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Demonic Days  作者: 白川脩
22/22

最終話


最終話

"始まりの終わり"


和宮町から少し離れた場所にある、多くの水田に囲まれた道。


茜が運転しているトラックは、その道を走っていた。


「茜」


ずっと隣で黙っていた風香に突然名前を呼ばれ、茜は少し反応が遅れる。


「…なーに?」


「あの患者の事、説明してよ」


風香の言葉を聞いて、後ろの3人も茜に視線を移した。


「…あの患者はね、合同庁舎で山口のじいさんを殺した張本人よ」


「…え?」


茜は話を続ける。


「合同庁舎に居た時、有紀奈と2人で10階を探索していた時に会ったの」


「私達が屋上に居た時…ですか?」


「えぇ、そうよ」


茜は美咲の質問に頷いた後、少し間を開けて、その時の事を思い出しながら、再び話し始めた。


「…確か、巨大生物と戦ってたの。1番目のね。それで、その時巨大生物の体に切創がある事に気付いて、もしかしたらこいつらは敵同士なんじゃないか、って思ったのよ」


「敵同士…?」


瑞希が呟く。


「例えば、盲目の患者。奴は他の患者を殺して捕食してたでしょ?つまり、奴等には仲間意識っていう物が無いのよ。例外はあるけどね」


「例外…巨大生物の事?」


風香が窓の外を見つめたまま訊く。


「その通り。森林地帯で最後に戦っていた時、巨大生物は集まってくる患者には1回も手を出さなかったからね。恐らく、利用出来ると踏んでの判断だったのだと思うわ」


茜がそう答えると、続けて晴香が質問した。


「でも、仲間を認識できない患者の方が巨大生物に手を出さなかったのは、どういう事だったんですか?」


「…本能じゃないかしら?」


「本能…ですか?」


「患者は、"巨大生物には勝てない"と本能でわかっていたから手を出さなかった…って所じゃない?」


茜自身もその謎の真意は不明らしく、疑問形でそう答えた。


それを聞いた晴香は、緑木公園にて有紀奈に、"何故、患者は人間に攻撃してくるのか"と聞いた時の事を思い出す。


「(そういえば有紀奈さんも、患者の防衛本能の事、言ってたっけ)」


「他に質問はあるかしら?」


茜が4人に訊くと、風香が口を開いた。


「あの患者は、どうして私達を助けてくれたの?」


「あぁ、その事なんだけど、合同庁舎の件には続きがあるのよ」


「続き?」


「そう。さっき言ったけど、その患者と巨大生物を戦わせてみる事にしたら、見事に成功してね。巨大生物は動かなくなったわ」


静かに茜の話を聞く4人。


「それで、残った患者を倒そうとした時、ちょっと不思議な事が起きたの」


「…もったいぶらないでよ」


急かす風香に、茜は笑いかけた後、話を続けた。


「うふふ…。その患者が私達に向かって、"ごめんなさい"って言ったのよ」


「…ごめんなさい?」


耳を疑う美咲。


他の3人も、同じ反応だった。


「私と有紀奈も信じられなかったわ。でも、そいつは私達に手を出さずに、そのままどっか行っちゃったのよ」


「待ってください。その患者、おじさんを殺した事を謝ったんですか?」


瑞希の質問に、茜は曖昧に頷く。


「恐らくね。信じがたいけど、あの患者にはまだ人間としての意識があったのかもしれないわ」


「だとしたら、おかしくない?」


「え?」


茜が驚いて、風香を見る。


「だって、その患者に意識があるとしたら、まずおじさんを殺すことは無いでしょ」


「うーん…そう言われてみれば、そうよね…」


すると、静かに話を聞いていた晴香が、呟くようにこう言った。


「罪滅ぼし…ですかね?」


「罪滅ぼし…か。…そうかもしれないわね」


笑顔でそう言った茜を、風香が見つめる。


「…何で笑ってんの?」


「私とあの患者、似たもの同士だったんだって思ってね…」


「似たもの同士?」


「あの患者は山口のじいさんを殺した事への罪滅ぼし。私は1つの街と大勢の命を奪った事への罪滅ぼし。やってる事は同じ"償い"よ。…まぁ、私の場合は一生かかっても償えないけど…」


