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転生と初めての対魔戦闘

 リクが再び目を覚ますと、何も無い荒野に放り出されていた。

 写真で見たアメリカのグレートキャニオンのような赤い大地は、巨大な岩の壁が立ち並んでいる。


「リクよ。目を覚ましたかの?」

「君はさっきの? というかここは?」

「紅葉じゃ。我の名は紅葉」


 少女の声に振り向くと、先ほど刀から現れた少女と全く同じ姿、同じ声をした女の子がいた。

 身長はリクより頭一個分ぐらい低い。

 ロリ体型のくせにど派手な和装と古めかしい紅葉の口調に、俺はすごいギャップを感じて呆けてしまった。


「リク、背が高い。急いでしゃがむのじゃ」

「へ?」

「いいから、しゃがむ。それぐらい力が無い今でも出来るはずであろう? じゃないと、せっかく転生した君を世界が殺すぞ?」


 小さい癖に紅葉の態度は尊大だった。

 なじられるような紅葉の声で俺は少しムッとしながらしゃがむと、いきなり紅葉の唇で口を塞がれた。

 口の中に火を入れられたような熱さが襲ってくる。

 俺の初キッスの味は永遠に忘れられそうに無い激辛で刺激的な味だった。


「ぷはっ!? 紅葉!? あれ? 消えた」

「リクの中におるよ」


 リクの頭の中に紅葉の声がこだまする。

 そして、気付けば腰には漆黒の刀の鞘が刺さっていた。


「リク、集中しておけ。しないと死ぬ」

「へ?」

「前、来るぞ」


 紅葉の声で俺も前に注意を向けると、確かに何かの群れが土煙を巻き上げながら走ってきている。


「エサ! 人間! エサ!」

「んなっ!? ゴブリン!? え!?」


 そう言うしかない子鬼のような生物二十匹が、一瞬で俺の周りを囲んだ。

 は虫類のように粗い灰色の肌、細い脚で二足歩行をして、手には剣や斧やハンマーを装備している。

 そして、ぎょろっとしたでかい目が、俺を睨み付けていた。

 エサって俺のことか?


「リクよ。戦え。さもなければ君は死ぬ。近くの村も襲われる。ふむ、君の頭の中にある言葉だと……これが君の正義のヒーローの第一歩だから、死なないようにがんばれ」

「キャラ変わりすぎ!?」


 たまらず頭の中の声にツッコミを入れていると、紅葉の手が添えられたように、自分の手が刀の柄の上に勝手に乗せられた。

 刀を握りしめた手が熱い。

 その熱が自分の力を教えてくれる。

 紅葉が頭にいるからだろうか。何をすれば良いのかが手に取るように分かった。

 全てを断ち切れ。

 そう紅葉の声が頭の中で響いた気がした。


「キエエエエ!」


 奇声をあげながら一匹の剣を持ったゴブリンが正面から襲ってくる。

 俺は身体の中からわき上がる衝動に身を任せ、右足を前に一歩踏み出す。


「断ち切れ! 紅葉!」


 そして、ゴブリンの奇声に負けないほどのかけ声で俺は刀を一気に振り抜いた。

 漫画で見た居合い抜きを見よう見まねでやってみると、ゴブリンの身体が真っ二つに裂け、地面に落ちた。

 真っ赤な刀身についたゴブリンの緑色の血は、まるで刀に吸われるかのように消えていく。


「やっぱりゴブリンはあまり美味くはないな。リクよ。残りも頑張ってパパッと切り伏せるのじゃ!」

「あぁ、やってやるさ!」


 今度は俺からゴブリンに向かって飛び込み、真っ直ぐ突きを放った。

 そして、俺はゴブリンの肩を貫くと、そのまま、隣にいるゴブリンに向けて刃を振り抜いた。

 連続攻撃でバラバラになったゴブリンの身体が散っていく。


「すごい! 体がメチャクチャ速く動くし、敵も簡単にぶった切れる! ゲームの主人公みたいだ! この力があれば俺も誰かを助けられるヒーローになれる!」

「そうじゃ。それで良い。君が得た力は、全てを断ち切るための素早さと敵の動きが遅く見えるほどの目だ!」


 俺はそのまま残りのゴブリン達も一掃すると、赤い大地に静寂が戻った。

 刀は刃こぼれも無ければ、血糊によって切れ味が鈍ることもない。

 全ての一撃が必殺の刃だった。


「よし、倒した。紅葉、そろそろ説明してもらってもいいか?」

「うむ、いいだろう。試験は合格じゃ」


 頭にいる紅葉に声をかけると、あっさりと返事が返ってくる。

 そして、手の中の刀が消えると同時に、目の前に紅葉が現れた。

 当たり前のようにそこに居たかのような態度で、紅葉は胸元で腕を組んでいる。


「リク、汝は今まで住んでいた世界とは、違う世界に転生した」

「あぁ、さすがにあんなファンタジーな生き物は今まで見たことが無い。そして、紅葉、君みたいな人と同化する刀もな」


 願った通りの力を得た俺は、異世界転生をしていると言われても驚かなかった。

 俺の死ぬ間際の望みが叶えられたのだ。

 今度こそ理想の自分になれる力が手に入ったと思えば、嬉しさすら感じる。


「この世界には人と同化して成長する武器が存在する。名をグロウウィル。我はその一つ、刀のグロウウィル、紅葉じゃ」

「そうなると、刀以外もありそうだけど?」

「おるぞ。大槌、槍、手甲、斧、弓、杖のように色々とな」

「なるほど。魔物もいれば、武器が意志を持つ世界か」

「汝の頭の中の言葉を借りるのなら、敵を倒して成長する剣ということも覚えおくが良い。敵を倒せば倒すほど、我と繋がっている汝は強くなる」

「力が欲しければ敵を倒せか。ゲームみたいで分かりやすいよ」


 紅葉の説明を聞けば聞くほど、俺はワクワクしていた。

 魔物を倒せば力がつく。

 誰かを助けることでより、ヒーローとして輝ける世界だ。

 この世界でなら俺は誰かを救える強い自分になれる。そう思えた。


「ふむ。此度の転生者は聞き分けが良くて驚く」

「ん? その言い方、俺以外にも転生した人間がいるのか?」

「あぁ、そやつも黒い髪に琥珀色の瞳じゃったな」


 紅葉の言葉で俺はまさかと思った。

 玲がこの世界へ先に来た?

 普通に考えればあり得ない。だが、俺も玲と同じ場所でトラックにひかれて転生した。

 十日も死体が見つからないことを考えれば、十分に考えられることだ。


「そいつの名前、戸山玲じゃなかったか!? 女の子の!?」

「これ以上は知らぬ。いや、例え知っておったとしても教えられない。でも、同じ運命を背負った者同士じゃ。見つける方法だけは教えよう」

「教えてくれ! どこにいけばそいつに会える!?」


 俺は玲をいじめから守れず、彼女を見殺しにしてしまったことを謝らないといけない。

 もし、まだ彼女に俺の記憶があるというのなら、今度こそ俺が彼女を守りきってみせる。


「強くなることだ。我らグロウウィルを持つ者は、戦神協会に必ずその身を預ける。そして、己の強さを賭けて、互いの力を奪い合う。強さを求める中で必ず会えるだろう」

「戦神協会?」

「ついてくるが良い」


 そう言って身を翻して荒野を行く紅葉に、俺はついていった。

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