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Demonic Days  作者: 白川脩
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第18話


第18話

"最後の障害"


「2人共、一旦撃退するわよ!」


接近戦は危険と判断した茜は、ハンドガンを取り出して巨大生物に数発撃ち込む。


晴香と風香もそれに続いて、自分の銃を発砲した。


「やっぱりこれ、使いづらいなぁ…」


武司から貰ったショットガンを、慣れない手付きで扱う風香。


再装填の方法などは、武司の見様見真似でやっていた。


しかしそれでも扱う事ができている彼女の才能に、茜は感心する。


「そう言う割には使えてるわよ?」


「え?こういう銃って、先にナイフ付けて飛んだり跳ねたりしながら撃つんじゃないの?」


「うん…多分違うと思う…」


そんな中、巨大生物は意外にも、3人の一斉攻撃に怯んでいた。


「思ったよりも効いてますね…」


「撃退じゃなくて、撃破までできそうね」


余裕を見せる茜。


しかし、しばらく弾丸を撃ち込んでいると、風香がある事に気付く。


「死なないじゃん」


どこに何発撃ち込まれても怯むばかりで、巨大生物に倒れる気配は無かった。


「そんなハズ…」


茜がそう呟いた瞬間、それまで3人を見ているだけだった巨大生物が、ゆっくりと歩き始める。


「…逃げましょう」


茜は直感で危険を感じると、巨大生物を見ながら後退りを始めた。


他の2人も始めて見る茜の表情に、尋常ではない恐怖を覚える。


「風香…急いで…」


「わかってる…」


2人は思わず小声になった。


巨大生物との距離をゆっくりと後退りで離した後、振り返って一気に走り出す3人。


巨大生物も、それを追い掛けるように走り出した。


後ろから追ってくる足音に気付いた晴香は、恐怖心に突き動かされるように足を速める。


「いや!来ないで!」


その時、走っている茜が突然振り向いて、素早く巨大生物の両足を撃ち抜いた。


その場にひざまずく巨大生物。


そして、茜は巨大生物に向かって走っていき、顔面に膝蹴りを放った。


「今の内よ!」


巨大生物が倒れている隙に逃げる3人。


しばらく走り続けてから後ろを振り向いてみると、巨大生物の姿は消えていた。


「逃げ切った…?」


しかし、そんな風香の言葉を裏切るかのように、近くの建物の屋根から巨大生物が飛び降りて現れる。


「う、上から!?」


道を塞がれ、うろたえる晴香。


巨大生物が目の前に居る晴香の頭を目掛けて、爪を横に振る。


晴香はそれを間一髪で後ろに避けた。


しかし、その直後に巨大生物が放った裏拳のような攻撃に直撃してしまい、為す術もなく転倒してしまう。


そして巨大生物は、倒れている晴香の頭上に爪を振りかざした。


「お姉ちゃんッ!」


風香が何とか攻撃を阻止しようと走っていくが、距離の問題で間に合わない。


振り下ろされる爪。


晴香は必死に横転し、巨大生物の爪を何とか避ける事ができた。


しかし、彼女が立ち上がる前に、巨大生物が再び爪を振りかざす。


晴香がもうダメだと目を閉じた、その時だった。


「そこまでよ」


何者かの声が聞こえた後、1発の銃声が響き渡る。


それと同時に、巨大生物の眉間に風穴が開いた。


「…え?」


晴香は目の前で起きた事態を飲み込めずに、ただただ巨大生物に開いた風穴を見つめていた。


「喰らえ!」


風香が全力疾走の勢いを生かして、巨大生物の背中に跳び蹴りを放つ。


そして巨大生物が転倒した隙に、素早く晴香を抱き起こしてその場から離れた。


「クイーン、手伝いなさい」


「あら、死んでなかったのね」


合同庁舎の中から現れたキングが、デザートイーグルを構えたまま巨大生物に向かって歩いていく。