それを聞いて、静まる4人。


しかし、すぐに風香がその沈黙を破った。


「あんたが居なかったら、私は死んでた。恐らく、お姉ちゃんも美咲も瑞希も、もしかしたら速水さんも、みんな死んでた」


風香は病院で手に入れた母親の携帯を取り出し、話を続ける。


「…そりゃ、あんたのやった事は許されないけどね。でも、もう十分罪滅ぼしはしたんじゃないかな。少なくとも、私はあんたに感謝してる」


「…ありがとう」


茜の一言を最後に、5人の会話は終わった。


それからしばらくすると、風香、美咲、瑞希の3人が寝息を立て始め、起きているのは運転している茜と、窓の外を眺めている晴香だけになった。


「眠くないの?」


晴香が起きている事に気付いた茜が、彼女にそう 訊く。


「眠いはずなんですけど、何か寝付けなくて…」


「まぁ、さっきまで生きるか死ぬかの状況だったからね」


「あはは…」


苦笑いをする晴香。


それと同時に、茜に聞きたかった事を思い出した。


「あの、茜さん」


「何かしら?」


「D細菌の製作に関わった理由…教えてくれませんか…?」


「ん…」


予想外の質問に、面食らう茜。


「…そういえば、脱出した後に教えるって言ったっけ。…良いわよ、教えてあげる」


茜は少し間をあけた後、ゆっくりと話し始めた。


「もう6年になるわね。始まりは両親を亡くした時だったかしら」


「…事故ですか?」


「母はね。父は病気。私には養ってくれる人が居なかったから、1人暮らしを余儀なくされたわ。当然、高校に行くお金なんて無かったから、自主退学するしか無かった」


それを聞いて、驚く晴香。


「茜さんって、高校中退なんですか…?」


「驚いた?」


「かなり…」


茜は晴香の反応を見て、笑いながら話を続けた。


「うふふ。それから、やる事もなくその日暮らしの生活を送っていた時、あいつ…明美に会ったのよ」


「明美さんに…」


「えぇ。前に言った通り、その頃にはもうそれなりの武術を習得していたから、今思えば、その点を買われたのかもしれないわね。奴は私を拾ってくれたの」


そのまま話を続ける茜。


「最初は銃器の製造とかを任されたわ。その時にはまだ、罪悪感とかは無かったっけ。とにかく拾ってくれた事に感謝してたからね」


「その時にはまだ…ですか?」


「拾われてしばらく…確か、半年くらいね。私が作った銃を買った男が、ある一家を惨殺するっていう事件が起きたの」


それを聞いて、無言になる晴香。


「その事件を知って、自分のやってる事を改めて自覚したわ。…少しずつ、組織に嫌悪感を抱くようになったの」


「嫌悪感…」


「それでも拾われた恩ってのがあるし、しばらくは我慢してその仕事をこなしていたわ。…でもね、今年に入って、とうとう我慢の限界が来ちゃったのよね。独断で組織を抜けたの」


「そうだったんですか…」


茜はそれで話を終えようとしたが、晴香は質問を変えて話を続けた。


「もう1つ、良いですか?」


「いいわよ」


「茜さんは、どうして和宮町に来たんですか?」


「それはね…」


茜が話を始めようとした時、助手席で寝ていた風香が、突然大きな欠伸と共に目を覚ました。


「あら、随分と早いお目覚めね」


「うるさくて起きちゃったの」


「それは失礼」


「…話、続けてよ」


風香は途中から2人の会話を聞いていたらしく、話の続きを聞きたがる。


すると、茜は風香を見てこう言った。


「あなたには話さなかったっけ?」


「そうだっけ?」


「そうよ」


「じゃあ改めてって事で」


「はいはい…」


茜は視線を正面に戻して、話し始める。


「私がこの町に来た日は、今回の騒動が起きる前日…2日前ね。理由は明美達が作った兵器、D細菌が取引に使われたって事を知ったからよ」


「端から明美さんの邪魔をするつもりで来たの?」


「阻止…って言って欲しいわね」


風香の質問に、少し不機嫌そうに答える茜。


「…ま、結局何も出来なかったんだけど」


そう言った後、茜は続けてこう呟いた。


「何も…出来なかった…」


それを聞いた風香が、ある事を思い出す。


「茜。合同庁舎に行く前、"少女1人さえ守れなかった"って言ってたよね。何があったの?」


茜はその事を思い出したくないらしく、苦笑しながら話を始めた。


「…記憶力良いのね。あなたと病院の前で会う前の事よ。緑木公園って場所で、逃げ遅れた少女を見つけたの。丁度、風香ちゃんと同じくらいの子だったかしら」


「緑木公園で?」


「えぇ。その子、友達と一緒に居たらしいんだけど、患者から逃げている時にはぐれちゃったらしくて、1人で遊具の上に避難してたの。それで、私が周りの患者を殲滅したんだけど…」


