が魔王の部屋だったら入ってきた奴が困るわ。


「お前なぁ、毎日毎日飽きもせずに遊びに来やがってどうゆうつもりだ?」

「いいじゃねぇかお隣さんなんだし」


 こいつの家は何故か魔王城のとなりにある。


「とっとと引っ越せここは魔王国だぞ。人間の居ていい場所じゃねぇ」

「ふざけんなっ! 俺んちの横に勝手に引っ越してきたのはお前だろうが!」


 異世界からこちらの世界に来たとき、手頃な田舎に城を建てようとして地上げをしたのだが、こいつだけ立ち退かなかったために魔王城の横にこいつの家だけが取り残された。今ではここら一帯は魔王国の領土となっているのだが、こいつの家の敷地だけランス神聖王国のままだ。大使館かお前の家は。


「ランス国王から立ち退くように王命が出てただろうが」

「知るか! 何で俺があの老いぼれの言うこと聞かなきゃならないんだ!」

「いや、お前とこのトップだろうが……」


 俺は王命も無視する隣人に心底呆れる。バカな国民がいるせいでランス国王は毎年年末に豪華なお歳暮と『バカが本当にすみません』と手紙を寄こす。ランス王国からは平和的に土地を買い取って建国したわけだから、自国民が他国で不法滞在していることで大分気を使っているようだ。


「ランス国王も浮かばれんな、まぁ不法滞在はともかく毎日毎日遊びに来られると迷惑だ。てゆうかたまには働け」

「お前に言われたくないわっ!」


 そう言いながら奴はテレビに近づくと、横に置いてあるペーエス4の電源を入れた。


「あのなぁ俺は魔王様なの! ここにいるのも仕事みたいなもんなの!」

「へぇ~楽な仕事なもんで。それいったらここに来るのは勇者の仕事ってか」


 奴はペーエス4に入っていたゲームを起動する。


「好き勝手振る舞いやがって……今日はもう勘弁ならねぇ! この魔王の力を持ってお前……いやあえて言おう! 勇者! 貴様を倒す!」


 俺は立ちあがると世界を振るわせるような強力な魔力をその身に纏う。


「ふっ! やっとやる気になったか! 魔王め! 勇者である俺がお前を倒して世界に平和を取り戻してみせる!」


 突如として戦いは始まった。激しい攻防が繰り広げられる。目にもとまらぬ早業の攻防。一進一退の展開。だが魔王の凶悪な技の前に勇者は徐々に劣勢になっていく。


「くっ! 卑怯だぞ魔王!」

「ははは! 何が卑怯なものか! そろそろ止めを刺してやろう! 喰らうがいい! 我が必殺の火動拳!」


『うーわっ! うーわっ! うーわっ!』


 エコーの聞いたような断末魔の声を上げて勇者のプレイしていたキャラが吹っ飛んで倒れた。格闘ゲームだった。


「くそぉ! また負けた!」


 勇者は悔しそうにコントローラーを床に叩きつけた。


「こらっ! コントローラーが壊れるだろうっ!」

「ふざけんなよ! ハメ技からの超必とか卑怯すぎだろが!」

「バカ野郎! こういうのもテクニックなんだよ! だいたいお前は必殺技使わないで強パンチと強キックしか使わねぇじゃねぇか。それで勝とうって方が無茶だろ」


 そう、勇者は何故が必殺技を使わない。格ゲーって言ったって簡単なコマンドで発動する技もある。コマンドが憶えられないってわけでもないだろうに。

 俺がそう思っていると、憎々しげに勇者が俺の顔を睨みながら腰の聖剣を鞘から引き抜いた。神々しい光が魔王城の一室を包み込む。


「ちょっ!? お前何する気だ! 負けたからって実力行使かっ!?」

「聖剣エクシアよ! その力を解き放ち、悪しき者を滅せよ! 神聖剣技! セイクリットブレーーーーード!!」


 勇者は雄々しく叫ぶと神々しく光る聖剣を俺の目の前で振り、華麗なポーズを決めた。


「……」

「……」


 しばしの沈黙の後、勇者は聖剣を鞘に納めて、ゴホンっと咳払いを一つ。


「勇者になりたての頃かな。あのときは必殺技を技名と共に叫んで決めるのが格好いいと思ってたんだ」


 哀愁に満ちた目で遠くを見つめる勇者。恐らく何かあったんだろう。世間の目は厨二病に冷たい。黒歴史ってやつだ。


「俺は二度と必殺技は使わないと心に決めた!」


 俺は勇者の肩をポンポンと叩いてやった。


 今日も魔王城では熾烈な戦いが繰り広げられている。



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