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セスに追い付けば、ちょうど受付のお姉さんに声を掛けるところだった。人が少ない時間を利用して休憩でもしているのだろうか、他の買取の方の受付にすら人が居なかった。

 受付と言えばお姉さんだけど、荒くれ者も少なくないらしい冒険者ギルドで女の人が受付ってどうなの?と思った時期もあった。けど、こんな所で受付をする位なんだから多分この人も強いんだろうなと独りごちて解決したっけ。

そういうのもレベルを色々上げてたら分かるようになるらしいけど、まだ当分は先だろうなあ。アレとかスキルとかを使えば別なんだろうけど。


「この子の見習い登録をしたいんだけど」

「見習い登録ですね。指導者となる方の登録カードの提示をお願いします」

「はい、どーぞ」


 元々準備してあったらしいギルドカードをコトリとカウンターテーブルに置くと、受け取ったお姉さんがそれに目を通す。けれど、そこで違和感を感じておや?と首を傾げた。


「表示操作をして頂いても宜しいでしょうか」

「ハイハイ、これで良いかな」


 カウンターに置いたまま、お姉さんに見えるようにカードを二度タップした後、何度か表面をスライドさせ、始めの表示に戻して手を退けたセス。

 確か、個人の魔力認識をしたタグは本人でしか反応しないんだっけ。指紋認証とか静脈認証みたいな物だと思えばいいのかな。でもまあ、これも異世界テンプレの一つだよね。

 これを開発したのはやっぱり同胞の先駆者達で、今では冒険ギルドだけではなくて商業ギルド等でも使われているらしい。

それまで使っていたのは只の鉱物の板に、偽装され難い様な特殊な加工をしていた物を使ってたみたいだ。けど、偽装は後を絶たなかったからこれを使うようになったとか何とか。まあ、信用に関しては段違いだしね。


「確認致しますね。お名前はセス。ランクはBで宜しいでしょうか」

「合ってるよ」


セスが手を退けた後、お姉さんはタグを持って何かに翳してから一つ頷いてまたカウンターテーブルへと置いた。

 多分、カードその物は本物・・だけど、きちんと登録してある本物かどうかの確認をしたんじゃないかな。偽物を見破るためには面倒でも沢山確認するべきだって、古書にも書いてあったし。

 って言うか、それより聞き捨てならない単語を聞いた気がする。


「いつの間にBランクになってたの?」


 違和感の正体はギルドカードの色にあったみたいだ。

 いつかギルドに行くつもりだと言ったら持ってるって言うから見せて貰ったけど、その時は確かまだC+だった筈だ。

 ギルドカードの色は、ランクによって変わるのはこれも異世界のテンプレの一つだ。

 ランクは上からSSS、SS、S、AAA、AA、A、B+、B、C+、C、D+、D、E、Fとなっていて、それぞれのアルファベットで色が変わる仕組みになっている。

 Sランクは黒、Aランクは白金、Bランクは金、Cランクは銀、Dランクは銅、Eランクは鉄色でFランクは白といった風に。

 他が金属の色をしているのに対してSが黒いのはそれ以上何物にも染まらない事を、Fはまだ何物にも染まっていない事を指すらしい。確かそう古書に載ってた。

 だから、セスが今出したのは金色のカード。そりゃあ、銀色のカードとは色が違うんだから違和感があるよね。

セスという名前になってから登録したらしいから、登録してからまだそんなに経ってないけど、実力的に十分もっと上へ行けるのに、面倒だからと昇級試験を受けて来なかったのに、いつの間に試験を受けてきたんだろうか。

 主人として何でも報告しろとは言わないけど、これ位は話してくれてても良かったんじゃない?セスにとっては簡単な試験だったかも知れないけど、言ってくれてたら「おめでとう」の一言とか、ちょっとしたお祝いを考える位には難しい内容だって聞いた事があるんだけど。

 もしかして、それが嫌だったのかな。確かにセスは自分がお祝いされるような事あんまり好きじゃないみたいだったし。

 でも、知ったからには一人になれる隙を見付けて何かしようかな。この逃亡中にそんな時間があると良いんだけど。せめてB+になるまでに出来たら良いんだけどなあ。


「ついこの間にちょっとね。手軽に済ませられそうなのが有ったから、やってみたんだけど……何もしなくて良いからね?」

「何を?」

「……ウン、もう別にイイや」


 セスも私の行動パターンには慣れたもので、予測して釘を刺しに来たらしい。首を傾げてみたけれど、これで誤魔化せるとは思っていない。案の定、溜息を吐かれたし。でも、分かっているからこそ、私が考えを変えないという事もお見通しでの溜息だった。

これでお墨付き――諦められたとも言う――を貰ったも同然だ。やったね、堂々とこそこそ出来るようになったよ。

 今から何をしようか楽しみだ。セスの嫌そうな顔が見たいからとか、そんな理由からじゃないよ?ちゃんとお祝いする気持ちで一杯だよ?


