悪魔との邂逅
私の体が黒い光に包まれる。
気付くと燕尾服とハットに身を包み、杖を持った青年が目の前に立っていた。
彼は私を一目見るとキザな仕草で帽子を取り深く礼をした。
「お待ちしておりました、御霊様。」
頭を上げハットを被る。
「御霊様が強烈に我々の事を考えてくだすった。そのおかげで私は今、貴女様にお逢いできました。」
ーーどういう、こと?ーー
「その疑問はごもっとも!私はですね、御霊様のお望みを叶えに来て差し上げたのです。つ、ま、り、は。貴女様のお望み通り不老不死です!まーぁ、御霊様にも勿論お代は頂きますがね。赤い目の仲間同士、お安くしておきます。どうですか?」
ーー不老不死になれるの…?それなら、なりたい、なりたい!どんな代償だって払います!ーー
「流石御霊様、お話が早い。では、そうですね。1000年間、たったの1000年間でいいのです。貴女様のお側に不幸を撒いていただければ。」
ーー不幸なんて、振り撒く気がなくとも勝手に撒かれてきたわ。そんなのどうってことない。ーー
「左様ですか、それならば心が痛む心配もありますまい。それでは御霊様の人生はここからコンティニューいたします。これからの永遠、お楽しみください。あ、それからそれから、勿論私達は赤い目の貴女様の味方でございます。少々お代は頂きますがなんでもご要望お聴きいたしましょう。いつでもお呼び出しくださいませ。」
青年が消える。目の前がクラクラ廻り、気がつくと私は花に囲まれていた。
確かに彼の目も真っ赤だったな、そんなことを今さら思う。
ゆっくりと目を開け、手をつき体を持ち上げる。
その瞬間から湧き上がる悲鳴。
気付いた人があげた悲鳴で他の人もどんどん気付く。
「不幸の案内人め!」「死んだなんて嘘だったか!」「赤い目だから不吉なんだわ!」
様々な声が私を罵る。
ぼうっとしていたら頭を引っ叩かれた。
ーー…おかあさん…ーー
「あんたは死んだのよ!確実に!ほら!もう1回死になさい!あんたなんかの為に高い金払って葬式までやってあげてんのよ、それに報いなさい!」
そう言って、私の首を絞める。だんだん目の前が暗くなり、また落ちた。
そして、また目が醒める。
私はおかあさんの足元に居た。私を見たおかあさんの目に恐怖が宿る。
ーーおかあさん、私、もう死なないよ。ーー
起き上がり歩き出す。
すべての人たちが動きを止め、息まで止まっているようだった。
静かなそこで私だけが動き、息をする。
出口まで来て後ろを振り返る。
ーーこの街に、この街の人々に、禍あれ。ーー
楽しくなり、少し笑ってしまった。
あはは、あはは。
私の笑い声だけが響く。笑うなんて、彼女が居た時にしか経験したことなかったのに。
そうして楽しい気分のまま式場を後にする。
楽しいことが沢山あればいいな。
きっと沢山あるよね、だって永遠だもの。