茜の声が暗くなる。


「…その子は隠れてた患者に首を噛まれちゃったの」


話を聞いている2人は、何と言っていいのかわからずに、押し黙っていた。


「私は正直に、感染の事を話したわ。…嘘なんかつけなかった。そしたら彼女はね、優しく笑いながら"ありがとう"って言ったの」


「ありがとう…?」


晴香が呟く。


「うん…。あの子、1人きりで相当寂しかったんだと思う。…私と会った時の彼女の笑顔、今だにハッキリと覚えてるわ」


「その子、死んじゃったの…?」


風香が訊くと、茜は首を横に振りながら答えた。


「わからないわ…」


「わからない…?」


「あの子は私に、"逃げてください"って言ったの。…私はどうする事も出来なかった。彼女を遊具の上に運んで、言われた通り公園を去ったわ」


ふと、風香が茜を見てみると、彼女の目元には涙が溜まっていた。


「私はあの子を見捨てたのよ…。気の利いた言葉の1つもかけてあげられなかった…」


「…ごめん。変な事思い出させて」


「…いえ、良いのよ」


涙を拭う茜。


「(その少女って…)」


晴香には心当たりがあったが、口には出さなかった。


また、風香もその少女に心当たりがあるらしく、茜から目を逸らすように窓の外を見て黙り込む。


そして、何となく景色に視線を配りながら、呟くようにこう言った。


「…少なくともその子、最期は1人じゃなかったと思うよ」


「…どうしてわかるの?」


「…勘だよ」


風香は嘘をつく。


「…そう」


会話はそこで終わり、車内に長い沈黙が訪れた。


しばらく続いた気まずい空気を、晴香が破る。


「そういえば茜さん、道はわかるんですか?」


「そういえばわからないわね…」


「美咲を起こしますか?」


「いえ、寝かせてあげましょう」


茜はそう言って無線機を取り出す。


連絡先は有紀奈だった。


「応答を願うわ」


『全員、無事ね?』


「当然よ。道を教えてもらえる?」


『美咲ちゃんか瑞希ちゃんに訊けばいいじゃない』


「寝ちゃったのよ」


『なるほど…』


その後の有紀奈の話によると、部隊の本部は今居る場所から10分程で着く場所にあった。


無線機をしまって、起きている晴香にその事を教える。


風香は再び眠りについていた。


「あと10分ですか?」


「えぇ。やっと、落ち着けるわね」


茜は少し間を開けた後、晴香にこんな事を訊いた。


「…これから、どうするの?」


「え?」


「これからよ。学校に行くの?」


すると、晴香は少し考える素振りを見せた後、静かに答えた。


「学校に行くのは…止めようと思います」


「あら、どうして?」


どこか嬉しそうに訊く茜。


「私、茜さんのお話を聞いて、生きて帰れたらやりたい事をやりたいなって思ってたんです」


「やりたい事?」


「実は、パン屋でバイトをしてみたかったんです…」


晴香が恥ずかしそうにそう言うと、茜は優しく微笑んだ。


「女の子らしいわね。あなたが看板娘なら、その店は大繁盛間違いなしよ」


「えへへ…」


嬉しそうに笑う晴香。


「…でも、あんな事言ったけど正直な話、人の倍以上は苦労する事になるわよ?」


「私は、覚悟の上で言ってます」


バックミラーに映っている晴香の顔を見て、茜は安心したように笑った。


「…そう。四の五の言うつもりは無いわ。応援してあげる」


「ありがとうございます!」


有紀奈が待つ本部へと走り続けるトラック。


こうして、悪魔に取り憑かれたような日々は幕を閉じた。


「…ちなみにその店、おさわりOK?」


「そういうお店じゃないです!」



翌日…


「風香!いい加減起きなさい!」


部隊の本部の中にある1つの部屋から、晴香の怒鳴り声が響く。


「…まだ12時じゃん」


風香は面倒臭そうに顔を上げて時計を見る。


「もう12時でしょ!」


「いいじゃん別に。予定無いし、寝かせてよ」


あの騒動から無事生還した6人。


彼女達は部隊の本部に用意された部屋で、しばらくの間過ごす事になった。