「コホン。それでは、この用紙に記載されている項目を埋めて下さい」


 口元は隠してないから、隠しきれない思いが口元に現れてニヤニヤしているとお姉さんが咳払いして、意識を戻してくれた。

 まだ他に人はいないけど、ダラダラしても良い理由にはならないもんね。ごめんねお姉さん。

 でも、さっきから背伸びしてなければ見えない位、高い位置にあるカウンターでまともに書ける訳がない。

 一応、既に自分で読み書き位は出来るからと、チラッと確認した限りでは七歳が読んだり書けるような内容じゃなかった。それに、さっき指摘された、子供らしくない行動は避けた方が良いだろう。

 という事で、子供らしく、出来ない事を主張するためにセスの服を引っ張ってやった。そうしたら、何故か怒られてしまった。

子供らしく振舞ってるんだから、服を引っ張られたくらいで怒らないでよ。

え、服が伸びる?そんなに強く引っ張ってないし。ちょっと引っ張った位で伸びるような素材で出来てないじゃん。

 え、気分の問題だって?それは何とも言えないわ。取り敢えずゴメンね?

 だからほら、謝ったんだから、頭掴むの止めようよ。地味に痛いからコレ。

 まるで大きめのボールを掴むかのようにされている私の頭は、このまま指が食い込むんじゃないかと思うくらい強く掴まれている。

 ちょっと何かある度に、頬を抓るか頭を掴んで来るのいい加減に止めてくれないだろうか。

 結局、左で用紙を押さえてないと書き難いからっていう理由で放されるまでこのままだったし。解せぬ。

 服を引っ張ったら、こんなちょっとした攻防が起こってしまった。子供らしく振舞っただけなのに。解せぬ。


 必須項目なのは名前だけで、後は任意だ。事前に教えてくれたセス曰く、『呼び名に困るからであって、別に本名じゃなくて良い』らしい。そんな事を許したら複数登録して犯罪に使われたりしそうなものだけど、それはそれ、これはこれといった風に何だか複雑な事情があるらしい。犯罪に使用されたのが見つかった場合、厳罰が下るというし、今のところ私には関係ないのでどうでも良い事だ。

けれど、記載しておけば有利になる事も多いので、多くの人は殆どの項目を埋めていく。

 例えば、職業欄に得意な物を書いておけば、その職を必要としている依頼ひとが居るとギルドから斡旋が来るし。出身地を書いておけば、その土地で災害等が起こればいの一番に知らせてくれたりもする。

 他にも様々な特典があるけれど、やっぱり今の私には関係ないからと、セスは教えてくれなかった。

 私の頭を解放したセスは、バレても問題のない事実を織り交ぜながら、サラサラと嘘を書き連ねていく。いや、嘘、と言うのは言い過ぎだろうか。只、ちょっと書き足りてないだけで、嘘は一つも書いてなかったわ。

 こういうのをサラッと出来る辺り、流石だわー。と思わざるを得ない。勿論、褒めてるよ?頭の回転が速いなって。けして、嘘を吐きなれてるだけあるよね、なんて、少ししか思ってないし。

 見る見る内に、怪しまれない程度の必要最低限と思われる項目を埋めたセスはペンを置いた。

 埋められているのは半分より少ない程度、だろうか。これが平均よりも多いのか少ないのかは私には分からないけれど、やっぱりセス曰く、『書かなさ過ぎるのは如何にも“何かあります”って言ってる様なものだからね。多少頭が回る奴ならそんな事はしないんだけどね』だってさ。

だから取り敢えず少な過ぎるという事は無さそうだ。項目があると頑張ってつい全部埋めたくなる私にとっては物足りないけどね。


「これで頼むよ」

「畏まりました」


 書き終わった紙をお姉さんが受け取ると、お姉さんはそれを見ながらキーボードらしき物に打ち込んでいった。キーボードと言ってもパソコン用の物じゃなくて、タイプライターみたいなちょっとレトロな感じの見た目だったけど。

 入力する文字がそんなに多くなかったお陰か、全てを打ち終えたのであろう。お姉さんは両手に手袋を着けてボードの横にある箱のような物に手を伸ばした。

 すると、まるで何かが印刷されているかのような、ガーと言う短い音がその箱から聞こえてきた。そして音が止まったかと思えば、お姉さんの片手には白い板が乗っていた。何かが印刷されるような、と言うか、ある意味本当に印刷されていたらしい。

今まであったやり取りから考えるに、それがギルドカードなんだろうそれは白一色で出来ていた。

お姉さんはそれを小さな入れ物に入れてからカウンターテーブルの上へと置いた。


「これが、アウラ様のギルドカードになります。一番初めに触った方の魔力を登録者と認識しますので、登録をされた本人が触れるまで手を触れないようお願いいたします。そして、魔力登録が終わりましたら、登録内容をお確かめ下さい」


