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C.D.V-M.R|O  作者: フーデリッヒ・シュタイナー
CAPUT I : Initium dilectionis
6/12

Desperatio et determinatio

「お前、本気で言ってる訳じゃないよな…?」

「いや、それはだから、ほら…」

「今からでも私たちが拒否すればまだ別の道を選べるんだよな?」

「それは…そうだけど。」


 家へ帰ってから両親にその話をすると猛反対を受けた。

 父親から浴びせられる罵声と母親から向けられる非難の視線で家の中は混沌としていた。

 当然厳しい言葉の数々は私の身を案じての事であるのは分かっている。だがどうしても私はそれに反抗せずにはいられないのだ。決意を固めたからには簡単に曲がる訳にはいかない。

 しかし両親とも国防軍となると反抗したくなるその気持ちも分からないでもない。

 数多の死線を掻い潜って死の淵に立たされた事もそう少なくないであろう私の両親が、自分の息子を好き好んで自分達と同じ危険な境地に投げ込もうだなんて思うはずがない。

 もしも立場が逆ならば私はきっと反対している。だが、私はそれでも交渉、というよりは単なる言い合いをやめる気にはならなかった。

 しばらくして、父親が黙り込んだ。

 目を瞑り、大きな溜め息を一つつく。その後で目を見開いて私を見据えて口を開いた。


「分かった。」


 まるで自分が死ぬことが決まったような、恐怖に震えた声だった。

 その瞳には哀れみの色が浮かび、そして間違いなくその視線は私を貫いていた。


「そう…分かってくれたんだ…」


 私は安堵の溜め息をつき、肩の力を抜いた。とにかく父親が分かったと言うならば大丈夫だろう。私は折れなかった。達成感に包まれる。


「もうお前は…」

 父親の囁くような声。


「うちの子じゃない。」


 吐き出されたすぐ後には空気中を浮き漂うような、しかし確かに発音された言葉。

 間違いない。今私の父親は、私が両親の子ではないと、そう言った。養子だったのだろうか。しかし何故今そんな事を突然言い出すのか。私には理解できなかった。

「聞こえなかったのか。荷物をまとめて出ていけ。今日のうちは待ってやる。」

 静かに怒る父の瞳が私をしっかりと捉えている。


「な、何言って…」

「いいからとっとと出ていけ!俺たちはもう関係ない!」


 私の言葉を遮って父親が叫ぶ。そうか、そっちがその気なら。


「いいさ!望むところだ!こんなところ一刻も早く出ていってやるよ!」


 私は何一つ持たずに制服のまま勢いよく玄関の扉を蹴って家を飛び出した。

 外は完全に陽が落ちてすっかり暗くなり、闇に包まれた街は所々に点々とある街灯と朧気な月光がなくなれば完全に消えてしまうのではないかというくらい脆く見えた。

 行く宛などあるわけもない。とにかく私の勘は東へ向かえと言う。

 私は延々と続く闇のなか、街灯と街灯の間では自分の姿が見えなくなる恐怖と戦いながらも東へと歩いた。

 時折住宅があって人の話し声がしたりすると気のせいか安心するものだった。

 しばらく歩いて、私は自分の身体が震えている事に気づいた。既に道は途切れ、私は森の中へ歩みを進めたところであった。

 ここまで来ると月光以外で私を、私のいる世界を照らしてくれるものはない。

 普段は夜闇に飲まれて消えそうな月光が、今日はやけに頼りに感じた。

 だが、時が経つにつれて私の体温はどんどん下がってゆく。寒い。

 時刻は2時をまわっただろうか。学校で昼を取って以来何も口にしていない事に気づいた途端に私は空腹感に襲われる。

 おそらくこのままでは体温の低下は酷くなる一方であろう。だが今の私にそれを解決できる手はなく、仕方なく草木を掻き分けながら東へと歩みを進める。

 だが、ついに私にも限界がやってきた。“死”というものであろうか、弱々しくも確かに地面を踏んでこちらへと近づいてくる足音が聴こえる。

 だが振り返っても人はいないし、辺りを見回したところであるのは無造作に生い茂った背の高い草と木と、それを覆うように存在する闇のみだ。人の気配はない。

 頭に血液を送る為に身体は更に冷たくなる。

 全身に血液が行き届いていない感覚。

 手足の先から消えてゆくような、そんな感じがした。

 足取りが覚束無くなる。ふらふらと、宙に浮いたような足取りで、少しずつ東へと進む。

 徐々に視界がぼやけて来て、頭が左右に振られる。

 何度か足が絡まって転びそうになる。一歩を踏み出す為に自分の命を削っているのが痛感できた。

 いくら秋とは言えどここは極寒の地だ。気温は氷点下に到達しているであろう。

 私は自分の死を覚悟した。こんな情けないのに、私は両親の承諾を得たとして、果たして軍隊で職務を全うできたであろうか。恐らくその答えは否だ。ならばこれでよかったのかもしれない。志半ばで挫折して、人生に絶望するよりかは。

 そんな事を思ったが、すぐにその考えは私自身によって否定された。


「これだって、一緒じゃないか」


 私は今、志半ばで死を迎え入れようとしている。他に道がないのだから仕方がない、そんな言い訳は通用するはずもなかった。

 そうだ、私は決めたじゃないか。彼女を守ってみせると。それがこんなところで死んでたまるものか。

 しかしそれでも私の体力はほぼ失われて、身体が言う事を聞かない。

 何とか森を抜けて公道へ出た所で視界が暗転する。

 少しの間天地が一緒くたになって、そして後頭部に鈍痛が走る。

 次第に遠ざかる意識、私はその時、彼女の顔を思い浮かべていた。

 薄れゆく意識の中、一台の車が急ブレーキを掛ける音が聞こえた。気付いてもらえたのか、どうだろうか。

 そんな事を考えているうちに、私の意識は闇へと沈んだ―

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