「私が死ぬと思ってたの?まぁ、ここまで来るのに疲労でぶっ倒れそうだったけど」


「ぶっ倒れて良かったんじゃない?」


「辛辣ね。彼女を助けてあげたのよ?だから…」


キングはそう言い掛けて、立ち上がろうとしていた巨大生物の頭に銃弾を撃ち込んだ。


「感謝こそされど、恨まれる筋合いは無いわね」


「その件に関しては感謝するけど、どうして彼女を助けてくれたの?」


茜が怯んだ巨大生物を蹴りつけながら、キングにそう訊く。


すると彼女は、質問に答えずに巨大生物に目を向けた。


「とりあえず、こいつを仕留めるわよ」


「…ふーん」


2人はそこで会話を止め、巨大生物に向かって歩いていく。


「そういえば、あなたは銃が無いと戦えないんだっけ?」


茜が横目でキングを見ながら、嫌味っぽくそう言う。


それを聞いた彼女は、銃をしまって指を鳴らしながら不気味に笑った。


「あなたには負けないと思うけど?」


「へぇ。空手か何か?」


「我流よ」


「我流…ね」


悠然と歩いてくる2人を見て、巨大生物は少し恐怖を感じているようにも見えた。


しかし、それでも爪を構える。


「互いに意見が一致したわね」


キングが目を瞑って首を回す。


「えぇ。始めましょうか」


茜はその隣で、右足を前に出す戦闘用の構えを取った。


2人に飛びかかる巨大生物。


2人は振りかぶられた爪を容易く避け、巨大生物の背後に回る。


「(まずは動きを見たいわね…)」


「(さて、どう切り返すのかしら?)」


背後を取った2人であったが、攻撃を入れずに様子を見ていた。


巨大生物は2人との距離を離しながら振り向く。


「(攻撃せずに後退…)」


「(見かけによらず慎重ね)」


次に2人は、こっちから攻撃を仕掛ける事にした。


巨大生物に向かって走っていく茜。


巨大生物はそれを見て、迎え撃つように爪を構える。


そして攻撃が届く範囲まで近付いた途端、爪を槍のように突き出して来た。


茜はその攻撃をスライディングで避けて、巨大生物の足元に潜り込む。


巨大生物が反応して下がろうとした瞬間、キングが背後からダッシュしてきて、軽くジャンプをした後延髄を膝で蹴りつけた。


更に、前のめりになった巨大生物の顔面を、茜が下から蹴り上げる。


そして、完全に平衡感覚を失った巨大生物に、キングが勢いよく背負い投げを決めた。


茜がそれを見て、髪を掻き上げながら訊く。


「…柔道?」


「我流よ」


「嘘つけ」


投げられた巨大生物がゆっくりと立ち上がる。


そして、身構える2人に背を向けて、4人の前から姿を消した。


それを見て、キングが呟く。


「また逃げるのね」


「また?」


「屋上で戦っている時、突然飛び降りて逃げていったのよ」


「ふーん…」


「何か言いたそうね」


「嫌われ者は、誰にでも嫌われるんだなって思っただけよ」


「…ほざいてなさい」


そう言い捨てて、巨大生物が消えていった方向に歩き始めるキング。


「待ってください!」


それを、晴香が止めた。


「…何かしら?」


「お名前…訊いても良いですか?」


「どうして?」


聞き返されて、困惑する晴香。


「えーと…」


「…明美、とでも呼んで」


「あ、明美…さん?」


「そうよ。…じゃあね」


「ま、待って…!」


歩き始めた明美が立ち止まり、振り向いて晴香を見る。


「まだ何か訊きたいの?」


「…どうして私達を助けてくれたんですか?」


晴香の質問に、明美は初めて見せる明るい表情で答えた。


「一日一善、ってね」


「え…?」


「それだけよ」


再び歩き始める明美を、晴香は止めようとしなかった。


見えなくなるまで彼女の背中を見つめる晴香。


その後ろで、茜が腕を組みながらこう呟いた。


「あいつ、明美って言うのね」