 取って良いのかと、セスを見上げたら頷いたのでカードに手を伸ばした。すると、触れた途端に体の中から僅かではあるけれど魔力を吸い取られる感覚がした。

 これが魔力登録かあ。魔道具を使う時みたいな物かなって思ってたけど、ちょっと違うかも。

魔道具を使う時はある程度自分の意思で魔力を流し込むんだけど、これは流し込むっていうよりも必要な量を勝手に吸い取られた感じ。

初めてのその感触は何だかちょっとむず痒かった。それも直ぐに収まったし、吸われた魔力もほんの僅かだったから別に良いんだけどね。

 カードを見れば、その表面には“アウラ”の文字だけが浮かんでいる。

 私の名前はアウローラだから、愛称でアウラと呼ばれる事が多かった。

 偽名については、呼ばれた時に自分の名前がそれだと認識出来ないと不味いからって事で愛称が使われる事になったのだ。

本当は全然別の名前にした方が良かったんだろうとは思うけど、反応出来る自信がないから仕方ないよね。

只でさえ今の名前に慣れるのにも時間がかかったのに、これ以上別の名前とか、無理だって。

登録とやらは多分これで終わったと思うから、保護者であるセスに見せているようにお姉さんに見せながら、次は内容の確認をしようと、さっきセスがやっていたようにカードの表面を二度タップしてから指を滑らせる。

 次のページはステータス欄になっているようで、種族名にレベルと職業、攻撃力や防御力、魔力量に素早等の基本的な物が数値化して載っていた。

 レベルは知らない事になっているから記入しなかったけど、さっき吸われた魔力から知られたのか、見慣れたそれが並んでいる。職業も記入しなかったから、今は只“見習い”とだけ表示されている。種族名には何故か“ヒューマン?”とクエスチョンマークが付いたままなのはスルーした。

 更に次のページは取得済スキルとそのレベルが載っていて、その更に次のページには称号なる物も記載されていた。

一番見慣れた“転生者”から、最近獲得したらしい“逃亡者”までの様々な物が。けれど、と一つのスキルに一瞬目を止める。これだけはまだ文字化けしたままだ。

 種族名といい、このスキルといい、自分自身で見る事が出来なかったからこれで見れるかと思ったんだけど、そこまで簡単じゃなかったらしい。

 という事は、鑑定スキルがバグなんじゃなくて、私自身がバグなんだろうか。それは嫌だなあと思いながらページを捲り続ける。

 当然、出身地なんか書く筈もなく空欄だ。けれど、この世界では定住していない人達から生まれた子供なんかも書かないそうなので怪しまれる心配はないらしい。

 他にもページタイトルはあるものの、空白が続くページを捲り続け、始めの“アウラ”まで戻って来た所で手を止めた。


「うん。内容に問題は無かったよ」

「それでは、新たに記入されたい所などはございませんか?」

「そうだなあ。スキルもコレといって書けそうな物はなかったし、別にいいかな」

「それでしたら、これで登録は完了となります」


 登録する事によって初めてレベルや取得スキルを知る人が殆どらしく、もう一度書き直す人は多いらしい。

 確かに今、他人ひとに知られても良いようなスキルは“コレといって無かった”ね。

 七歳くらいの子供が持っていてもおかしくないようなスキルもあるけれど、私にでさえおかしいと分かるくらいにレベルが高かったりするし。まあ、そんな馬鹿正直にレベルを書かなかったら良いだけの話なんだけど。そもそも見習い登録時にはまだ書かない人も多いらしいから書かなくても目立たないんだって。

 でも、このままにしておくと何か依頼をこなして決算をする時にするカードスキャンで全ての情報が漏れてしまうので、それが嫌な人向けに一つ一つ隠す事が出来るプライバシー保護機能も備わっているらしい。

 過去に他人には知られたくなかった称号とかスキルを取得してしまった同胞がいるんだろうなあと推測される。

 私も知られたくないモノが沢山あるから、後でセスに教えて貰わないとなあと思うと少し憂鬱だった。だって、アイツがそう素直に教えてくれる訳がないしね。


「登録はこれで完了致しましたので、最後に当冒険者ギルドの規約の指導は必要ですか?」


 規約、か。ギルド設立にもご先祖様達は関わっていたからか、例の古書の一部にギルド設立の裏話等が書かれていた。勿論、その中に規約についても書かれてはいた。けれど、もう千年以上は前の事なので、当時と現在では違う所もあるかも知れない。

 セスに聞けば済む話なんだろうけど。チラリとセスを見上げれば、いつもの笑みを返された。うん、やっぱり無しかな。だって、セスに聞いて嘘を教えられても困るしね。

 という訳で、保護者付き登録なんだから当然知っているわよね?と言わんばかりの視線は気付かなかった事にして説明してもらおうと口を開いた。


「俺が教えてあるし、別にいらないかな」


 けれどそれよりも早くセスが遮ってしまう。だから、言わせたくないなら他の方法もあるでしょう?なのにどうして頭を掴むかなあ。頭を掴む手を外そうと、その手を掴むけどビクともしない。ステータスの差が憎い。

 と言うか、『教えてあるし』って初耳なんだけど。ちゃんと教えて貰った記憶が無いんだけど。その場その場の事しか教えて貰ってない気がするんだけど、これって私の記憶違い?

 でもそれをここで言ったら話が食い違っていると、不審に思われるかも知れないと口を閉じる。


「そうですか。それではご登録ありがとうございました。アウラ様のご活躍する日を楽しみにしております」


 笑顔のお姉さんの多分、定型文なのであろう激励の言葉を貰い、私達は冒険者ギルドを後にした。





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