とはいえ、有紀奈だけは元から部隊の人間なので何も変わらない。


そんな有紀奈が、風香の部屋に入ってきた。


「…今、お目覚めかしら?」


「速水さん、おはようございます」


「こんにちは…が正しい時間よ」


「あ、そっか。…ご飯は?」


「…今作ってるよ」


溜め息混じりにそう答える晴香。


風香はそれを聞いて立ち上がり、大きな欠伸をしながら部屋を出た。


「じゃあシャワー浴びてくる」


同時に部屋を出て、風香の後ろ姿を見て苦笑いする有紀奈。


「何というか、自由な子ね…」


「お恥ずかしい限りです…」



調理室…


「美咲ちゃん、この塩を少し鍋に入れてもらえる?」


「…これ砂糖です」


「あら…」


美咲と瑞希、茜の3人は、調理室にて昼食の準備をしていた。


そこに、優子がやってくる。


「いい匂いね」


「そろそろ出来るわよ」


茜の言葉を聞いて、火にかかっている鍋の中を覗きこむ優子。


「シチューかしら?」


「あら、もしかして嫌い?」


「大好きよ」


「それは良かったわ」


すると、瑞希が頭に巻いている三角巾を外しながら、優子に訊いた。


「あの、この部隊って、女性は速水さんと中原さんだけなんですか?」


「他にも沢山居るわよ?でも、有紀奈以外の女性隊員は私みたいにオペレーターとか、食事の調理関連に就いているから、銃を持って戦うのは彼女だけね」


「速水さんだけ…なんですか?」


「えぇ。本人が希望したのよ」


それを聞いた茜が、笑いを堪えながら呟く。


「彼女のエプロン姿…想像しただけで笑えてくるわね…」


「それは一体どういう意味かしら?」


いつの間にか背後に居た有紀奈が、茜を鬼のような形相で睨みながらそう言った。


「あ、あら…いつの間に…」


「答えなさいよ」


「深い意味は無いわ…」


「………」


「わ、悪かったわよ…」


その後、食堂に人数分の食事が並べられ、シャワーを浴び終わった風香もやってきた。


「…え、昼からシチュー?」


「いいじゃない。自信作よ?」


「まぁいいけどさ…」


そう言って、何となく茜の隣に座る風香。


「…デレたの?」


「は?」


食事が始まり、茜の作ったシチューの味に感嘆する一同。


「おいしいです!茜さん!」


「うふふ、ありがとう晴香ちゃん。でも、あなたの方がおいし…」


茜が言い切る前に、彼女の足を風香が踏みつけた。


「いたたたたっ!」


「…そのキャラそろそろ止めたら?」


「キャラじゃないわ。マジよ」


「………」


「にしても意外ね。料理が得意だったなんて。ちょっと見直したわ」


「私も驚きましたよ!手付き、凄かったです!」


有紀奈とその隣に座る美咲が茜にそう言うと、彼女は嬉しそうに笑って見せた。


「元々料理が好きだったの。誰かに振る舞ったのは、今回が初めてなんだけどね」


「自己満足ってやつ?」


風香が嫌味っぽく訊くと、茜は首を傾げながら答えた。


「だって、友人に振る舞おうとすると、"何か睡眠薬とか入ってそう"とか言って食べてくれないんだもの。失礼しちゃうわ」


「凄くわかるな、その人の言ってる事」


「どういう事?」


そう訊いてきたのは、茜の本性を知らない優子。


「こいつ、ガチの同性愛者なんです」


風香が茜を指差しながら教えると、優子は引きつった笑顔を作った。


「あ、あはは…そうなんだ…」


「こら風香ちゃん。間違った事を教えちゃダメじゃない。私はただ美少女が好きなだけよ」


「私、間違った事何も言ってないけど」


そんな傍ら、暗い表情でシチューを見つめている人物が1人居た。


「…瑞希ちゃん?」


有紀奈がその様子に気付き、話し掛ける。


「………」


「瑞希ちゃーん」


「…は、はい!?」


「食べないの?」


すると、瑞希の顔が見る見るうちに真っ赤になっていった。


「に…にんじんが…」


「にんじん?」


「食べられないんです…」


「………」


笑いを堪える有紀奈。


何とか吹き出すのを耐え抜き、瑞希に微笑みかけた。


