はじまり
彼女は独りだった。
いろんな街を見てみたい。いろんな人と会ってみたい。いろんな世界を見てみたい。いろんな時代を見てみたい。
その願いを叶える為には何年生きればいいのだろう?何個の命があればいいのだろう?
覚えている限り私の望むものはただひとつ、不老不死だった。他のものを望んだこともなかった。全てのものは死んだら失ってしまう。友達や恋人なんて、ひょっとしたら自分よりずっと早く死んで居なくなってしまうかもしれない。そんな不確かなものの為にいちいち悲しむなんて不利益なことはしたくない。
私の住む街では赤い目を持つものは不幸の案内人として恐れられ、忌み嫌われた。私の目は赤かった。
友達なんてものは作ろうとしても逃げられた。唯一普通に話してくれた優しい目をした彼女は、夏休みに海へ遊びに行って波に拐われ二度と戻って来なかった。
夏休みが終わる頃には街中の人が彼女の死を知っていた。私と彼女が話していたことも広まった。街中の人が、彼女は私の案内した不幸に連れ去られたんだと言った。死体すら出なかったのがその最たる証拠だと、彼女の体が探されることもなくなった。
夏休みが終わっていじめが始まった。傷がない日なんてなく、血が出ない日なんてなかった。大人に助けを求めても赤い目をした私を見ることすらしなかった。
私にとって両親とは仲の悪い人達のことで、私の存在は彼らにとっても不幸の案内人だったようだから法律が人を殺しても誰も罰しないよ、なんて言ったら喜んで私を殺すだろう。
彼らは傷だらけの私を見て微笑んだ。彼らは不満や怒りを私の体にぶつけるようになった。
私が16歳だったある日、血を吐いて倒れた。医師から不治の病だと、命は長くないと告げられた。
きっと神様が、赤い目の私は生きていちゃいけないと言っているんだろう。不老不死なんて、諦めていた。
遂にその時はやってきた。
今までにない苦しみが体を貫いた。
死にたくない、嫌だ、まだ生きたい…!
生存本能が命の危機を叫ぶ。
頭と心が拒否反応を起こした。
神様が死ねと言うならば、私は悪魔に願う。
生かしてくれ、出来ることなら不老不死を!
その時、奇跡が起きた。