「知らなかったの?」


「えぇ。誰1人、本名を名乗った人物はいなかったからね」


風香の質問に答える茜。


明美の姿が見えなくなると、晴香が2人の元に戻ってくる。


彼女は笑顔だった。


「あら、嬉しそうね」


「えへへ、そう見えますか?」


「えぇ、とっても」


晴香はそれ以上何も言わずに、ただただ嬉しそうに笑う。


「さてと、危機は去った訳だし、とっとと脱出しちゃいましょう」


「完全に去った、とは言い切れないと思うよ」


茜を見ながら呟く風香。


それを聞いて、茜は溜め息を吐いた。


「…わかってる。奴は逃げただけで、まだ死んではいないわ」


「そうだよ。常に警戒しとかないと…」


「そうね。常に警戒しておきなさい」


茜はそう言って、突然風香に抱き付く。


「いや何で!?」


「警戒が甘いわッ!」


「離せコラ!」


その光景に慣れてきた晴香は平然と2人を無視して、明美が消えていった方向をもう1度見た。


「(明美さん…)」


晴香は彼女の笑顔を見た時に、親近感のような物を感じた。


「(また、会えますよね…?)」



その一方、明美は3人と別れた後、再び合同庁舎の中に戻っていた。


階段を登りながら、無線機を取り出す。


「私よ。来て頂戴」


『ご無事で何よりです、キング。用件は済んだのですか?』


「えぇ」


『了解しました。今、向かいます』


「ちょっと待って。"例の物"は?」


『言われた通り用意しましたが…、何に使うんですか?』


「いずれわかるわ。急いでね」


明美は無線機をしまった後、階段を一段一段登っていく自分の足を何となく見つめた。


「明美…」


そう呟いて、ポケットの中から一枚の写真を取り出す。


その写真には、彼女の妹が写っていた。


「ごめんね、あなたの名前を名乗っちゃった…」


溢れてくる涙を拭い、写真をしまう。


「でも許してね。あなたがあの事故で私を庇って死んだ日から、私の名前なんか無いんだから…」


彼女の独り言は、合同庁舎の中に寂しく響き渡った。



和宮高校屋上…


美咲と瑞希を乗せているヘリが、茜に指定された和宮高校の屋上に着陸する。


美咲はヘリから降りると、無線機を取り出して茜に報告を始めた。


「茜さん。こっちは到着しました」


『早いわね』


「今どの辺ですか?」


『まだ合同庁舎の近くよ。例のデカい奴に追われてたの』


それを聞いて、不安になる美咲。


「大丈夫なんですか…?」


『えぇ。何とか撃退できたわ』


返ってきた返答に、美咲は胸を撫で下ろした。


「よかった…」


『到着にはしばらく時間が掛かると思うから、気長に待っててね?』


「はい。お気をつけて」


『ふふ、ありがと』


美咲は無線機をしまい、ヘリの中に居る操縦士に状況を報告する。


「デカい奴と戦っていたから、到着するのは遅くなるみたいです」


「デカい奴?」


「多分、屋上に居た奴だと思います」


「本当に勝っちまったのか…」


思わず苦笑する操縦士。


「他の2人も無事なんですか?」


「うん。みんな大丈夫だって言ってたよ」


「そうですか…」


安堵する瑞希。


その時、美咲が背後に気配を感じた。


「………」


ゆっくりと振り向いて、気配の正体を確認する。


しかし、そこには何も見えなかった。


「気のせいか…」


そう呟いて一息ついた瞬間、何かが壁を登ってくる音が聞こえた。


「何だ?」


その音は操縦士にも聞こえて、気になった彼はヘリから降りる。


近付いてくる音に警戒する3人。


しばらくすると、眉間に風穴が開いた巨大生物が姿を現した。


「こいつは…」


操縦士はそれを見て、屋上で晴香達3人が戦っていた事を思い出す。


「死んでなかったのか…?」


「そういえば茜さん、撃退したって言ってました…」


「なるほど…」