「それじゃあ端に寄せておいて。私が食べてあげるから」


「あ、ありがとうございます!」


そんな2人のやりとりをこっそりと見ていた風香と茜。


「…何か食べてほしい物は?」


茜が訊くと、風香は恥ずかしそうに小声で答えた。


「…たまねぎ」


「(可愛い…)」



食事が終わり、有紀奈と優子が仕事に戻る。


「それじゃ、私達は戻るわね」


「じゃあね~」


それに続くように、美咲と風香も立ち上がった。


「私達は、冴島さんとおじさんのお墓に行ってくるね」


「お供えする約束しちゃったから、行くしかないか…」


瑞希と茜も立ち上がる。


「それじゃあ、みんなでお散歩にでも行きませんか?」


「それはデートのお誘いね?もちろん行くわ」


ただ1人、椅子に座ったままの晴香。


「私はちょっと休んでるね。2人で行ってきなよ」


それを聞いた瑞希が何か言おうとしたが、茜が遮るように彼女の腕を掴んで食堂を出た。


「さぁどこに行きたい?個人的にあなたの水着姿が見たいわね」


「プールの季節はまだ遠いです!」


遠退いていく2人の声。


食堂には、晴香1人だけが残った。


「茜さん、私が1人になりたかった事、見抜いてくれたのかな…?」


他に誰も居ない食堂で、晴香が呟く。


「高校…どうしようかな…」


そう言いつつも、彼女は既に自分の歩む道を決めていた。


「ま、行かないけど」



一方…


美咲と風香は、それぞれ達也と武司に渡された物を持って、2人の墓の前に居た。


達也のハンドガンを、美咲が静かに置く。


「冴島さん、何とか生きて帰れました…」


その隣で、ショットガンを手放さずに武司の墓を見つめる風香。


「おじさん。これ、やっぱり貰ってもいいかな」


返事が返ってこないことは百も承知。


それでも2人は、今は亡き達也と武司に語りかけた。


「ありがとうございました…」


「安らかに…」


その後風香は別の墓の前に立ち、ゆっくりと手を合わせる。


そして、目を閉じたまま小声で、囁くようにこう言った。


「…母さんもね」



その頃、晴香を残して食堂から出た茜と瑞希の2人は、気ままに建物の中を歩き回っていた。


途中、茜が瑞希に訊く。


「瑞希ちゃんは、これからどうするのかしら?」


すると、瑞希は悩む間も無く即答した。


「私は、新しい学校を探します。流石に中学は出ないと…」


「あら、中学中退っていう肩書きも、案外清々しいわよ?」


「そ、そうですか…」


茜の言葉に困惑する瑞希。


そこに、大量の書類やファイルを抱えた有紀奈と、その後ろに居る優子が現れた。


「中学中退…ねぇ」


「あら、ごきげんよう」


「…茜、話があるわ」


「私には無いけど」


「…いいから来て頂戴」


茜を引っ張って連れて行く有紀奈。


「瑞希ちゃんは、私とお茶でもしましょ?」


「は、はい…」


瑞希は困惑しながらも、優子に付いていった。



「…話って?」


有紀奈が茜を連れて入った部屋は、人気の無い倉庫のような場所だった。


「…実は、私とは違う部隊の隊員が、あの町の地下を探索していたの」


「それで?」


「地下でも患者が発見されたのよ」


「…つまり?」


「…飲み込みが悪いのね。被害が拡大する可能性があるのよ」


有紀奈はそう言って、抱えていた書類を机の上に置き、その中から何枚か抜き取って茜に渡す。


「地下で撮影された写真よ」


その書類には、盲目の患者や巨大生物など、和宮町にて遭遇した生物が写っていた。


「…地下から別の町に行き着く可能性があるって事ね?」


「えぇ。今その対策をしているけれど、思いの外数が多くてね…」


茜は書類を机の上に置き、腕を組んで壁にもたれかかる。


「何も終わっちゃいないのかしらね」


「むしろ始まりよ。…悪夢のような日々のね」


有紀奈がそう言うと、茜は静かに笑いながら倉庫を出た。


「うふふ…。終わりの始まり…って所かしら」


最終話 終




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