ヘリの中からアサルトライフルを取り出す操縦士。


美咲と瑞希も、それぞれ銃を持って覚悟を決めた。


3人に向かって突進してくる巨大生物。


それを難なく避ける3人であったが、避けきった後に美咲が嫌な予感を感じる。


「(簡単に避けられた…。私達を狙ってない…?)」


予感は的中し、巨大生物は3人の前を通過して、ヘリに向かって走っていった。


「しまった、狙いはそっちか…!」


「ダメぇッ!」


美咲が止めようとする前に、巨大生物の爪がヘリを捉える。


あっという間に、一目見ただけで二度と乗れない事がわかるぐらいに破壊されてしまった。


「そ、そん…な…」


脱出の手段を奪われて、その場に崩れ落ちる瑞希。


しかし、悪い出来事は連続する。


「くそ…、ついでに俺達まで消す気だな」


ヘリを破壊し終えた巨大生物が、ゆっくりと振り返って3人を見た。


「戦うしか無いんですか…?」


目の前の圧倒的な恐怖に、美咲は思わず弱気になる。


「常に距離を取るんだ。接近されなければ攻撃が当たることは無い」


そう言って、操縦士は巨大生物に銃を構えた。


「散開しろ!纏まっていたら不利になるぞ!」


慌てて離れる美咲と瑞希。


3人は巨大生物を囲むように、それぞれ3方向に分かれた。


流石に3丁の銃での一斉射撃には耐えられないのか、巨大生物はかなり怯んでいる様子を見せる。


「効いてる…!」


瑞希がその様子を見てそう呟いた時、巨大生物にある変化が訪れる。


「何だ…?」


突然、怯まなくなったのだ。


ゆっくりと立ち上がり、正面に居る瑞希に向かって歩き始める巨大生物。


3人は休まず発砲を続けるが、巨大生物が再び怯む事は無かった。


「瑞希ちゃん!逃げて!」


美咲の声を聞いて、巨大生物を見たまま後ずさる瑞希。


彼女は、自分が今どうすればいいのかわからなかった。


「まずいな…!」


状況を危険と判断した操縦士は、急いで巨大生物の背中に向かって走っていく。


その姿を見ていた美咲は、再び嫌な予感を感じていた。


「(何だろう…。何かが変…)」


操縦士があと少しで巨大生物の背中に到達するという時、美咲は感じていた嫌な予感の正体を知り、声を上げる。


「待って!そいつの狙いは…」


彼女が言い切る前に、巨大生物が素早く振り向いて、走ってくる操縦士の腹部に爪を突き刺した。


「なっ…!?」


突然、自分の腹部に激痛が走る。


操縦士はしばらくの間、何が起きたのかを理解できなかったが、地面に流れる鮮血を見て自覚した。


「やら…れた…な…」


状況に似合わない苦笑を浮かべる操縦士。


巨大生物は爪に突き刺さっている彼を、そのまま屋上から放り捨てた。


「いやぁぁぁッ!」


泣き叫ぶ瑞希。


美咲もその光景を見て、かなり動揺していた。


「嫌だ…もう嫌だ…!」


自暴自棄になった美咲が、銃を構えて引き金を強く引く。


その時、彼女の銃に滅多に起きない事が発生した。


薬莢が詰まり撃てなくなる事態、排莢不良である。


「っ…!?」


素手で詰まった薬莢を取り出そうとするが、発射直後の薬莢の熱さに驚き、反射的に手を引っ込める。


「熱ッ!何なのよ、もう!」


しかし、そんな事態に出くわした彼女は、逆に冷静になる事ができた。


「(落ち着け私。乱射したって勝てる訳が無い…)」


そして、瑞希を見てある作戦を思いつく。


「(勝たなくていい。生き残りさえすればいい…!)」


心の中で自分に言い聞かせるようにそう呟いた後、アサルトライフルを手で叩いて詰まっている薬莢を取り出す。


「(この弾詰まり、私を落ち着かせる為に冴島さんが起こしてくれたのかな…?)」


そして銃を構え直して、美咲は小さく笑った。


「(なんてね…)」


第18話 終




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